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9章 魔法少女と天空の城
293話 魔法少女はようやく帰宅
しおりを挟む目が覚めると、どこかに寝かされていた。
背にはザワザワとした草の感覚。嗅ぎ覚えのある花の香り。立ち上がってみると、見覚えのある大きな建物。
完全にパズールの街だ。
「百合乃、ねぇ起きて!百合乃!」
未だすやすやと寝息を立てている百合乃に、大声で話しかける。
「そんなぁ……まだはy」
「土に還れ。」
「ゴフッ!」
何やら不穏な空気がしたので、とりあえず蹴りを食らわす。
百合乃、割とどこでも寝るな。警戒心どうなってんだろう。神経図太すぎでしょ。
やれやれと頭に手を当てる。
「な、なにを………」
「んー、制裁かな?」
「空も空で、鬼畜……です…………」
チーン、と効果音がつきそうなくらいあからさまに倒れる。
いや、そんな力で蹴ってないから。流石に加減くらいはできてるよ。加減すら知らない魔法少女がどうやって神に勝つのさ。
「早く立って。…………………………本当に、本当に嫌だけど、ここまで連れてきちゃった私の責任として、私の家住んでいいから。」
「い、いいんです?」
「…………………………うん。」
「なんか凄い間があったような気がしますけど気のせいですね!やった!」
キャッキャと騒ぐ。うるさい。
「ちなみにツララって子が先に住んでるから。」
「先を、こされたっ?」
「張り合わんでよろしい。」
小漫才が始まり、なんとなくノリで頭にチョップを喰らわせる。百合乃は、「いやぁぁぁったっ!」と、痛いとやったーが組み合わさった謎言語を発する。
ほんとに住まわせちゃって大丈夫かな?いきなり不安になってきた。逆にこれで不安にならない方がおかしい。
早く帰って説明しなきゃという思い反面、百合乃をどう扱おうか反面でぐるぐると思考が迷走する。
ちなみにそこに寝たいというものはない。寝たいけど、眠気は全て消された。
主に軍服少女のせいで。
そんなわけで真上にある私の家に向かおうと、百合乃の先頭を行こうとして……
「主ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「ツララさーん!どこ、行くのですかぁ!」
2つの絶叫が聞こえてくる。1つは歓喜の混じった幼い声、もう1つは息を切らせた焦りの声。
クミルさん!?あとツララ?
ツララが斜面の中飛んでくる。腕を広げてるので、私も合わせて開く。
「っと、とっ!」
左腕が無いからか、バランスが取りづらい。そのせいで転びそうになるけど、そこは重力をちょちょいといじる。
「主、主っ!」
「あー、ツララ。泣かない泣かない。拭かない拭かない。……流石に擤むのはやめて。」
ぐすっ、ぐすっ、と泣き声を上げるツララ。
「……ソラさん?ソラさん!いつ帰っておいでで?いえ。今はそれどこれでは、えっと、何を言えば良いか……」
あたふたと、あの時のクミルさんからは想像もつかないほど慌てている。
「まぁ、その……ただいま。」
「あ、はい……お帰りなさい。」
にっこりと美人スマイルを浮かべた。
「とりあえず家入りたいんだけど。」
「あっ。そうですよね、気を配らず申し訳ありません。」
「客も1人いるけど、気にしないで。クミルさんは……もう仕事終わった?」
空を見て、大体昼前と予想をつける。毎朝という契約なので、終わった頃かとそう聞く。
「いえ。まだ葉の手入れが少し。それに、ツララさんのお食事も用意しなければなりませんし。」
「あっ!その忘れてた!ごめん、なんもできてなかった。」
「主が無事なら、いい。」
ほんとに中学生くらいの年齢かとツッコみたくなる可愛さ。肩にちょこんだ。
百合乃もこのぐらいの可愛さがあればいいのに。無駄に脂肪ばっかついちゃってさ。
「あー!ずるいです!どうしてわたしはダメでその後はいいんです?」
「主。あれ、なに?」
ツララが肩越しに聞いてくる。多分指でも差してるんだと思う。
「あー、あれはね、気にしちゃいけないものだよ。それと、慣れなきゃいけないものでもあるね。」
「空のk……」
「あ?」
「この前……そう、空とこの前偶然出会った同郷の友人であります!」
「……ん?」
敵に回してはいけない人ランキングトップのあの人の真似をして、重力で圧をかけてみる。すると効果は抜群。やったね。
あの人には、今度会ったら個人的にお礼しよっかな。
そんな風に考えながら帰路を辿る。百合乃は……ついてきてもらえばいいや。
色々あったなぁ。めっちゃ時間経ってるはずなのに、なんかすぐ昨日のことみたいに蘇ってくる。
この景色も、昨日見たように感じる。
「あのー、無視されてません?」
—————————
窓際にて。銀髪白眼の、ケモミミの生えた少女。雪狼族の少女、ツララだった。
歳は15歳。長寿の雪狼族にしてみれば、まだまだ子供。
ツララは、魔法少女の使い魔だ。
「…………」
今日もまた、窓際にて椅子を置いて外を見やる。
時折、そんなツララを心配してロアやネルなどと知り合いが来ることもあるが、どこか上の空だ。
今日もそんな顔を外から見るのはクミル。魔法少女の庭の手入れ係だ。畑の方は好きに使ってくれとのことなので、好きな野菜を植えることにしていたが、今この状況では気乗りはしない。
「ツララさん、またあのような顔を……」
いい加減心配になってきていた。
ツララ自身は、まだ主は生きているのだと言っているが、クミルにとっては悲しみを抑えていっているだけのようにしか聞こえない。
実際には魔法少女の庇護がまだ発動していたので、事実なのだが。
窓の外の、どことも分からない方向に視線をやるツララに悲し気な視線を向けるクミル。
すると、なぜが椅子が倒れる。ツララはもうそこにおらず、ダダダっとここまで聞こえてくる力強い足音が玄関へと向かっていた。
「えっ、どうしたのですか……ツララさん!何かあったのですか?」
聞こえるようにと、少し声を張る。ツララは返事もせず、靴も履かずに駆け出していく。
「主っ!主がっ!」
「どうしたんですか。ツララさん。何か気になる御用でも?」
可愛らしい薄手の服を振りながら、ツララは懸命に丘を下る。何をツララがそこまでさせているのか、クミルはよく分からなかった。
「主ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「ツララさーん!どこ、行くのですかぁ!」
そう言って目を開けた頃には、青色の髪をしたあ少女に抱き抱えられたツララがいた。
—————————
「と、いうことがありまして。」
クミルさんが、1から懇切丁寧に説明してくれる。
「ご無事で何より………と言いたいですが……」
視線が私の左腕に向く。というより、のあった場所と言った方が確実だ。
「まぁね。でも、まだ痛みとかはないから大丈夫だとは思うけど。」
「主、腕ないっ!?」
「大丈夫だって。幻肢痛とか来てないし。」
「?」
ツララが小首を傾げた。百合乃は後ろでちょこんとソファに座ってる。
自分からあそこにいったんだよ、百合乃。久しぶりにあんなに気の使える百合乃見た気がするよ。
「ツララ。ロア達とネル、呼んできてもらえる?」
「なんで?」
「まぁ……この空白の時間についてと、あそこのちょっと変わった人の紹介したいから。」
「了解。任せて。」
ツララはビシッと敬礼し、ダダッと走っていく。
「靴は履くんだよー。」
「うん!」
リビングから遠目で見送る。いくら可愛くて誘拐されそうになっても、自衛術とそれなりのステータスはあると思うから、安心だ。
「クミルさんにも一緒で話すからね。ツララが帰ってくるまでちょっとゆっくりしてて。あ、お茶出すけどいる?」
「では、紅茶を。」
「あー、オッケー。多分棚に常備してたはず。」
「ソラさん、手伝いますよ。今は詳しく聞きませんけど……片腕では難しいですよね。」
一緒に立ち上がってキッチンに向かう。なんかめっちゃ広い気がするけど、このでかい家にはちょうどいい。
「わたし、ぼっち?」
そんな悲しい言葉は、聞かないことにした。
———————————————————————
ようやく帰ってきました、空さん。次回はロア達に問い詰められる回です。
主語はロア達ですが、まぁ中心はネルですが。
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