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10章 魔法少女と王都訪問
310話 魔法少女と王都
しおりを挟む「帰ったか。」
馬車に戻ると、フィリオがそう声をかけた。ロアもネルも、もちろんツララも元気そうだ。
流れ弾とかあるんじゃないかって思ったけど、まぁ杞憂だったね。
フィリオに「じゃあ向こうも伝えてくる」とだけ言い、指輪をひとつ置いて馬車を降りる。
あんな危ない奴がいたところに、みんなの安全を考えて1秒でもいたくないので、迷わず転移石を使う。
「あべらふぅっ!?だからなんで膝に来るんです?!そっちがそうならわたしもホールドし……」
「そういうのいいから。」
ヒョイっと膝から降り、御者さんがいる側の壁が扉になっているのでそこを開ける。
「もう終わりました。すいません、手間取らせちゃって。」
謝り、そのまますぐ転移で戻る。認識阻害ローブを着ていたので、戦闘を見られることはなかった。声もなんとか音波で防げていたようで、安心だ。
「はい、戻った。」
「いきなり来るのはやめろ。心臓に悪い」
「無理だって。そんな機能ない。」
なんて話してると、早々に馬車を出発させ、フィリオが「昼までには半分進まないとな」と言っていた。
夜は危険だから暗くなったら走れないらしい。馬の体力的なのもあるらしいし、今日行けるだけ進まないと、ってこと。
とりあえず、暇になった。
なので、兵器の改造や魔力を練る練習でもしようかなととりあえずラノスを出す。
「ソラお姉ちゃん。気になってたんだけど、その黒いもの、なに?いつも持ってるけど。」
「え、見られて……」
「主の武器。すごい。ドンってなって、バン!あたしも見たけど、すごかった。避けれない。」
ツララが手振り身振りで説明する。すごいってことを伝えるためか、手を大きく振り回してるから、めっちゃ危ない。
ツララ、ねぇツララ?フィリオがすんごい顔して私を睨んでるんだけど、見えてるかな?保護者責任とか負わせれてんの?私。マジですか?
説明するから、と言ってツララの手を下げさせた。横の窓を開き、ラノスを構える。
「これはこういう風に……あっ、耳塞いでて。」
パァァンッ!移動しながらだから、空間伸縮がうまく効かなかったけど標的なんていないし大丈夫。
ふぅ。窓枠をぶっ壊すことにならなくてよかった。
実はそれが1番不安な点だったけど、上手くいったのでオッケー。内心冷や汗を垂らしていたので、心の私は拭き拭きと拭い去る。
「ファイボルト……炎と電気の魔法で突然の大規模な燃焼と電磁加速を合わせた……分からないか。まぁ、魔法を使ったすごい武器って思っといて。」
「はい。……ソラお姉ちゃん、こんなのも作れるんだ……」
「主はすごい。流石主。」
「似たような武器は外国でも使っているそうですが……そのようなものは、私も見たことありません。」
子どもーズが褒めてくれる。自尊心メーターがものすごい勢いで上昇する。
「他国の兵に利用でもされたらたまったものじゃないな……ソラ、間違えても譲渡なんてするなよ?」
「しないよ。」
一気に現実に引き戻される。フィリオは、やっぱりフィリオだった。
何はともあれ、改良だ。
今のラノスははっきり言って地球の銃とは程遠い完成度だ。あるのは魔法による威力。
銃の構造もうろおぼえで、つけたのはマガジンが装填できる部分と、引き金を引くと薬莢の魔力が燃焼して爆発する仕組みだけ。
もっとしっかりした構造にしないと、魔力循環の効率とかも悪くなる。多ければ多いほど、速ければ速いほどいい。
「主、飽きるの早い。」
「うるさいなぁ。考えても構造なんて浮かばないもん、仕方ないじゃん。」
いきなり手元にはラノスではなくレフがいた。そのレフに、光の貯蔵効果をどう付け足そうか考えてた。
ラノスはあのままでいいや。私に難しいのは無理だ!外国に銃みたいなのあるって言ってたよね?私はそれでも見て真似る!全ては真似から始まるのだ!
それから途中で昼休憩が始まり、テレスさんが腕を振るったり、百合乃が襲ってきたりで色々あったけど、これという事件はなかった。平和で何より。
昼休憩が終わったら、暗くなるまでひたすら走る。私は魔力回復のために改良は切り上げ、会話でもしていた。
ネルが話を聞き、私が答える。ロアが反応して、ツララが自信たっぷりに私を褒める。そんなローテーションだ。うまいことネルがロアやツララにも言葉を回してるため、途切れることはなく続いていった。
もうなんの話から始まったかなんて分からなくなった時、フィリオが教えてくれる。
そして思った。
「ネルとフィリオ、マジやばくね?」
「何がですか?」
「何かそう思うことでもしたか?」
訝しげに私を見る。その点で言うと2人はそっくりだ。
ネルは会話を途切れさせず、元の話から完璧に意識を逸らさせ、さらに好印象まで与える話術。
フィリオはいくら続いても元の話を見紛えず、指摘できる。
攻めのネル、受けのフィリオ。鉄壁城塞に高火力砲台を設置してるようなものじゃん。
「ツララ、ロア。2人が領主とその後継っていう理由がよく分かったよ。」
「ソラさん、1番凄いのはお母様ですよ。」
「フェロールさんが?」
首を傾げる。
フェロールさん…………?まぁ、確かに。なんか魔性の魅力というか、話してると問答無用にペースを持っていかれる感じが……
「国外での会談や交渉はお母様、国内がお父様。それがブリスレイの方式です。私は、お母様の血を受けたんでしょうか?」
「そんなこと言わなくていいだろう。」
フィリオがネルの頭を撫でようとして、「そろそろそのようなことはやめてください。立派な学生になるのですから」とお淑やかに微笑んで止めた。
「…………」
フィリオは、すごく悲しそうな目で私を見た。
知らないよ、そんなの。
「確かお父様は、初めてお母様が丸め込めなかった人だったとお伺いしていますけど、お父様?そうなんでしょうか?」
「まぁ……概ね。」
「含みがある……」
根掘り葉掘り聞こうと思ったけど、なんとなく理由は察したのでやめておいた。
傷口には触れないであげよう。私の慈悲だよ。
その後はまた変わり映えのない景色。日も暮れ始め、魔物が少し道に現れてきたけど、軽くギルを飛ばして核石だけ回収しておいた。
暇な時間には銃弾と爆弾を作り、ギルに小型収納機能をつけた。これでドロップ品も回収できる!
夜になると、百合乃がご飯を作っていた。その辺の食べれる野草を香り付けにしてたけど、肉の臭み消しになるらしい。保存肉は独特な匂いがするしね。
食材生成?そんなの旅行には邪道だよ。
夜は私と百合乃が交代で見張った。ギルで偵察をしたり、百合乃が未来を見たり……したけど、2時間で飽きた。盾と音波機で簡易結界を張り、寝た。
翌日怒られたけど、一応弁明はした。セーフだ、セーフ。
軽く朝食を摂り、レッツゴー王都!
「あとどのくらい?」
「子どもじゃないんだ、黙って景色でも見ていろ。」
フィリオはいつも通り辛辣。異常なし。
「ツララ、舟漕いでないで起きて。」
「ん。主、あったかい。」
「ローブ入るのやめて?」
これもいつも通り。
「ネル様、王都ってどんなところですか?」
「パズールとは違い、高く大きな建物がたくさんあるということは知っています。それに、他国からの仕入れ品も多いと。」
旅行テンションか、2人が仲良さそうに喋ってる。間に入るのは予想と思い、ツララの頭を撫でて窓の外を見た。
「ギル、ちょっと行ってきて。」
昨日の夜、更に認識阻害の工夫を行ったギルが空を飛ぶ。間違って迎撃される心配もなし。やったね。
逆に何も見えないのに空中から爆破弾が降り注ぐ凶器兵器の完成でもあるけど。
ある程度飛ばす。魔導法から視界のリンクをし、脳に直接入ってくる光景を眺める。
「ぉ…………」
すごい景色だった。これが多分、王都。
アニメとかでよく見るけど、王都ってこんなに……東京とか行ってもこういう気分なのかな?
ギルからでも外壁が全て見えない。巨大で立派な外壁の中には、高層ビルとは程遠いけど、それなりに高い建設物がたくさんあって、中でも中央に聳える謎の建物が……
「何をにやけてる?」
「あ、いやなんでも……」
私が怪しいのはいつもだからなのか、無視される。こっそり窓からギルを回収し、とりあえず待つことにした。
よし、3泊4日の旅行、満喫してやるぞ!
心の私は、拳を振り上げた。
———————————————————————
次回から王都観光です。この回は兵器の調整や休憩を兼ねて用意したものですが、割とかけました。途中急ピッチになったのはそのせいです。
私も書くのがめんど……こほん。大変でしたので、スリムにするためにダイジェストにしました。
やっぱりネルはすごかった。
ちなみに私、ネルは好きなのになんで王都の学校に通わせようかと思ったのか、未だに謎です。
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