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9章 魔法少女と天空の城
294話 魔法少女は事情を話す
しおりを挟む「ソラさんが帰ってきたというのは本当でしょうか!?」
大声を発して目の前にいるのはネル。白髪の女の子、まぁ領主の娘だ。
「ネル様っ、急がなくても、誰も逃げませんから……」
疲れた様子で後を追ってきた明るい黄土色の髪をした女の子。ロアが肩で息をしていた。
「いいえ、逃げます。ソラさんは失踪したばかりじゃないですか。私たちに何も言わず。」
「そっ、それは……事情があったから?」
「言い訳はいいです。」
ネルはピシッと言った。こういうところ領主の娘らしい。
いい教育してるね、フィリオ。あんな人使いの荒い領主の娘がこんな可愛いネルで。きっとフェロールさんに似たんだね。
一体何が起こっているのかというと、少し話を遡れば分かる。
簡潔に話すと、ツララが3人を連れてきてくれた。今の声量に合わず、まずネルが静かーに玄関の扉を開けて、ゆっくり廊下を歩いてこの部屋に来て、叫んだ。
その後にガチャッ!と玄関が開いてロア、後ろにサキが待機している状態だ。
そして今現在に至る。とっても簡単。
「それでは、ソラさんのお話を聞きましょうか。皆さんの分のお飲み物は淹れておいたので。」
隙を見計らって、机に3つの紅茶と3つのジュースを置いた。サッパリ果汁のレンの実だ。
レンの実って、レモンっぽいけどレモンに少し蜂蜜混ぜたみたいで甘いんだよね。
早く収穫すると酸っぱいらしいけど。まぁ、使い分けが大切ってことだね。
久しぶりの飲み物にワクワクするも、それはツララ、ロア、サキの子ども達用ということは分かっているので、普通に紅茶に手を伸ばす。
「ほら、みんな座って。1から説明するから。それまでツッコミは無し。話が渋滞するからね。」
ネルは仕方ないという風に素直に椅子に腰掛け、話を促す。
しっかり効率を考えられてる……子どもならもっとガンガンくると思うんだけどなぁ……
将来有望だ。
ロアやサキに久しぶりと一言声をかけ、ネルに「私にはなかったんですが?」と文句を言う。そこは譲れないらしい。
私は素直に「久しぶり」と声をかけると、満足そうに頷いて紅茶を飲む。
「美味しいですね、これ。茶葉の雑味が入らず、美味しい部分だけを上手く抽出できています。うちの使用人の中にもここまでできる方は少ないです。」
「そうでしょうか?お上手ですね。」
うふふ、と色気混じりの微笑みを浮かべるクミルさんは、どこからどう見ても19歳には見えない。
「当然のことを言ったまでです。美味しいものは美味しい。庶民であっても、貴族であっても、それは同じですから。」
ニコッと微笑む。負けず劣らずかわいい。
「はーい、みんな座ったね。」
「主ー。1人いない。」
「あー、あの人はまぁほっとこう。今は気分じゃないみたいだから。」
珍しく気まずそうな百合乃に視線を向け、慣れるのに時間かかりそうだなぁ、と思いながら前に向き直す。
「まぁまぁ、驚かずに聞いてくれたまえ。」
「ソラお姉ちゃん、口調おかしくないですか?」
「気にしない気にしない。」
ロアを宥め、とりあえず紅茶をもう1口。確かに美味しい。
私が淹れるとなんかザ・市販って感じの味なんだけどね。技術の差ってすごい。
「過去に行ってた。」
「「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」」
全員が頓狂な声を上げて驚く。
「よく分からないんだけど、あの日に突然過去のパズール近辺の森にいて、そこでいろいろ頑張ってたんだよ。」
「……それで、今日帰ってこられたということですか?」
自分で言っててよく分からなくなってきたようで、ネルの文末に疑問符がつく。
「まぁそういうこと。で、その現象が他にも起こってて、そこであっちで座ってる人と会った……というか、再会した。」
全員の視線が百合乃に向く。一瞬動揺したけど、私が来てと言ったらスタタッとやってきた。
「百合乃です、よろしくお願いします。」
ペコっとお辞儀をする。私はニッコリと百合乃を見つめる。
分かってるよね?『故郷の知り合い』っていう体、忘れてないよね?
そんな気持ちを込めておいた。
「空とは昔馴染みです。」
「そんな感じ。分かった?」
「分かりません!」
ネルは意味が分からないと疑問を打ち付ける。
「そもそも過去に行くなんてあり得ませんよ。どうやってそんな……」
「そういえばパズールって奴にもあってきたよ。」
「ご先祖様にですかっ!」
ネルがさっきから忙しない。
まぁロアみたいに硬直してない分いいけど。
そう考えながら、ボーッと百合乃を見つめるロアを一瞥する。
「あー、ネルはちょっと慕わないでほしいかなって感じ。」
「……ご先祖様は一体どんな方だったのですか?」
「ゴミクズが服を着てる感じ。」
「…………何故こんな平和な街が生まれたんでしょうね。」
「あー、とある立役者が2人いてね……」
「……?」
詳しい事情は伏せ、赤髪とオレンジ髪のですます姉妹を思い浮かべる。この街を見ると、よくやってくれたとお礼を言いたい。
「それで、色々あって左腕無くなって……」
「大丈夫っ!」
ツララがレンの実ジュースのコップを倒しながら跳んでやってくる。それを私はなんとか重力で防ぐ。
あー、どうしようこの混乱。どうにもできないんだけど。タスケテ。
私に抱きついて左腕がないないと騒ぐツララ、今まで慕っていた人物はなんだったのかと項垂れるネル、ボーッとしてるロアと百合乃、意外と静かなサキ。
チラッと見ると、サキもトコトコとやってくる。
「ソラお姉ちゃん、左のお手て、無いよ?大丈夫なの、ソラお姉ちゃん?」
心配そうにこっちを見つめる。咄嗟に思いついたのか、左腕に手を伸ばして「痛いの痛いのなくな~れ~!」と、さすさすする。
ぐっ、可愛い……頭でも撫でたいけど、撫でる手がない。右腕はツララに取られてるし。
そんな地獄絵図(?)を繰り広げていると、ロアが立ち上がった。
「ソラお姉ちゃん、すみません!サキが迷惑かけて…………こら、サキ。ソラお姉ちゃんが困ってるでしょ。」
「お姉ちゃん……だって、ソラお姉ちゃんの、お姉ちゃんの手がぁ……」
今度は泣き始めた。ぐすっぐすっ、と鼻をすする音も聞こえる。
「本当だ……痛くないんですか、ソラお姉ちゃん。」
「そんな心配そうな顔しないで。私なら大丈夫だって。ほら、笑顔笑顔。」
ニィーっとほっぺを引っ張る。「はにふるんですかぁ」とむぃーっと伸びた顔で言う。
「ツララもネルもサキも。みんな、心配しないで。ただ友達が増えただけで、特に何もないから。私は、ここにいる。」
「ソラさん……」
「主……」
「ソラお姉ちゃん……」
みんな私を見る。
「そうですよね。私たちがこんな顔してちゃいけないんです。笑顔でソラお姉ちゃんを出迎えてあげないと。」
「そうですね。何があった、どうしてそうなったなんで聞く前に……私には、やることがありましたね。」
そう言ってみんな黙りこくる。そんな神妙な雰囲気にするつもりは無かったのに、人生は上手くいかない。
「ソラさん、おかえりなさい。」
「「「「おかえりなさい!」」」」
全員が私にそう言う。その隙に、サキが百合乃の手を引っ張って、私の隣に立たせる。
「ユリノお姉ちゃん?も、これからよろしくっ!」
少し目元を赤く腫らしたサキがはにかむ。百合乃は少し面映くなったのか、頬を掻く。
「はい、よろしくです。サキちゃん。」
百合乃がニッコリ笑った。ここまで純粋な笑みは初めてな気がする。そしてみんなに視線を流し、最後は私の耳元に飛び込んだ。
「わたし、自重します。いいお姉ちゃんですから。」
さっきのサキと同じくらい大きく、そしていたずらっ子のようなはにかみに、ちょっと可愛いと思ってしまった私。
「これからよろしく。いいお姉ちゃん?」
冗談めかして言い返す。それからはいつも通り。楽しく、わいわいと喋った。クミルさんも、その日は珍しく泊まっていった。
———————————————————————
百合乃、まさかの自重発言!まぁ空と2人っきりの時はまた好き好き攻撃はしますが。
考えたんです。ロアやサキに飽き足らず、ネルにツララまでいて…………更にはお姉さん系美人たるクミルさんもいる。そんな中、こんなふざけキャラが入る余地なんてない!
そのため、少し真面目にさせていただく所存でございます。
ちなみに現在回は80話近く書いてないので、ロアやサキやツララの一人称は忘れました。そこのところ、覚えておいてください。
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