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10章 魔法少女と王都訪問
297話 魔法少女は挨拶に行く 1
しおりを挟む「とうとうわたしも冒険者ですか~。」
道を歩いていると、百合子が突然腕をグッと伸ばして呟く。
「え、なに突然。」
「ついこの間まで善良な日本市民だったわたしが、魔物と戦う可憐な美少女剣士に生まれ変わったことについての感慨です。」
「自分で言うな自分で。」
えへへぇー、とどこかにんまりとした笑顔で笑う。
「よし、目的も終わったことだし顔出しでもしようかな。」
「顔出しです?」
「まぁ、長いこと離れてたわけだし。冒険者としてどこか行くならいいけど、消えたわけだし。」
「なんでそんなの分かるんです?」
「門の外出履歴とか、ツララとかの証言じゃない?」
軽く会話すること数分。すぐに新しい目的地に着く。
ここも久しぶりな気がする。家作ってからそれっきりだったし……忘れられてないよね?
一抹の不安を抱きつつ、そこにある建物の扉を開く。
「いらっしゃいま……ソラ?」
「こんにちは、エリー。ちょっと顔出しついでにご飯食べにきたんだけど、いい?」
私がお世話になりまくった宿屋。エリーが忙しそうに接客対応していた。
なんかいい匂いする。昼時だし、人もご飯食べにくるだろうから当然と言えば当然だけど。
「お母さーん、接客代わって!」
「無理よ、調理が忙しいんだから頑張りなさい。」
「なので後でお願いします!」
「いや私も食べにきたんだけど?」
公私混同気味になってるエリーにツッコミ、いつもの席は取られていたので、端っこの2つある椅子に座った。
「ソラ、ご注文は?」
「すみません、メニュー表は?」
「ごめんなさい、うちはそういうのじゃないので……その日の両親の気分というか……宿屋なもので、ちゃんと料理屋はできてないんです。」
ペコリと軽く頭を下げる。百合乃は「へぇー」と軽く頷きながら、どうします?と私に聞いてくる。
そういえば私の時も注文とかほとんど取ってないのに勝手に出てきたなぁ……
美味しかったけど。
「焼肉定食大盛。」
「何言ってんの百合乃。」
「おかーさーん!焼肉定食いけるー?」
「あいよ、待ってて。2つでいい?」
「いけるんかい!……手間考えると2つのほうがいいよね。焼肉定食で。」
「はーい、焼肉定食大2!」
なんかめっちゃ調理側のことを考えた気もするけど、まぁいいやと割り切って出てくるのを待つ。
んー、こういう待ち時間って何したらいいか分かんないよね。私、いつも空いてる時間帯に食べてたから、慣れない。
ふとや周りを見る。周りの人は小麦かなんかで作られた球体が赤色?オレンジ?のスープに入ってるやつや、薄い生地に肉や野菜、その他諸々の入った餃子的なものまで色々あった。
特に気になったのは奥の席でボーッと棒状の何かをハムハムと食べてる人。ものも人も、両方気になる。
「お待たせしました。ソラ、話は昼休憩にしましょう。」
「ん、オッケー。」
「おぉ……美味しそう……」
百合乃が箸を手にした。この世界にも箸の文化は少なからずあるらしい。
パンばっか食べてるとこうなるんだよね。まぁいつもは自前の箸使ってるから何も気になんないけど。
ってか逆に、日本にあってこの世界にないとかおかしいし。
米とかだって、稲じゃん。それなりの気候なら育つでしょ。
麦が育てられて稲が育たないとか、どんな世界よ。
とかどうでもいいことを考え、私も肉に手を伸ばす。左腕ないから、ちょっと下品だ。
「んぅ!美味しっ!」
「空空、このソースって何入ってるとか分かります?」
「そんなん考えんでいい。」
料理人魂に火をつけた百合乃。目がガチだ。
「空?この謎生地のこれ、どうすればいいんです?……トルティーヤです?」
「多分……そうだと思う。付け合わせの野菜と食べるんじゃない?このソースもちょっと濃いし、スープと中和しながらさ。」
試しに謎生地に焼き肉と野菜をトッピングし、巻いてみる。ちなみに5枚あった。地味に大きかったので、一口は諦めて半口くらい食べてみる。
「おぉ?トルティーヤのようでそうじゃない……ちょっとパンチ強め?」
食べきり、少し濃い味が残った口の中をスープで洗い流す。薄いながらも旨味が伝わってきて、少し驚く。
「異世界飯、パナイです。」
百合乃も同じようにして食べており、口についたソースを指で拭き取っていた。
「焼肉定食に米以外が合うとは……」
「所詮は同じ大地の恵み……合う合わないもないってことです。」
百合乃は、ここに世界の真理を見たり!といったような表情でスープを啜っており、「あ、ダメだこれ重症だ」と感じて無視する。
「スープで味を相殺してくれるから、くどくなくて食べやすい……今度家でも真似しよっかな。」
「さっき考えなくていいっていってませんでした?」
「それはそれ、これはこれ。美味しいものは真似てみたい、ただそれだけ。」
無視してパクパクと食べる。腕の関係でセットに時間がかかるも、それだけの美味しさは十分あった。
「「ご馳走様でした。」」
「小銀貨2枚ね。」
そう言われたのでポケットから2枚取り出し、店を出る。
「あれ?昼休憩がどうとか言ってませんでした?」
「あ、確かに。」
しれっと店を出たので、今更戻るのもなんか恥ずかしいし、かといって帰れもしないのでその場をうろうろする。完全に変人だ。
「ソラー!なんで先に帰ろうとしてるの!」
腰のエプロンをなんとか外そうと足掻き、結局取らないので走ってきました感丸出しの格好でやってくる。肩で息をして、若干汗が見える。
「ごめんごめん。戻るに戻れなかったから……」
頬を掻いて明後日の方に視線をやる。太陽が、眩しいぜ。
「久しぶり、エリー。」
「……そうだね、久しぶり。」
軽く挨拶して、ちょっとの沈黙の後クスッと吹き出す。
なんか見ない間に大人になった気がする。私は体も心もほとんど変わらないけど。
自嘲混じりに体を見る。何もない。腕も。
「ソラ、何があったか教えてくれない?それに……触れちゃダメかと思って聞いてなかったけど、その腕とか。」
「やっぱ気になる?」
「そりゃあもちろん。仕事の休憩時間を潰すくらいは。」
「それは……なんか反応に困る。」
大事そうで大事じゃなさそうな例えを出してきたことに戸惑うと、エリーはこほんと仕切り直しを図った。
「気になるのは分かった。とりあえず驚かないで聞いてね?めんどくさくなるの確実だから。」
「うん。」
「過去に行ってた。」
「うん?」
「過去に行ってた。」
「……………うん。過去、ね。」
事前の忠告通り、なんとか驚かずに済む。流石接客のプロ。動揺はあっても、声は上げない。
「秘密でお願い。腕のことも詳しくは……ちょっとは話せそうもないから。」
主に私の命のために。その一言は頑張って飲み込んだ。
話したらあの人に地獄を見せられそうだからね……
「分かった。じゃあソラも、頑張ったね。」
「うん、また来るよ。」
「お待ちしてます。」
エリーは宿屋に走って裏口から中に入った。休憩時間まだあるはずだけど、混んでたから駆り出されたのかと思いながら、私も百合乃を連れて次の目的地に行こうと歩き出す。百合乃はルンルンだ。
「次はどこです?」
「ん、領主の家だけど。」
「え?」
ウキウキな表情が固まり、足が空中で止まった。
「百合乃、行くよ。」
とりあえず進んだ。
———————————————————————
焼肉定食。ただ私が食べたかっただけです。トルティーヤも食べたくなったので、適当にコラボさせました。
細かいことは調味料に任せます。
あと、金銭問題ですがその辺は訂正とかめんどくさすぎるので161話のあとがきをご覧ください。
ちなみにこれを書くために確認したところ、大金貨の部分が大銀貨と誤字っていましたので、どうぞ今一度おさらいのために161話を読んでみてください。
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