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9章 魔法少女と天空の城
289話 軍服少女は限界を越える
しおりを挟む隔離された空間。死闘、と言うには一方的な攻防が繰り広げられていた。
わたしは空お墨付きのチートスキルで、なんとか堪えてる状況。帝龍さんは結構余裕そう。
「ほれほれ、どうした?先ほどまでの勢いはどこへ行ったのだ?」
煽りながら攻撃を誘われる。いけないと分かってても、わたしはそれに乗っかる。
「挑発にかかりやすいな。もっと訓練でも積んだらどうかの?」
「そんな時間、なかったです……」
胸にキツイ一撃を打たれ、肺から抜けた空気を大きく吸い、痛みに反射的に顔を歪めながら、ゆっくり吐く。
龍……わたしと、ここまで差があるんです?空に、銃まで作らせたこの力が、全然効かないなんて……
答えは分かりきってる。理不尽なスキルも、所詮はスキルでしかない。更に理不尽な身体能力で、圧倒されてる。わたしには、宝の持ち腐れだったみたい。
「木葉舞!」
「燃えよ。」
魔法陣が点々と浮かぶ。その全てが炎を吐き出し、わたしの進行方向を邪魔してくる。
「魔断、衝撃断!」
炎をかき消し、腕が痺れる。それでも無理矢理押し込み、サーベルの刃を届けようと必死になる。
「遅いっ!」
拳が振るわれる。帝龍のパンチは、わたしのサーベルにぶつかり、衝撃を消そうとスキルが発動する。なのに、手が震える。物理的に、震えてる。
なんで?スキルも効かないんです?
内心は慌てる。でも、外に出したら負けだって誰かが言ってる気がするから、ポーカーフェイスポーカーフェイス。
その状態のまま、なんとか左手を腰に回し、銃の弾を装填して発砲する。首を折って避けられた。
「なんで銃を避けるんです?!至近距離で撃ちましたよね!」
「動きが遅かったからな。ここらの魔力も、もう薄い。そろそろその攻撃も完封できたというだけだな。」
そう言って空に手をかざし、生まれたのは1メートル以上はある魔法陣。そして現れるのは、炎の恒星。
……もう、何を見ても驚く気がしません。そして、勝てる気がしません。
空ぁ!help me!
今は見えない相棒を、心で呼ぶ。来るわけないんですけど。
ここは自分で解決しないとダメです?こんな強敵相手に……です?
レベルが足りませんって追い返されるイベントじゃないんです?この敵!
頭の中で空が、「そんな元気があるなら余裕だね」とお尻を蹴ってきた。いやん。
「衝波衝波衝波!天震!天震っ!」
サーベルをあっちへぴょんぴょん、こっちへぶんぶんと振り回し、最終的には2本1対の闘気の剣、(たくさん)修羅双樹でギリギリ軌道を逸らす。その姿を見て、帝龍はくすくすと笑っていたので、向こうには殺意があるかどうか怪しく感じてきた。
こっちは殺意しかないですけどね!
謎の対抗心です。
「いい加減聞きたいんですけど、その魔法陣なんなんです?いきなり現れたと思ったら急に発動しますけど。」
「あぁ、龍法陣ことかの。安心せい、主には使えん。」
「何が安心なんです?!」
サーベルを叫び合わせて振り落とす。龍法陣とやらに受け止められる。鎖が出てきて拘束された。
くぅ、お決まりのワンセット……
磔ならぬ宙つけにされ、モジモジと浮遊した足元を動かす。
「拘束して、何するつもりです?まさか、羞恥プレイ?そうなんです?触手です?尻尾です?わたしは空以外は受け入れません!」
「我の目はおかしかったようだ。主の方が危険人物だった。」
遠い目でわたしを見つめる。なんだろう、そんな目するのやめてもらっていいですか?
なんです?まるでわたしがおかしいみたいな顔をして。わたしをいじめる気です?
空だったらここから漫才が始まるところだけど、この場合戦いが始まる。
「そろそろ我も飽きてきた。趣向を変えようぞ。」
龍法陣が開かれ、中から薄い赤を纏った剣が出てくる。
やったですね。これで負け率アップです。
思考がバグっていた。
「我も剣戟とやらをしてみたいのでな。ちなみに言っておくが、魔力が薄くなっているのはここが隔離空間であり、我がじゃんじゃん龍法陣を使っておるからだ。」
「やめてくださいよ!それはみんなの資源ですぅ!」
踏み込み、下段から攻める。左斜め下から上がったサーベルは、軽く横から剣で逸らされ、急カーブでわたしの首に飛んできた。
「ぶわっふぉっ!?」
変な声が出て、銃を発砲する。避けた。視認して、避けた。
「帝龍バグり過ぎぃっ!」
このままだと確実に死ぬ。この勢いだと、いくらなんでも寸止めは無理。
何もできない=死ぬ。死ぬ=空に会えない。空に会えない=本当の死。(?)つまりわたしは、どうやっても生きなければならないと言うわけです!
うぉぉぉぉぉ!と心の中で叫び、光速もかくやと思うほどのスピードが出た。出ちゃった。
ガキンッ!
「……根性のあるのはいいことだ。」
一瞬驚きの表情を浮かべた後、ニヤリと笑う。
……あんれぇ?わたし、防げちゃいましたぁ?
やったぁ!限界越せましたぁ!かと言ってスキルとかステータスとか増えてないんで特に何も変わりません!泣いていいです?
どっちみち、心は悲しいわたし。
「飽きずに済みそうで何よりだ!」
「そんな可愛い顔して狂人みたいなこと言わないでください!」
全員、頭がおかしいことが判明した。わたしはおかしいと思わないけど、客観的にわたしはおかしいらしいので、仕方なく割り切った。
わたしは他人の意見を取り入れられるいい女なのです。空も惚れること間違いなし!
「本気で来い!我も、本気を出そうぞ!」
ゴゴッと辺りの雰囲気が深く重くなる。翼が何かの圧力によって揺れ動き、それがこれから起こることの壮大さを物語ってるような気がした。
「もういいです!なるようになれ!」
断絶の構えをとる。空のおかげで温存できてたこれを、今使う時が来た!
限界を越えられたわたしには、出来ないことなんてない!わたしは空とイチャイチャするために、五体満足欠損ゼロで帰宅します!
事前に摂取した空パワー、尊値を力に変換し、見えない闘気とやらも漲らせる。よく分からないけど、尊値は感じる!
「本当に強大な力とは、地味なものだ。」
「そいやぁ!」
完璧に振り抜かれた帝龍さんの剣。鍛冶師が熱したみたいに真っ赤になったそれは、触れるだけでわたしなら命の危険があると思う。それでもわたしはサーベルを離さず、尊値をぶつける!
「「え?」」
数瞬後、2人で目を丸くする。今、わたしたちの首元には1本ずつ凶器があり、首元でピッタリ止まってる。
「何が起きてるんだ……?」
「え、わたしも知りませんよ。逆になんで知らないんです?」
「そうは言うてもな、我にも知らぬことの1つや2つはある。」
そう言葉を交わし、何が起こったか2人で振り返る。
「まずわたしの断絶が剣を斬った。」
「その後我が折れた剣でそのまま主に攻撃を与えようとした。まぁ、触れれば勝ちなのだからな。」
「わたしも断絶が切れた状態でサーベルを首に近づけて……」
………ん?あれ?前にも後ろにも動きませんね。
「主もか?」
「はい。」
その直後。
「え?もっと簡単に壊れてくれてもいい気がするんだけど。っちょ、片手きつ……」
声が聞こえてきた。最愛の声だ。
「空!」
「……龍神様!いや、託してくださったのか。彼女が、代わりかの。」
効果音をつけたら、ピキピキッ!とかなりそうだけど、空間に亀裂が入るだけで音は鳴らない。その後も気の抜けた声が聞こえてきて、聞こえてきて……何分か経った。
「遅いです!」
「黙ってよ!集中してんだから!」
周囲の景色が変わった。最初の景色だった。
「よし…………迎えにきたよ、百合乃。」
あの時みたいな、かっこいい空がそこにはいた。
———————————————————————
空さん登場ー!とりあえずなくなった左手は無視ということで。出したらちょっと面倒になりそうだったので2話後に延期です。
次回は空が龍神を殺した後、そして百合乃たちを助けるまで何をしていたか書くつもりです。
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