魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
314 / 681
9章 魔法少女と天空の城

294話 魔法少女は事情を話す

しおりを挟む

「ソラさんが帰ってきたというのは本当でしょうか!?」
大声を発して目の前にいるのはネル。白髪の女の子、まぁ領主の娘だ。

「ネル様っ、急がなくても、誰も逃げませんから……」
疲れた様子で後を追ってきた明るい黄土色の髪をした女の子。ロアが肩で息をしていた。

「いいえ、逃げます。ソラさんは失踪したばかりじゃないですか。私たちに何も言わず。」
「そっ、それは……事情があったから?」
「言い訳はいいです。」
ネルはピシッと言った。こういうところ領主の娘らしい。

 いい教育してるね、フィリオ。あんな人使いの荒い領主の娘がこんな可愛いネルで。きっとフェロールさんに似たんだね。

 一体何が起こっているのかというと、少し話を遡れば分かる。

 簡潔に話すと、ツララが3人を連れてきてくれた。今の声量に合わず、まずネルが静かーに玄関の扉を開けて、ゆっくり廊下を歩いてこの部屋に来て、叫んだ。

 その後にガチャッ!と玄関が開いてロア、後ろにサキが待機している状態だ。

 そして今現在に至る。とっても簡単。

「それでは、ソラさんのお話を聞きましょうか。皆さんの分のお飲み物は淹れておいたので。」
隙を見計らって、机に3つの紅茶と3つのジュースを置いた。サッパリ果汁のレンの実だ。

 レンの実って、レモンっぽいけどレモンに少し蜂蜜混ぜたみたいで甘いんだよね。
 早く収穫すると酸っぱいらしいけど。まぁ、使い分けが大切ってことだね。

 久しぶりの飲み物にワクワクするも、それはツララ、ロア、サキの子ども達用ということは分かっているので、普通に紅茶に手を伸ばす。

「ほら、みんな座って。1から説明するから。それまでツッコミは無し。話が渋滞するからね。」
ネルは仕方ないという風に素直に椅子に腰掛け、話を促す。

 しっかり効率を考えられてる……子どもならもっとガンガンくると思うんだけどなぁ……
 将来有望だ。

 ロアやサキに久しぶりと一言声をかけ、ネルに「私にはなかったんですが?」と文句を言う。そこは譲れないらしい。

 私は素直に「久しぶり」と声をかけると、満足そうに頷いて紅茶を飲む。

「美味しいですね、これ。茶葉の雑味が入らず、美味しい部分だけを上手く抽出できています。うちの使用人の中にもここまでできる方は少ないです。」
「そうでしょうか?お上手ですね。」
うふふ、と色気混じりの微笑みを浮かべるクミルさんは、どこからどう見ても19歳には見えない。

「当然のことを言ったまでです。美味しいものは美味しい。庶民であっても、貴族であっても、それは同じですから。」
ニコッと微笑む。負けず劣らずかわいい。

「はーい、みんな座ったね。」
「主ー。1人いない。」
「あー、あの人はまぁほっとこう。今は気分じゃないみたいだから。」
珍しく気まずそうな百合乃に視線を向け、慣れるのに時間かかりそうだなぁ、と思いながら前に向き直す。

「まぁまぁ、驚かずに聞いてくれたまえ。」
「ソラお姉ちゃん、口調おかしくないですか?」
「気にしない気にしない。」
ロアを宥め、とりあえず紅茶をもう1口。確かに美味しい。

 私が淹れるとなんかザ・市販って感じの味なんだけどね。技術の差ってすごい。

「過去に行ってた。」
「「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」」
全員が頓狂な声を上げて驚く。

「よく分からないんだけど、あの日に突然過去のパズール近辺の森にいて、そこでいろいろ頑張ってたんだよ。」
「……それで、今日帰ってこられたということですか?」
自分で言っててよく分からなくなってきたようで、ネルの文末に疑問符がつく。

「まぁそういうこと。で、その現象が他にも起こってて、そこであっちで座ってる人と会った……というか、再会した。」
全員の視線が百合乃に向く。一瞬動揺したけど、私が来てと言ったらスタタッとやってきた。

「百合乃です、よろしくお願いします。」
ペコっとお辞儀をする。私はニッコリと百合乃を見つめる。

 分かってるよね?『故郷の知り合い』っていう体、忘れてないよね?

 そんな気持ちを込めておいた。

「空とは昔馴染みです。」
「そんな感じ。分かった?」
「分かりません!」
ネルは意味が分からないと疑問を打ち付ける。

「そもそも過去に行くなんてあり得ませんよ。どうやってそんな……」
「そういえばパズールって奴にもあってきたよ。」

「ご先祖様にですかっ!」
ネルがさっきから忙しない。

 まぁロアみたいに硬直してない分いいけど。

 そう考えながら、ボーッと百合乃を見つめるロアを一瞥する。

「あー、ネルはちょっと慕わないでほしいかなって感じ。」
「……ご先祖様は一体どんな方だったのですか?」
「ゴミクズが服を着てる感じ。」
「…………何故こんな平和な街が生まれたんでしょうね。」
「あー、とある立役者が2人いてね……」
「……?」
詳しい事情は伏せ、赤髪とオレンジ髪のですます姉妹を思い浮かべる。この街を見ると、よくやってくれたとお礼を言いたい。

「それで、色々あって左腕無くなって……」
「大丈夫っ!」
ツララがレンの実ジュースのコップを倒しながら跳んでやってくる。それを私はなんとか重力で防ぐ。

 あー、どうしようこの混乱。どうにもできないんだけど。タスケテ。

 私に抱きついて左腕がないないと騒ぐツララ、今まで慕っていた人物はなんだったのかと項垂れるネル、ボーッとしてるロアと百合乃、意外と静かなサキ。
 チラッと見ると、サキもトコトコとやってくる。

「ソラお姉ちゃん、左のお手て、無いよ?大丈夫なの、ソラお姉ちゃん?」
心配そうにこっちを見つめる。咄嗟に思いついたのか、左腕に手を伸ばして「痛いの痛いのなくな~れ~!」と、さすさすする。

 ぐっ、可愛い……頭でも撫でたいけど、撫でる手がない。右腕はツララに取られてるし。

 そんな地獄絵図(?)を繰り広げていると、ロアが立ち上がった。

「ソラお姉ちゃん、すみません!サキが迷惑かけて…………こら、サキ。ソラお姉ちゃんが困ってるでしょ。」
「お姉ちゃん……だって、ソラお姉ちゃんの、お姉ちゃんの手がぁ……」
今度は泣き始めた。ぐすっぐすっ、と鼻をすする音も聞こえる。

「本当だ……痛くないんですか、ソラお姉ちゃん。」
「そんな心配そうな顔しないで。私なら大丈夫だって。ほら、笑顔笑顔。」
ニィーっとほっぺを引っ張る。「はにふるんですかぁ」とむぃーっと伸びた顔で言う。

「ツララもネルもサキも。みんな、心配しないで。ただ友達が増えただけで、特に何もないから。私は、ここにいる。」

「ソラさん……」
「主……」
「ソラお姉ちゃん……」
みんな私を見る。

「そうですよね。私たちがこんな顔してちゃいけないんです。笑顔でソラお姉ちゃんを出迎えてあげないと。」
「そうですね。何があった、どうしてそうなったなんで聞く前に……私には、やることがありましたね。」
そう言ってみんな黙りこくる。そんな神妙な雰囲気にするつもりは無かったのに、人生は上手くいかない。

「ソラさん、おかえりなさい。」
「「「「おかえりなさい!」」」」
全員が私にそう言う。その隙に、サキが百合乃の手を引っ張って、私の隣に立たせる。

「ユリノお姉ちゃん?も、これからよろしくっ!」
少し目元を赤く腫らしたサキがはにかむ。百合乃は少し面映くなったのか、頬を掻く。

「はい、よろしくです。サキちゃん。」
百合乃がニッコリ笑った。ここまで純粋な笑みは初めてな気がする。そしてみんなに視線を流し、最後は私の耳元に飛び込んだ。

「わたし、自重します。いいお姉ちゃんですから。」
さっきのサキと同じくらい大きく、そしていたずらっ子のようなはにかみに、ちょっと可愛いと思ってしまった私。

「これからよろしく。いいお姉ちゃん?」
冗談めかして言い返す。それからはいつも通り。楽しく、わいわいと喋った。クミルさんも、その日は珍しく泊まっていった。

———————————————————————

 百合乃、まさかの自重発言!まぁ空と2人っきりの時はまた好き好き攻撃はしますが。

 考えたんです。ロアやサキに飽き足らず、ネルにツララまでいて…………更にはお姉さん系美人たるクミルさんもいる。そんな中、こんなふざけキャラが入る余地なんてない!

 そのため、少し真面目にさせていただく所存でございます。

 ちなみに現在回は80話近く書いてないので、ロアやサキやツララの一人称は忘れました。そこのところ、覚えておいてください。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...