魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
318 / 681
10章 魔法少女と王都訪問

297話 魔法少女は挨拶に行く 1

しおりを挟む

「とうとうわたしも冒険者ですか~。」
道を歩いていると、百合子が突然腕をグッと伸ばして呟く。

「え、なに突然。」
「ついこの間まで善良な日本市民だったわたしが、魔物と戦う可憐な美少女剣士に生まれ変わったことについての感慨です。」
「自分で言うな自分で。」
えへへぇー、とどこかにんまりとした笑顔で笑う。

「よし、目的も終わったことだし顔出しでもしようかな。」
「顔出しです?」
「まぁ、長いこと離れてたわけだし。冒険者としてどこか行くならいいけど、消えたわけだし。」
「なんでそんなの分かるんです?」
「門の外出履歴とか、ツララとかの証言じゃない?」
軽く会話すること数分。すぐに新しい目的地に着く。

 ここも久しぶりな気がする。家作ってからそれっきりだったし……忘れられてないよね?

 一抹の不安を抱きつつ、そこにある建物の扉を開く。

「いらっしゃいま……ソラ?」
「こんにちは、エリー。ちょっと顔出しついでにご飯食べにきたんだけど、いい?」
私がお世話になりまくった宿屋。エリーが忙しそうに接客対応していた。

 なんかいい匂いする。昼時だし、人もご飯食べにくるだろうから当然と言えば当然だけど。

「お母さーん、接客代わって!」
「無理よ、調理が忙しいんだから頑張りなさい。」
「なので後でお願いします!」
「いや私も食べにきたんだけど?」
公私混同気味になってるエリーにツッコミ、いつもの席は取られていたので、端っこの2つある椅子に座った。

「ソラ、ご注文は?」
「すみません、メニュー表は?」

「ごめんなさい、うちはそういうのじゃないので……その日の両親の気分というか……宿屋なもので、ちゃんと料理屋はできてないんです。」
ペコリと軽く頭を下げる。百合乃は「へぇー」と軽く頷きながら、どうします?と私に聞いてくる。

 そういえば私の時も注文とかほとんど取ってないのに勝手に出てきたなぁ……
 美味しかったけど。

「焼肉定食大盛。」
「何言ってんの百合乃。」
「おかーさーん!焼肉定食いけるー?」
「あいよ、待ってて。2つでいい?」
「いけるんかい!……手間考えると2つのほうがいいよね。焼肉定食で。」

「はーい、焼肉定食大2!」
なんかめっちゃ調理側のことを考えた気もするけど、まぁいいやと割り切って出てくるのを待つ。

 んー、こういう待ち時間って何したらいいか分かんないよね。私、いつも空いてる時間帯に食べてたから、慣れない。

 ふとや周りを見る。周りの人は小麦かなんかで作られた球体が赤色?オレンジ?のスープに入ってるやつや、薄い生地に肉や野菜、その他諸々の入った餃子的なものまで色々あった。

 特に気になったのは奥の席でボーッと棒状の何かをハムハムと食べてる人。ものも人も、両方気になる。

「お待たせしました。ソラ、話は昼休憩にしましょう。」
「ん、オッケー。」
「おぉ……美味しそう……」
百合乃が箸を手にした。この世界にも箸の文化は少なからずあるらしい。

 パンばっか食べてるとこうなるんだよね。まぁいつもは自前の箸使ってるから何も気になんないけど。

 ってか逆に、日本にあってこの世界にないとかおかしいし。
 米とかだって、稲じゃん。それなりの気候なら育つでしょ。
 麦が育てられて稲が育たないとか、どんな世界よ。

 とかどうでもいいことを考え、私も肉に手を伸ばす。左腕ないから、ちょっと下品だ。

「んぅ!美味しっ!」
「空空、このソースって何入ってるとか分かります?」
「そんなん考えんでいい。」
料理人魂に火をつけた百合乃。目がガチだ。

「空?この謎生地のこれ、どうすればいいんです?……トルティーヤです?」
「多分……そうだと思う。付け合わせの野菜と食べるんじゃない?このソースもちょっと濃いし、スープと中和しながらさ。」
試しに謎生地に焼き肉と野菜をトッピングし、巻いてみる。ちなみに5枚あった。地味に大きかったので、一口は諦めて半口くらい食べてみる。

「おぉ?トルティーヤのようでそうじゃない……ちょっとパンチ強め?」
食べきり、少し濃い味が残った口の中をスープで洗い流す。薄いながらも旨味が伝わってきて、少し驚く。

「異世界飯、パナイです。」
百合乃も同じようにして食べており、口についたソースを指で拭き取っていた。

「焼肉定食に米以外が合うとは……」
「所詮は同じ大地の恵み……合う合わないもないってことです。」
百合乃は、ここに世界の真理を見たり!といったような表情でスープを啜っており、「あ、ダメだこれ重症だ」と感じて無視する。

「スープで味を相殺してくれるから、くどくなくて食べやすい……今度家でも真似しよっかな。」
「さっき考えなくていいっていってませんでした?」
「それはそれ、これはこれ。美味しいものは真似てみたい、ただそれだけ。」
無視してパクパクと食べる。腕の関係でセットに時間がかかるも、それだけの美味しさは十分あった。

「「ご馳走様でした。」」
「小銀貨2枚ね。」
そう言われたのでポケット収納から2枚取り出し、店を出る。

「あれ?昼休憩がどうとか言ってませんでした?」
「あ、確かに。」
しれっと店を出たので、今更戻るのもなんか恥ずかしいし、かといって帰れもしないのでその場をうろうろする。完全に変人だ。

「ソラー!なんで先に帰ろうとしてるの!」
腰のエプロンをなんとか外そうと足掻き、結局取らないので走ってきました感丸出しの格好でやってくる。肩で息をして、若干汗が見える。

「ごめんごめん。戻るに戻れなかったから……」
頬を掻いて明後日の方に視線をやる。太陽が、眩しいぜ。

「久しぶり、エリー。」
「……そうだね、久しぶり。」
軽く挨拶して、ちょっとの沈黙の後クスッと吹き出す。

 なんか見ない間に大人になった気がする。私は体も心もほとんど変わらないけど。

 自嘲混じりに体を見る。何もない。腕も。

「ソラ、何があったか教えてくれない?それに……触れちゃダメかと思って聞いてなかったけど、その腕とか。」
「やっぱ気になる?」
「そりゃあもちろん。仕事の休憩時間を潰すくらいは。」

「それは……なんか反応に困る。」
大事そうで大事じゃなさそうな例えを出してきたことに戸惑うと、エリーはこほんと仕切り直しを図った。

「気になるのは分かった。とりあえず驚かないで聞いてね?めんどくさくなるの確実だから。」
「うん。」
「過去に行ってた。」
「うん?」
「過去に行ってた。」
「……………うん。過去、ね。」
事前の忠告通り、なんとか驚かずに済む。流石接客のプロ。動揺はあっても、声は上げない。

「秘密でお願い。腕のことも詳しくは……ちょっとは話せそうもないから。」
主に私の命のために。その一言は頑張って飲み込んだ。

 話したらあの人に地獄を見せられそうだからね……

「分かった。じゃあソラも、頑張ったね。」
「うん、また来るよ。」
「お待ちしてます。」
エリーは宿屋に走って裏口から中に入った。休憩時間まだあるはずだけど、混んでたから駆り出されたのかと思いながら、私も百合乃を連れて次の目的地に行こうと歩き出す。百合乃はルンルンだ。

「次はどこです?」
「ん、領主の家だけど。」

「え?」
ウキウキな表情が固まり、足が空中で止まった。

「百合乃、行くよ。」
とりあえず進んだ。

———————————————————————

 焼肉定食。ただ私が食べたかっただけです。トルティーヤも食べたくなったので、適当にコラボさせました。
 細かいことは調味料に任せます。

 あと、金銭問題ですがその辺は訂正とかめんどくさすぎるので161話のあとがきをご覧ください。
 ちなみにこれを書くために確認したところ、大金貨の部分が大銀貨と誤字っていましたので、どうぞ今一度おさらいのために161話を読んでみてください。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...