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9章 魔法少女と天空の城
276話 過去 (百合乃視点)
しおりを挟む———こうであってほしかった過去、こう進んでほしかった未来。好きな人が平和に、そんな世界を、人は望む。その望んだ未来は果たして本当に、幸福か———
わたしは青柳百合乃、高校2年の16歳。特に親しい友達はいないけど、作ろうと思えばいつでも作れる。
学業とスポーツも中の上から上の下をキープしてる、どこにでもいるような女の子。
だけど、ひとつみんなとは違うことがある。
私には恋人がいる!綺麗な青色の髪で、ちょっと面倒くさがりだけ根は優しい女の子。名前は美水空。
みんなわたしたちの関係を歪っていうけど、わたしは気にしてない。こんな運命を、他人の一言でつぶしたくなんてない!
元にわたしと向こうの両親も、この関係に納得してくれてるし、なんなら援助もしてくれてる。
なんと、あるマンションで同棲してるんです!
こんな夢のような時間を毎日過ごせて、わたしは心から幸せなんです。
ピピピピッ、ピピピピッ……
いつも通りの朝。現在朝5時30分。弁当を作ったり、掃除をしたりと大変だから、早く起きるようにしてる。
空も手伝おうとしてくれてるけど、朝は苦手みたいだし、わたしが好きでやってることだからって、休んでもらってる。
家事全般はわたしの仕事。それじゃあ空は何もしてないじゃないかって?
何言ってるんです?そこにいるだけで、もう返しきれない借金を負ったようなものです。
「おはようです、空。」
気づかれないよう、小さな声で隣で眠る空に声をかける。青い髪は、本当に綺麗。
よーっし、やりますよ。
パンパンッ、と頬を叩き、気合を入れて洗面所へ向かった。まずは歯磨きと洗顔。好きな人には、綺麗な姿を見せたいものなんです。
カップから歯磨きを取り出し、水を入れる。歯磨き粉をつけるとそのまま口に突っ込む。
ある程度磨いたら口を濯ぎ、顔を洗ってタオルで拭く。
「掃除っ、掃除~。」
ルンルンで鼻歌を歌いつつ、スパパッと掃除機をかける。それが終わると6時を過ぎて、そろそろ弁当作りを始めなきゃいけない時間になる。
「えっと、昨日はパンにしたから、今日はご飯っと。おかずは昨日の晩御飯の炒め物と、野菜肉卵、プラスαでいいんだよね?」
調理器具の準備をある程度終えると、冷蔵庫から食材たちを取り出す。作り終わる頃には7時が迫ってきて、空はまだぐっすり。その間に朝ごはんを作る。
朝ごはんは、簡単にパンを食べてる。
食パンにバターとチーズを乗せて、トースターで焼いて、ベーコンを乗っけて挟んで食べる。これがわたしたちの朝ごはん。
トースターがジジジジ、と機械音を鳴らし、コーヒーメーカーがコーヒーを出すを音も聞こえる。そんな時、部屋の扉がかちゃりと開く。
「んんぅ~、おはよぉ。」
ボサボサの髪を振ってやってくる。可愛い。
「空、おはようございます。今ご飯作ってるので、歯磨いたら来てくださいね?」
「ん、分かった。」
目を擦って向かう空を見届け、もう少し見てたいと思いながらも食器の準備をする。
「今日午後から雨降るらしいね。折り畳み傘ってどこあったっけ?」
顔を薄く濡らした空が歯ブラシを咥えながらテレビをつける。ちょうどやってた天気予報を見て、わたしをチラ見する。
「傘です?普通に玄関の棚にあると思いますけど。」
「そ?ならいいや。」
テレビを消して洗面所に戻る空。湿った顔は艶があって、とても可愛らしく、かっこよくも見えた。
水も滴るいい女とは、このことです。え?男じゃないのかって言われても、空は女の子ですし……?
「空、今日もかっこいいですね。」
「……女の子にそれ言う?まぁ私も自分が女の子なんて思ってないけどさ。というか、それ言うんだったら身長分けてくれない?」
「それでも十分かっこいいです。空はそのままが1番です!」
わたしはやってきた空に抱きつき、苦笑い気味に諌めてくる彼女にすりすりと頬ずりをする。
空の身長は154cmぐらい。わたしは161。確かに7cm近く差があるけど、かっこよさはそこに関係ない!
わたしを事故から守ってくれた空は、世界一かっこいい!
「はいはい、早く食べて学校行くよ。」
「は~い!」
何か立場が逆転してる気もするけど、とりあえず頷いておく。
ご飯も早々に食べ終わり、折り畳み傘を鞄に入れていざ学校へと玄関の扉を開ける。
このマンションは10階建。駅からも結構近く、わたしたちの高校とも近いから、ギリギリに出ても間に合う。
少しでも空とイチャイチャできるってこと。嬉しいですっ!
その5階に住んでて、番号は506号室。
「鍵閉めた?」
「はい。」
「……いい加減敬語やめない?歳が違うだけで同学年じゃん。」
「癖ですから、仕方ないじゃないです?」
「聞きたいのは私なんだけど。」
そんな会話をして、どこからともなく笑い合う。変な関係でも、わたしたちは楽しく暮らしてる。最近は周りも、この光景を見て「いつものかぁ」と遠い目をすることも多くなった。
エレベーターを降り、通学路を行く。
「今日提出の数学の課題、やった?」
「はい。というか、現国の方も課題ありませんでした?」
「あっ。」
やべっ、というふうな反応をして、少し引き攣った表情になる。
「……百合乃、危ない。」
小声で囁かれ、ビクッとなって固まる。それを見かねた空が、クイっと引っ張って抱きとめる。その瞬間、スマホのながら運転をする大学生らしき人が、自転車に乗って走り去っていた。
「あ、れ?なんで分からなかったんです?」
誰にも聞こえない声で、そう漏らしていた。
あれ?なんでです?ただの日常なのに、どうしてこんなに違和感があるんです?
「百合乃?どうしたの?顔色、悪いけど。」
ハッとして、横を向く。すると、そこには空の顔が間近にあった。
「っ!?そそそそっそらぁ!?」
「そが多い。」
ほら、行くよ、と言って、何事もなかったかのように歩き出す。
あれ?何を不思議に思ってたんです?わたし。
「待ってくださいよ~、空ぁ~。」
信号を進もうとする空をばっ!と捕まえ、「危ないでしょ」と微笑む。
「今日の夜ご飯どうします?」
「うんうん、百合乃には脈絡が欠如してるね。」
「ご飯にします?麺にします?それとも、わ・た・し?」
「百合乃もいいけどご飯で。」
「えぇ~!」
「街中で言わないでよ。街中で。」
「家だったらいいんです?」
「まぁ……暇だったら。」
ちょっと頬が赤くなる空が可愛くて、見ていられなくなる。尊値が高過ぎて、倒れちゃう。
「あ、傘忘れました。」
「だから突然!?というかもう戻ってる時間ないよ?」
「大丈夫、空の傘を使います。」
「相合傘?まぁ別にいいけど……百合乃と2人で入ると高さと横幅の関係が、ねぇ。」
空がわたしの胸部をまじまじと見る。「なんだこの凶器」と呟く姿を見て、わたしは下からそれを持ち上げる。
「ふふん?これは空のものですから、いくらでも触ってくれてもいいんですよ?」
「持ち上げないで。というか、視線が痛い。」
学校の側に来たためか、同じ高校の生徒が興味ありげにこっちを見ていた。
「百合乃、美人なんだから……気にしないと。ほら、男達の視線、百合乃の胸に。」
「それで何か変わるわけでもないんですし。本当にどこまで可愛いです?空は。」
うりうりぃ~、と、空の体をツンツンする。「ちょ、置いてくよ」と言われたので「捨てないでぇ~」と猫撫で声で言ってみる。
こんなのが毎日続くなんて。いつか尊死しちゃうんじゃないかって心配です。
……何か、忘れてるような……?
「百合乃?」
「なんです?」
ま、いっか。
———————————————————————
百合乃、脱出ならず。まぁあの百合乃が甘々な空との同棲生活を逃すわけないですもんね。
百合乃は変態ですから、テンプレ通りだと「本物はもっと~!」とか言って意識が戻るものですが、いくらMでも甘いほうがいいようです。
さぁて、どうやって脱出させようか。(元々ないに等しいプロットから完全逸脱した回。本当は脱出させるつもりだった)
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