魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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10章 魔法少女と王都訪問

301話 魔法少女は提案する

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 今日も平和な1日がやってきた。今日も今日ので私の左腕は無く、ベットから起き上がると同時に素早くローブを着る。

 だいぶ痛み始めた腕に顔を顰め、考えないようにと首を振る。

 あぁ……とてつもない安心感。
 なんか昔魔法少女服で過ごそうと決意をした気もしないでもないけど、やっぱ無理だ。

 そんな変な思考で、とうとう現れた幻肢痛を振り払おうとする。

「よし、今日は『突撃!フィリオの昼御飯』しに行く日かぁ。絶対約束を取り付けよう。」
グッと拳を握る。これもテレスさんのためだ。

 今日は百合乃……つれてくのやめるか。ここ数日働き詰めだったからね。

 そう思いながら、ここ数日の回想を入れる。


 家族会議を終わらせた翌日。そろそろ百合乃の冒険者業にも身を入れさせようかと、冒険者ギルドに訪れて依頼兼訓練をつけてた。

 ランク的に今できるのは探し物や薬草採取、高ランク帯の冒険者の荷物持ちなど、お手伝い的なことがメインだ。

 訓練も詰めて、歴戦の冒険者の方々の荷物持ちを選んだ。私はサポートとしてついていった。

 まぁ……そこで、色々あった。うん。それはまた後日、ね。

 そのままいつも通りに朝食を摂り、空気を吸いに庭に出る。クミルさんに挨拶し、畑も作ったというのにまだ何もないだだっ広い庭にて宙に浮く。

 重力操作の練習。いくらスキルになったからといって、簡単に使えるわけじゃない。
 あんなうんうん唸る必要がなくなっただけで、まだそれなりの集中は必要だし、魔力使用禁止ってのも痛い。

「兵器類は全滅、かぁ。」
手に馴染んだラノスを握ることしかできず、ため息を吐く。

 しかもあの戦いで結構兵器壊されたし。
 使ったやつは銃とか以外大抵壊された。

「作ってよかったスペア版。まぁ、結局作り直すのは変わらないけどねっ!」
重力の弾を撃ち込む。個には殺傷能力は無いけど、強制力を持つその弾。木にぶつかり、中程から消し飛ぶ。

 ……ごめん、嘘。訂正。殺傷能力の塊。そりゃね。物の真ん中に超重力当てたら、ね。
 人の体には、絶対当てないようにしよう。当てるとしても、超加減しよう。

 当てた場合、とんでもないスプラッタが行われる。封印しようかなとも思った。

「よし、そろそろ行こうかな。」
ツララの相手はいつも通り死神さん、ご飯はとりあえず百合乃に任せるとして、フィリオの家に直行する。

 流石に飛んでいくとかしないよ?それもう事件じゃん。飛行魔法少女発見されるって、朝イチの新聞に載るよ。

 そして程なくしてフィリオの家に到着。今度はコントのような門番は現れず、スルッと入ることができた。

 逆にそれは防犯的に大丈夫かとツッコみたい。

 そのままフィリオの元(今回は仕事部屋)に行き、テレスさんの話題抜きにかくがくしかじか話をして……

「ダメだ。そんな時間も理由もない。」
「えぇ……なんで?」
見事に断られた。

「領主なんて書類にハンコ押すだけでしょー。」
「もしそうだったら、誰がソラたちに止められるまでコーヒーを飲むと思う?」
「あー、確かに。」
目元に浮かぶクマ。ちゃんと寝てるんだろうか。

 ヒールかけてあげたいところだけど……魔壊病もあるし、不眠なんてヒールでも健康状態は良くなっても眠気は取れないよね。

 ヒールっていうのは、人の細胞の再生を早めてるだけなんだから。逆再生ができるわけじゃない。

「逆に聞きたいけど、領主って何してるの?家でどっしり構えて、いいタイミングで顔を出すぐらいしか知らないけど。」
「偏見がすぎるが、まあそういう領主もいるな。だが、それはそれだ。俺は本来の領主の役目を全うする。」
「ふぅん。」
両肘を机に当て、某エヴ○に乗れさんのような姿勢で言うフィリオ。

「で、質問の答えは?」
「色々だ。事務から現場まで全て。ソラの言う通りハンコを押すだけの仕事もあれば、金銭の配分や税の徴収等の最終確認、大きな話題や問題があれば実地へ赴く。」

「私、決めた。何があろうと領主にはならない。」
「大丈夫だ。ソラが領主になれる確率は疑いようもなく0だ。」
真顔で告げる。それはそれでうざいけど、領主に攻撃でもしようものなら1発アウトなのでやめる。

 そこまで理性は欠いてないし、ほとんどネタだし。
 私、あんな変な形したところに収監されたくないし。

「別にいいじゃーん!王都行こうよ~!」
「どこの我が儘娘だ。俺にこんな頭のおかしい子どもがいた記憶なんてない。」

「わーひどーい。領主が領民に頭おかしいとか言ってきたー。」
「せめて心を込めろ。」
少し煩わしそうな目で見てから、下を向いて作業に戻った。

 ……なにか手伝ったら連れてってくれるかな。
 私、今無職だから。王都にいけないもん。お金払えばいいだけだけどね。
 身元確認とか色々されそうじゃん?めんどそうじゃん?

「フィリオ、何か手伝えること……」
「ない。ここにあるのは全て、領主にしかできないことだ。見られて損があるわけでもないが、俺にしかできない仕事と言うのが多くある。」
眉間をつねり、ペンを走らせる。目が右から左へ、左から右へと忙しそうに動く。そりゃ疲れるに決まってる。

「百合乃も言ってたでしょ。休んでる分の時間がもったいないとか言うより、休めって。しっかり休んで万全で仕事したほうが効率いいって。」
「それが王都か?自費で行け。」
「ほらほら、観光しようよ。私護衛役やるし。」

「どうしてそこまでして王都に行きたい……?」
ついに核心に触れてきた。言うべきではないことは分かるけど、説得のために口を開く。

「テレスさんとネトラーさん。私の店の店長と従業員2人は、両方パートナーが亡くなって子持ち。辛い状況で働いて、ようやく幸せになりそうだから……私達で祝福したい。」
「……ソラにとっては重要かもしれないが、俺にとっては些細なことだ。俺からすれば、領民は等しく大切だ。1人2人に構える時間は……」
ない、そう言おうとしたところで扉が開く。

「お父様。転入願をお渡しに……ソラさん?」
ネルだった。数枚の紙束と封筒を持っていた。

「え、今転入願って……」
「ソラ、どうやら王都に行く理由ができたようだ。」
深いため息を吐いてペンを机に置く。

 え、えっ!?今何が起こってるの!?入学?どこに?しかも王都?

 落ち着け、落ち着くんだ私。コールにクール、クールにコールだ。

 ……ダメだこりゃ。

「ネルは今年の秋から王都の学園に転入する。ここから離れ、寮で暮らすことになる。」
「……え?」
「長期休暇が過ぎれば新学期だ。中等部に、ネルは転入する。」
突然のことで唖然とする私を置いて、フィリオはネルに紙を渡すよう言い、手に取る。

「………………………………」
フィリオが書類のチェックをしている中、私は思考の整理で手一杯になる。確認を終了させた頃には、私もようやく整理を完了させることができた。

 オッケー。つまり今年の秋、ネルは王都の学園に入学。そういうことだね。

 2行もいらない説明に、これだけの時間がかかる私ってなんだろと思わないどもないけど、これは仕方ない。うん。

「来週の今日、パズールを出る。ソラも行きたいなら合わせろ。」
「あ、うん。ってかネル、学園行くの?」

「はい、そうです。年齢的に初等部は諦めましたが、中等部、高等部は王都へ学びに行きます。でも安心してくださいね、専門部には入りませんから。」
「専門部?」
「とりあえず6年で帰ってきますということです。」
学園に入学するということしか伝わらなかったけど、とりあえず大丈夫。

「店を休むなら移動時間、観光時間諸々を加味して7日というところか。」
「流石フィリオ!最高!領主の鑑!」
「都合がいいな。」
ばんざーいばんざーいと、両手を挙げる。

 やったね。よく分からないけど、とりあえずやったー!

「……ん?ネル6年間も王都に行くの?」
「今そこなんですか。」
「放っておけ。」
そんなこんなで、無事交渉(?)成立。私は普通に帰宅した。その間領主が吐いたため息の回数は計り知れず。

———————————————————————

 ネル、王都の学園に入学するらしいです。これから当分寝るの出番はありません。可哀想ですが、ひとつのネタのために彼女には沈んでもらいます。

 いや、冗談ですからね?ちゃんと出番はちょいちょい出させてもらいますからね?
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