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9章 魔法少女と天空の城
283話 軍服少女は立ち向かう
しおりを挟む「えぇ!?なんです?それぇ!えっ、ちょ……えぇーと、これ終わったら一緒に美味しいもの食べましょう!」
「何でこんな切羽詰まった時に死亡フラグ立てるの!」
これがわたしたちの最後の会話で、途端に空の声が掻き消えた。
切り離された?……つまり、わたし1人で?
「——————ッ!!」
「っ、ぁ……」
慌てて耳を塞ぐ。鼓膜が破れそうなほどの轟音が、目の前にいる龍から発せられ、わたしは懸命に耳を抑えることしかできない。
咆哮1つで……でも、空のためにはやらなきゃ……
それに、龍神って人、絶対わたし馬鹿にした。ぶん殴って制裁してやります。
「……っし、ばっちこいです!」
サーベルを構える。龍はこっちの動きを見定めるようにギロリと目を細める。
『主、立ち向かうか。』
「えぇ、もちろん!………えぇぇ!喋ったぁ!?」
『そこまで驚かずとも良かろうて……』
聡明そうな女性の声。まだ若そうで、アニメとかに出てきそうな妖艶さはない。
『それで、我に立ち向かうと?』
「え、ま、まぁ?」
『しっかりせんか。』
さっきまでの重苦しい雰囲気は何だったのか、とてつもなく緩くなる。
『我も龍神様のことは好いておる。でもな、ちと過保護すぎる。絶滅など、自然の理。禁忌を犯し防ぐものでもなかろう。そんなところも、憎めないところなんだがな。』
「急に会話パート入りますね。」
『悪いか?』
「いえ。」
すると、光が収束するように龍の元に集まる。まるで龍自身が発光しているように光ったところで、粒子は散っていく。
「ふぅ、やはりこっちの方が動きやすい。」
「………………もはや、突っ込むことすら億劫になってきましたね。」
突如人型になり、何故かどこか体操着感がある赤色のダボっとした服を装着していた。わたし、ツッコまない。
わたしの格好も格好ですけど、向こうも向こうでとんでもない絵面ですね。あ、ツッコみませんよ?ボケ担当なので。
そこは頑なに変えない部分だ。強い意志だ!
「魔力循環も動きやすさも、こちらの方がいいの。向こうの姿は威嚇にしか使えんからな、龍はみな、この姿にでもなれば生存率は上がるんだろうが……」
両手をグッパーし、敵を目の前に何か呟く。
「我は善なる生物を傷つけたりはせん。主の連れも、相当な戦闘狂のようだな。互いに苦労人というわけか。」
はっはっはと笑いをこぼし、なけなしの威厳と共に腕が向けられる。
「では、戦うか。」
「殺さないんじゃないです?」
「殺しはせん。少し暇を潰してもらわせるだけだ。最近、生温い者が多くて腕が鈍っておった、ちょうど良かろう。」
準備運動を始める。ぴょんぴょん、ボヨンボヨン。吐息も何故か艶かしい。見た目も声の通りの若さで、全然高校生でも通じるレベル。なのに、なのに。何故か色気が感じられた。
空も、こんな気持ちでわたしを見てたんですかね。やっぱり胸って、凶器です。
そんな気の抜け切ったわたしに、災厄が訪れた。
「……魔断っ!」
巨炎が舞った。当たれば即死レベルと一目見て分かる。
「本当にその能力は厄介だな。」
およそ人の口から出るとは思えない炎。よく見ると口元に魔法陣のような者が浮き出ていて、それを吹き込んでるみたいだった。
「なぞれ、炎流。」
両手で押し込むのがやっとな巨炎に耐えていると、小さくもよく響く声が聞こえた。その時のわたしの眼には、左右からの熱線に貫かれるというものだった。
っ、どうにかしないと!でも、わたしの力じゃ全然足りな………ん?
腰の辺りに、硬い何かが2つ。可愛らしいステッキと、黒塗りの拳銃。
片方は空がいつも持ち歩く、収納という機能のついたもの。もうひとつは、空がラノスと名をつけて愛用しているもの。(に近いけど、少し違う)
「空ぁ……」
泣きそうになりながらも、ステッキの中を探る。収納の機能は、問題なく発動していた。
あれ、ステッキ内に置き手紙……
「魔力分散モード」
「攻撃特化モード」
「特殊特化モード」
3つ、汚い字で書き殴られていた。空が、少しでも早く分かりやすいように書いてくれた、手紙。わたしは、目から汗を垂らす。
汗ったら汗です。
「魔力分散モード!」
言いながら後退して、銃のマガジンを入れ替える。すると、スコープ部分に石がはめてあり、除くと射線が見えるようになっていた。
「どこまでも優しいです!大好きですよ、空!」
パァァンッ!聞き馴染んだ、頼りになる発砲音。銃弾が炎を弾けさせながら、飛んでいく。
「剣姫、木葉舞!」
銃は左手に持ち替え、サーベルを空に這わせる。魔弾が付与されてるから、飛んでくる熱戦をも吹き飛ばす。
「変な武器使うの、主。」
「空直伝ですから。」
「そうか。楽しめそうで何よりだの!」
宙を直角に蹴り上げ、接近してくる。それを交わし、衝波を放つ。
「っ、なかなかいい攻撃よの。だか、我には届かん!」
「剣姫、修羅双樹!」
見えない手が生えたように感じ、銃を2本目の剣としてサーベルをXの字に振るう。
「上級の剣術か?人間にしてはいい動きだが、まだまだ洗礼されてはいないの。我が叩き直してやろうぞ!」
龍尻尾が目の前を通る。その直後に腹に強烈な痛みを感じ、肩口が焼かれる感触がある。
「くぁ……」
「安心せい。死にはせん。この程度でへばっているとは、根性を叩き直してやらんといかんな。」
「人間が、龍を相手にできる時点で、凄いんじゃないです?」
「まぁの。」
言いながら浮かべるは、5つの魂のような炎。
「立ち向こうた主には見せてやろう。」
回転し、輪のようになる。
「龍の本気の片鱗を。」
フッと一息。すると、弾けるように火花が散り、青白い炎へ、そして白銀の炎へと色を移ろわせていく。
……綺麗ですけど、何も起こらない?わけないですよね。
訝しげにその姿を見る。宥めるようにそれに手を添え、一言口にする。
「真髄よ、今ぞ力を見せる時。」
ブワッと白銀の炎は広がる。龍にまとわりつくように炎が付着し、うっすらと微笑んでこちらを見る。
「これが、神の力に触れし者の片鱗。」
腕を伸ばす。何か白い者が横切った気がして、首を曲げれば、体が吹き飛んでいた。痛みと共に。
痛い……肩とお腹、あと横っ腹。
結構傷がひどい……いけるかな?うん、わたしならいける。空の銃もあるんだから、できないわけがない。
「そろそろ本気で行こうか?主の力も、見せてみよ。」
「飛翔刃!」
剣筋がそのまま魔力の塊となって飛ぶ。意図も容易く白銀の盾に守られ、ノーダメージ。でも、その瞬間にできた隙に乗って銃を3弾。
「魔力が遮られるのか?くっ、本当に、面白い武器をつかうのぅ、主!」
「良かったですね!初めの敗北かもしれませんよ!」
「勝てると思っとるのか?」
「えぇ、もちろん!」
白銀が渦を巻き、槍のように迫る。わたしはそれに突っ込むようにサーベルを突き刺し、衝撃と魔法を消す。
「天震!」
だって。
「飲み込め!」
わたしは空のパートナーなんですから。
「させません!」
銃の雨が降る。白銀を全て散らす。
マガジンの入れ替えしなきゃ。えっと、慣れてない……
なんとかセットし直し、龍を見やる。
「空に誓って負けません!」
「宣誓かの?いいぞ、乗ってやろう。」
大きく息を吸い、完全回復した威厳でこう叫ぶ。
「誇り高き龍族の血にかけて、この世の絶対主である龍神様にかけて、必ず勝つッ!」
こうして、わたしたち2人のゴングも、試合開始の合図を鳴らした。
———————————————————————
今までダメダメ過ぎた百合乃に起死回生のチャンスを与えるべく、主役回を作ってあげました。百合乃を救おうキャンペーンです。
これから、百合乃は1人でこの龍を相手にします。みんな、応援よろしくね☆
とりあえず、銃を渡したのでなんとか戦闘描写は書けるでしょう。
百合乃より、私を救ってほしいですね。疲れましたよ、いろいろ。
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