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10章 魔法少女と王都訪問
296話 魔法少女はニートになる?
しおりを挟む今ギルドには3人の人間が転がされている。1人は男、もう2人はバリバリではないけど軽くギャル感漂う女の子たち。
「ソラさん、いつも申し訳ありません。対処していただいてもらって。」
「別に。暴力沙汰になられた方が面倒だし、軽く往なしただけだから。」
ファーテルさんのお礼を受け取ると、男が喚き出す。
「魔法使いが、こんなに強いわけ……」
男が苦虫を1000匹くらい潰したような顔をし、睨みつけてくる。
「エースはこの俺だ!どこの街でもそうだった!お前なんかに負けるはずなんてないんだよ!」
「うるさいなぁ。そういうのは立ってから言って。」
そう。男は今、私の目の前で頭を床につけている。重力操作の賜物だ。
ほんと便利だよね、重力操作。
あ、ちなみにだけど重力操作と重力魔法は一緒だからね。スキルと魔法な違いなだけで、実質的には全く一緒。
こんな解説を挟めるくらい余裕な訳だけど、男は諦めない。
「イカサマだ!おい、お前らも見てるだろう!こんな魔法使い程度が俺を!聞いたことぐらいあるだろう!魯鈍のケイスを!」
キリッとした顔で言う。そして私は、笑いが堪えきれそうもなく「ププッ」と声が出てしまう。
魯鈍、魯鈍だってさ。ん~、意味分かってるのかな?
「なにがおかしい!」
「そうよ、かっこいいじゃない!」
「ケーくんが負けるわけないもん!」
「頭おかしいのはそっちだよ。魯鈍って意味分かってる?」
「強いってことだろ?」
「違うけど。」
バッサリ切って捨てた。違うものは違う。よくもまぁキメ顔できたものだ。
「ニュアンスは同じだろう!」
「いや全く。」
周りの冒険者さん達もおかしそうに顔を歪めながら、必死に笑いを堪えてる。ファーテルさんも、少しニヤついてる気がする。
「あんたの脳みそでも分かるように言うとね、愚か……じゃ分からないか。バカってこと。」
「なっ……」
「つまり、バカだからそう言われてるんじゃない?バカでよかったね、意味を知らないで過ごせてたんだから。」
「俺、この前の依頼でドリスに行ったんだけどなぁ、魯鈍のケイスのせいで没落した貴族があるって聞いたな。」
「あっ、わたしは農場の作物が一気に枯れたって聞いたよ?それも魯鈍のけいす?のせいなのかな。」
証言者2名。それから俺も私もと多くの人が話を語り出す。
「なんだよ!俺のこと勘違いしてるんじゃないのか?」
「そうだー!」
「そうだそうだー!」
「はいはい、寝っ転がるだけのバカは黙ってようねぇ。あ、ファーテルさん、この人反省の色無しでここ出禁ね。」
「まぁ……ここまで盛り上がってしまうと、私たち職員ではどうとも……」
ははは、と困り笑いを浮かべる。とりあえず無視で。
魔法使いは弱い魔法使いは弱いって、今更な設定出しちゃってさぁ。
強いもんは強いねんって話よ。まぁ今は使えたもんじゃないけど。
ステータスと重力操作で地に伏す男達を見て、すまんな。これ、魔法じゃないんだ、と断りを入れる。心の中でね。
「それよりソラさん……そんなことよりもっと重要なことがあるんですけど……」
「この方々は無視されるんですね……」
百合乃がようやく口を開いた。その時、ようやく男は百合乃に気づいたようで、視線を向けた。
「……ぉ、お前、そんな奴より俺たちと行かないか?楽しいぞ?」
「もう1周回って面白くなってきた。」
百合乃を口説こうという精神に心の中で拍手を送る。
「はん。魔法使い程度より、俺たちのほうがいいってよ。」
「いつどこでも誰もなにも言ってないんですがそれは?」
「目で分かるさ。」
「だって、百合乃。」
チラッと横の百合乃を見る。男も一緒に見る。
どこをって?胸部の脂肪の塊を。
「正直めっちゃキモいです。金輪際関わりを立ちたいレベルで気色悪いです。即刻星の栄養分になってほしいです。」
ちゃっかり死んでくれと頼んでいるところ、異世界に染まってきた気がする。
でもね、それを私の腕を掴んで言うのはやめようね。
文句が言えるタイミングじゃなかったので、口は噤んだ。
「じゃあ帰ってもらって。」
そう言って無視し、ファーテルさんの話に耳を傾ける。
なんか大切な話とか言ってたけど……何かあったのかな?
ちょっと気になるので、重力操作で男達全員の口を無理矢理閉ざした。
口を開けるなんて無謀だ。口の筋肉だけでダンベル100キロを持ち上げるようなものだからね。
「あの、重要な話って?」
「ソラさん、このままでは無職になります。」
「は?」
「無職です。」
「へ?」
「無職。」
「「えぇぇぇぇぇ!」」
なぜか百合乃も驚く。でも、私はそんなことなんて気にならずに思考が滅茶苦茶になるまで回す。
えっ、つまり冒険者引退?私どうやって稼ぐの?ちょっとキツ……
マジ?私ニート?えぇ……
茫然自失といったようになる。そこで、ファーテルさんはツンツンと肩をつつく。
「ただカードが無効となっただけで、データは残ります。ですので、それをバックアップすればいいだけです。ですが……」
「ですが?」
「ランクをそのままに、とはいかなくて……」
申し訳なさそうに頭を下げる。ギルドの決まりらしい。なので、少し落ち込みながらも頭を上げさせる。
まぁ無職じゃないだけマシかな。ランク低くてもまた頑張ればいっか。
お金は幸い、まだ残ってる。
「本当に申し訳ありません。それなりの成果を残している方には、ギルドの為になるからとランクは多少なりとも上がるので。私からも、交渉してみます。」
グッと強く手を握る。強く決心してる感じだ。
「あの?やりすぎなくていいですよ?」
「大丈夫です。普通はEランクに戻るのですが……Cランク、せめてCランクに……」
「ほどほどに……」
それ以上言えることがなかった。というより、言えそうもない。上がるなら上がるでそれはいいので、好きにしてもらうことにした。
「では、1週間以内には必ず。その間、依頼は受けられませんので、やってもいいですが、こちらとしては金銭等は渡しかねます。」
「うん。オッケー。とりあえず、こっちの子の冒険者登録したいんだけど、いい?」
「あ、はい!ソラさんの紹介の子なんて……またギルドが潤うかもしれませんね……喜んで!」
「本音出てますけど。」
そこはスルーされたので、仕方なく私も大人の対応というものをし、百合乃を前に出させる。
「ギルドの詳細な内容は?」
「大体は空から。」
「はい、では今回は省かせてもらいます。分からないことがあれば直接お尋ねしてもらっても構いませんし、ギルドカードからルール確認ができますのでそちらを使ってもらっても構いません。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、仕事ですから。」
そう言うと、テキパキと作業を始める。私を対応した時とはえらい違いだ。
それは私の謎格好が悪かったのかな?まぁそこはいいや。今は普通なわけだし。
その隙に、ハイテクな空中画面に文字を書いていく百合乃。
名前 ユリノ 年齢16 職業 剣士
こう書いていた。
「あっ、ギリギリですね。冒険者は、原則15歳以上ですので。」
「初情報!?」
「すみません……ソラさんには色々伝え忘れていて……できれば、ギルドカードをご覧になっていただきたいのですけど……」
「あぁ……」
居た堪れない雰囲気になったので、とりあえず大丈夫と声をかけておく。
「ありがとうございました、またのご利用を。」
ニコッとスマイルを浮かべる。こんな風にビジネススマイルができる人が、世渡り上手になれる人なんだなって思う。
何か忘れてる気がするけど……まぁいいよね。
———————————————————————
新章開始!
色々やった後王都に行こうとは思いますけど、プロットなんていう大層なものは持ち合わせていないので、即興となります。
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