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10章 魔法少女と王都訪問
304話 ロア奮闘記
しおりを挟む———これは、少女ロアの誰にも知られぬ陰のお話———
肩まで伸びる明るい黄土色の髪を振り、街中を歩く少女がいた。どこにでもいる、可愛らしい少女。名はロア。
少し不安そうな面持ちで帰路へついている途中であり、その原因といえば1つ。魔法少女の無茶振りである。
どこぞの魔法少女が、たった9歳の子供に『テレスさん&ネトラーさん再婚大作戦』の一部を話してくれとの注文があり、期限はすぐそこに迫っている。
時間が時間なだけに、早くしなければ面倒が増える。
「……話せるかな?」
頭を振る。自問自答を心で繰り返し、話すという結論に至る。
「で、でも今日はお仕事の日だし、明後日は定休日だし、たくさんあるよね……?」
話す機会を先延ばしに考え……もう1度頭を振る。なんの偶然か、ロアの周りに人はいなかったのでその奇行が見つかることはなかった。
「サキはソラお姉ちゃんのところに行くって言ってたし、私はお家の掃除でも……」
理由をつけて逃げた。
ロアに勇気はなかった!
それはそうだ。突然7日休みで社員全員で王都へ行くと伝え、2人には更に2人の雰囲気を更に良くしなければならない。
ロアの双肩には、とんでもない重荷が乗せられていた。
「とりあえず、掃除です。」
結局その日は逃げに回り、テレスが家に帰るまで入念な掃除をしていた。
よくあるだろう。テストが面倒で掃除を始めたら、いつの間にか時間がなくなっているあれだ。
やろうと思っても、大きな目標という名の壁がロアを阻んでいた。
決して、面倒なわけではない。最初の例えは言葉の綾だ。
「なんか家が綺麗に……?これをロアが?」
と、テレスは驚きを露わにしていた。
そうして1日が終わった。今日からちょうど1週間後は旅行。
そして、本日の成果は掃除の完了。
1歩、前進した。……はずだ。
「明日こそは、明日こそはっ!」
ベットで1人、決意を固めた。
翌日。
カランカランッ
「いらっしゃいませー!」
制服を着たロアが、笑顔を作って接客をする。手にはトレイと、アイスクリーム。この店で特に人気の商品だ。
(なんで私、お手伝いなんてしてるんですか!?)
心のロアが、もじもじしながら大声を上げる。
「ご注文は?」
「この、ホットサンドとコーヒーを。アイスでお願いします。」
「あ、俺も。」
「私もー!」
「私は、この『すとろべりぃ×みっくすアイス』とこの『キャッツルバーガー』を。」
商品名を読み上げた客。
「はい♪」
戸惑いなく返事をする。
(はいじゃないです!)
鋭いツッコミ、ただし自分には届かない。
最近導入されたメニュー表。
手書きではあるものの、ネトラーデザイン、商品命名ティリー(一部魔法少女の入れ知恵。)、文字担当レインの豪華編成により高クオリティーの作品となっている。
それを複製念写したのは、今は魔法の使えない魔法少女だったり……
閑話休題。
ロアがカフェにて接客をしている理由は、尋ねなくても分かる。定休日の前日、その昼前。明日開店しない分、早めの昼食を摂りにきた人達だホールは溢れかえっている。
とても4人で調理片付け接客その他を凌げるような状況ではない。
現在ティリーは部屋でダウン中。先は家で留守番中、そこで話をしにしたロアがちょうどよく現れ、現在に至る。
「丸テーブル、ホットサンドとアイスコーヒー3、ストミクとキャッツル1です。」
「ありがとうね、ロアちゃん。手際良くて助かるわ。運ぶのは重いでしょ。私がやるわ。」
今日の本命の1人、ネトラーがにこやかに笑みを浮かべる。母性に溢れた聖母のような人だ。
この人が母に、と思うとなんだか感慨深くなるのと同時に、自分がしっかりしなければその幸運は離れていく可能性があるということに責任の重大さを感じた。
そんなことしなくとも魔法少女がどうとでもしてくれるだろうが、ロアは自分でやりたかった。自分の家族のことなのだ。
自分でやらなきゃ、嘘だ。
……しかし。
「注文いいですかー?」
「はっ、はい!」
今は仕事で手一杯。その後、休憩の時間にティリーの部屋で冷たいジュースを飲んで疲労で眠った。泥のように倒れ込み寝るのは、少し気持ち良かった気がしたロアだった。
目が覚めると、そこは家のベットで外は暗かった。夕方前に寝て、今起きる。睡眠時間にしては適切だが、時間が時間だ。
今旅行のことを伝えるわけにもいかなければ、眠ることもできない。
「私、どうすれば……」
オロオロとリビングをうろつき、椅子に腰掛ける。
「ロア、こんな時間にどうした?」
「おっ、お父さん……」
テレスにバレたようだ。うっかり寝てしまった後、運んだのはテレスだ。寝すぎが体に悪いことは、彼もあの不安定な時期で思い知っていたので、咎めはしない。
「昨日から、少し様子が変じゃないか?休んだ方が……ソラさん絡みか?何か手伝えることは……」
「あのっ!」
心苦しくなった。
心が優しいからこそ、辛くて悲しくてきつくて、分かってるのに酒に溺れ、分かっていることを年下に叱られる。屈辱的だったはずだ。
そんな経験を経て、逆上することなく元の優しい父親に戻ったテレスの、その愛情を前に。
「実は、5日後に旅行をソラお姉ちゃんが考えてて、もう休みも取って行く準備もしてるの。サプライズでって。」
「ソラさん……また突拍子もないことを……」
薄く笑って、続きを促す。
「最近ネトラーさんと仲がいいからって、ソラお姉ちゃんが、その、…………もっとって……」
恥ずかしそうにロアは俯く。そういう話をする相手もいなければ、そうなる相手もいない。免疫がなかった。
それでも言った。それがテレスに対する誠意。
「ははは……バレてたか……」
テレスは恥ずかしそうに頬を掻く。あからさまにそう見せてるのは、それもまた優しさか。
「その、頑張るからって……」
「分かった。準備する。行き先はどこって?」
「王都って……」
「え。」
————————————
おまけ 『殴殺少女』
近隣の森に出るという凶暴化したモノパージ。その遺体を調査したいという王都の学園にそれを送るため、討伐してほしいという依頼が立った。
ランクは推定C以上。依頼数は3つ。それなりの数が必要とのことで、3組の冒険者が依頼を受けられる。
森を歩く、ただの上がりたてほやほやCランク冒険者の青年もその依頼を受けた人の1人。
森を彷徨う。慣れている森でも、探し物をしているとなると迷うこともある。
しっかりと目印をつけ、期間を確実のものにする。
ザザッ。音が鳴る。Cランクともなれば、それなりの実力が認められているということだ。
彼は警戒を怠らない。注意深く観察する。
———ウギャァァァァァァッ!
咆哮が轟く。これはモノパージのものだ。気を引き締め、武器を持って茂みに隠れる。
その先には目的の魔物、巨大なモノパージがいた。1人の少女と。
彼の頭には疑問符が浮かぶ。
襲われているのか?それにしては動揺がない。ではなんでこのような場所に少女が1人で?
少女の口が動く。
その瞬間、理解させられた。
一瞬で、モノパージの巨体から鮮血が四方に飛び散った。グシャリと鈍い音がここまで響いてくる。手に握られているのは何かの棒だろうか。
少女が笑うと、また血を噴き出す。もう意識はないのではないだろうか。そのまま少女が跳躍すると、腕を横に振るった。
それ以外視認することができなかった。
最後に見たのは、頭部が消滅したモノパージの遺体にその棒を振り下ろした少女の姿だった。
———————————————————————
殴殺少女、気に入りました。この本編には出しませんが、カクヨムとかに別作品で殴殺少女関連の作品を出したいです。
と言いつつ、絶対サボるので目標を決めましょう。目指せ、電撃文庫大賞応募!(不可能)
選考員の方々に迷惑しかかけない手法な気がしますが、頑張ります。
みなさん、できれば応援してくださればありがたいです。ところで、応募ってどうすればいいと思います?
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