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9章 魔法少女と天空の城
278話 魔法少女はそげぶする
しおりを挟む視界が晴れてきた。
突然現れたキューを腕に抱えて、取り敢えず辺りを見回す。
「やっと戻ってこれた、のかな?」
周りを見ると、さっきまで霧だらけのように見えていた空間には何も無くなっていた。あるのは、乾いた土だけ。
百合乃も同じ試練してるだろうし、そろそろクリアできてるかな?
いや、私の場合1つ目の試練を電車に乗った瞬間にクリアしたから分からない……かも。百合乃は夜までやってる可能性あるし。
「にしても、気に食わない……それと、もやもやする……」
「キュ………」
キューを抱える力が強くなり、苦しそうに声を上げるキュー。
あんなねちっこい精神攻撃試練、龍神がやることじゃないよ。もっとこう、どんぱちいこうよ。
あと何回も言ってるけど、なんで私はゲームで目を覚ましたの!?おかしいでしょ?もっとあるじゃん!違和感ってそんなとっから見つけてくるやつじゃないよね!
まず両親がいることに疑問を持とうよ、私。
脳内で自分に対する文句を吐き散らし、ふと下を見る。
「百合乃?」
そう。そこには、頭から崩れ落ちたであろうたんこぶを作った百合乃がいた。
「空ぁ………ん、ダメですってぇ………んんぅ、外、でぅ、よぉ?」
「…………………………」
「キュキュッ、キュッキュキュ!」
私の気持ちに気付いたのか、必死に暴れるキュー。
「邪魔、しないで?」
「キュ、………………」
にっこりと微笑みかけると、私のスマイルにやられて黙りこくった。
よーし、それでいい。ん?脅しただけだって?ちょっと何言ってるか分かんない。
「よーし、覚悟はできてるかな?」
「空が、そういうならぁ………」
奇跡的に成立した会話。にっこりと笑う私の目の奥は、南極すらもかくやと思われるほど冷え切っていた。
「3、2、1。」
「空……」
「 0。」
膝を少し抱えるような姿勢の百合乃。丸まった背中部分に回り込み、思いっきり蹴り上げる。
「………ん、かわ、いぃぇすぉ……」
「あ、だめだこれ。」
完全に夢に浸った百合乃に、諦めトーンで足を引く。
多分同じ?だよね。好きなような世界を体験してる、って感じかな?
まぁ勘だけど。
そんな感じで、困った風に百合乃を見ていると、見覚えのあるものが広がり始めた。
「キュウ……」
「キューは隠れてて。」
「キュッ!」
霧が一帯を充す。一層警戒の色を強め、自然と襲いくる眠気に対して「また?」と文句を吐く。
今度は何?まさか、百合乃の夢に入れてくれるとかいう親切をしてくれるわけじゃないよね。
まぁしたって面白くないし、しないし。
いくらあんな趣味悪神でも、意味もなくそんなことはしない……と思いたい。うん。
そんなことを考えてる間に、とうとう眠りについてしまった。
————————————
ザァーザァーとさんざめく雨音。
しっとりとかいうレベルではなく、ガッツリびしょ濡れになるコート。徐々に体温は下がる…‥ことはなく、未だ健在の魔法少女服が保温してくれている。
そして目の前。私は唖然と1つの傘を見つめる。そう、かつての唖然3兄弟の再来。
「空ー、帰ったら。です?」
「語尾おかしくなってる。言われなくても分かってるって。……外で言わないでよ。」
嬉しげな声。聞いたことある、というかずっと耳元で聞いてた声。恥ずかしげな声。ちょっと違和感はあるけど、骨伝導で毎日というほど聞き親しんできた声。
あれ?百合乃の、夢?
さっきまであれだけ真剣に「流石にない」と言っていた事象が、今ここに、目の前で引き起こされてた。
遠ざかる背中。ご近所さん(?)はこそこそと喋る。耳は異常に働き、その言葉の一言一句を聞き逃さず、少しイラつきながら前に進んだ。
もちろん、アイスシールド全開で。
「あぁ!いい雨宿りだなぁ!!」
そう全力で叫ぶ。そして、頭上に現れた円盤型のアイスシールドを鷲掴みにし、目の前の傘ごと破壊するように投げ捨てる。
どんな夢見せてんだよ龍神!元からイラついてたのに更に火をつけるなんて。火に核爆弾を投下するとはこのことだね。
ん?火に油を注ぐの原型が保ててないって?黙ろうか。ん?
圧で読者の皆様を黙らせる。
「百合乃っ!」
今もなお懲りずに夢を見てる百合乃を、偽私が謎の気配察知で百合乃を突き飛ばし、勢いよく回転する氷の板に鉄拳を食らわす。
「なんで現実で魔法を弾くの。チートかよ、おい。」
とうとう頭がパンクし、言葉遣いが壊れる。
「あなた、誰?」
「そういうのは人の顔見てから言ってみたらどう?案外、見知った顔かもよ。」
立ち位置的には完全に私が敵。でも、実際には違う。それでも向こうさん達はそう思ってないのは、皮肉だなと思う。
「私?」
「そ。」
「百合乃。偽物の私がいる。ドッペルゲンガーかもね。」
「冗談言わないでください!今めっちゃ危険でしたよね?」
「偽物はどっちよ。」
あの時の魔族の気持ちが少し分かった気がして、それの気持ちを込めて言葉を吐く。
「「あなた。」です。」
「そこでハモるんかーい。」
ゆるくペシっと突っ込む。
「なんかノリが私みたい……?」
「ドッペルゲンガーなんじゃないです?案外。それじゃ、空は死んじゃうっ?」
「安心して、現に私は死んでない。」
「あなたには聞いてません。」
「ちょっと一旦脳味噌出してみる?」
ステッキをまるで刃物のように見せ、ぶるっと震えた百合乃はサーベルを握った。服は制服のままだけど。
ってかスカート短っ!
いや、こうなると私の方がおかしいのか……?
だからといってそれを私に着せるな!
偽物私の脚元を見て、脳内ツッコミが炸裂する。
「私も私で装備すんな?なんでしれっとステッキ持ってんの?」
私の動きを見定めるように見つめる2人に、私も仕方なく臨戦体制をとる。
ここって確か、記憶を元に作ったやつだよね。
ってことは、百合乃が知ってる以上のことはあの私はできないはず。
よし、なら勝てる。
パァァンッ!
思考が遮られる音がする。本能に従って顔を逸らしたことにより、ソレは私に当たることなく消えていった。
「ラノスまで再現してんの……?」
「何ごちゃごちゃ言って!」
「ここ日本だよ!流石の私も自重して氷の盾だけにしてんのに、そっちはラノスですかそうですか。私の約2週間の苦労を返せぇぇ!」
「えっ、なに!?」
吹っ切れた私は、ラノスを引き抜き乱射する。
まぁ、といっても伸縮はしてるわけだけど。
「偽物の癖にっ!」
「いやそっちがね?」
ほとんど見た目も性格も変わらないせいで、どっちがどっちだか文字起こすと分からなくなる。
いや今そんこと考えて暇ないって!
仕切り直してマガジンを入れ替え、跳躍。通路横にあった石垣に位置も着地し、頭上に跳ぶ。そのまま真上に空中歩行を使い、蹴り飛ばす。
「ちょっ!百合乃、離れて!」
「お望み通り。トール、混合弾、暗黒弓。ウィンドサークル、アイスウォール。」
魔法が地面に着弾し、仰反る私。銃を発砲されるも、氷が防いで風で2人して隔離される。これで百合乃の妨害は受けない……かも。
向こうも技使えたらおしまいだけど……
「ていやっ!」
「使えるんかい。」
風が消え、なんとなく冷静にツッコむ。
「ってかそれ使えるんは思い出して?なに、そのご都合記憶。どこぞのご都合解釈勇者みたいなことするのやめて?」
「さっきからあなたは何言ってるの!」
「あぁ!もうっ、めんどくさい!」
打開策は一向に見つからず、もういっそ私をぶっ飛ばせばなんとかなるのではと意味もなく拳を握りしめる。
「燃えろ!」
「そんな技私知らないよ!?」
魔法分解を発動し、なんとか急場を凌ぐ。
「魔力超化、流星光槍!」
5つの光の槍が私へ向き、射出する。
「偽物の癖になんで強いのっ!」
「本物だからだよ!」
壁を蹴りながら避ける私相手に叫び、神速で裏を取る。
「くぅっ……」
「空っ!」
パァァンッ!と、銃撃が降り注ぐ。向こうはそれをなんとか身を捩って掠るに止まらせた。
「しぶとい……」
我が身ながら頑丈すぎる……と、額に手を置きため息を吐く。
「許しませんっ!いくら空の見た目をしていても、騙されませんよ!」
「実際今騙されてるんですけど?そこのところどうお考えで百合乃さん。」
「空は百合乃さんなんて言わないです!」
「ネタだよ分かるでしょ!」
それはそれはご都合的な解釈に、もうそろそろ諦めようかと本気で思い始める。
ほんとに、邪魔にしかなってないしここにほっとこうかな。
噛むもの拒まず離すもの追わずってね。
「てりゃあ!」
「掛け声いらないよ。」
軽くサーベルに魔力を纏わせ、強引に引っ張る。人神の魔力も借りて、一旦能力封じ(魔力妨害)をする。
「百合乃はその辺で寝てて。」
とりあえず腹いせにお腹を蹴飛ばし、もう1度私と対峙する。
「ファイボルト、万属剣。土槍。」
燃え盛る剣が生まれる。それを各位に配置し、発射。地面には土槍が生え、邪魔で動きが取れない。
「っ!」
私の方は土槍を足場に頭上までやってくると、とりあえず発砲。右肩に着弾。
「かぁっ!」
そのままジャンプで上から落ち、首めがけてキックを喰らわす。私は思いっきり前に飛び込み、土槍に突撃する。
「オッケー。そろそろ決着かな。」
「………っ、い……」
とりあえず身体激化で右手の筋肉を膨張させる。そのままありとあらゆる加護と魔力をかけ、感触を確かめる。
っし、あとは締めといきましょうか。
ゆっくりと助走をつけ、私に向かって走る。
「その幻○をぶち○す!」
ピー音必須な何かに抵触しそうなセリフを吐き散らし、顔面をぶん殴る。
ちなみにどこかの男子高校生みたいにただ殴るだけじゃなくて、私の場合は顔がぶっ飛ぶよ。
ぐちゃぐちゃになった私の頭を見て、「あ、やっちまった」としみじみと思う。
私は、無罪だ。
「そっ、空ぁぁぁぁ!」
いつの間にか起きていた百合乃も流石のスプラッタはお気に召さないようで。
「だからいい加減目を覚ませ!」
いつまでもご都合的な夢を見続ける百合乃に一喝し、ラノスの銃口を向ける。
「ひぃっ、殺さないで……」
「こういう時は命乞いじゃないでしょ。ってか、認識するつもりある?」
ご都合すぎて1周回って都合が悪い思考に嫌気が差す。
ここ夢だし、一旦マジで撃たれてもらおうかな?
空間伸縮でその腕を狙い、縮められたそのレールの上を弾は走る。
「ギャァァァァ!」
百合乃の断末魔が、夢の端々まで行き届いた。
その後、みっちり絞った後ようやく意識を取り戻した。
その時に言った百合乃の一言。
「折角、いい夢だったのに……」
へぶしっ!そんな可愛らしい声が、現実世界にも轟いた。
———————————————————————
今回ちょい長めですね。休んだ分頑張りました。
タイトルのそげぶですが、どこかのラノベの主人公さんのセリフです。
どこの主人公って?イマジンなブレイカーな主人公です。
これはパロディでありオマージュでありリスペクトなので、パクリではないです。そう、決してパクリではry
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