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9章 魔法少女と天空の城
275話 過去 (空視点)
しおりを挟む———人は誰しも、望む自分になりたいと願う。そして、それは他人にも然り。こうであってほしかった、そんな僅かな未練が、ここでは毒となる———
私の名前は美水空、高校2年生。私の髪の毛は、生まれた時から瑠璃色っていう青の髪だった。
両親は当然、黒。他の家族から見て、それは異様な光景だったに違いない。
それでも、両親は一人娘の私を、それはもう大事に育ててくれた。私からしたら鬱陶しいこともあったけど、学校のいずらさに比べたら幾分かマシだと思う。
小さい頃。幼稚園のあたり、そのくらいの子なら、単純に綺麗なこの髪の毛は誰も君悪がらず、逆に「きれい」と言って褒めてくれる。
まぁ、これもひとえに両親が手を回してくれたおかげだけど。
昔からの知り合いという幼稚園の園長に話を通し、それが他の保育士にも伝わり、できるだけ髪は褒めるようにされた。子どもたちはそれを真似して、「きれい」と褒め出す。
当初、社会も何も知らない私はこれが「普通」と感じていた。
その後は例に漏れず特異性を指摘され、小学3年生からはいじめが始まる。
私は親に話し、それでも改善せず、逃避した。
逃避の先は2次元。初めにアニメにハマり、ゲーム漫画ラノベと次々に手を伸ばし、ついにはオタクの称号を得るほどのものとなる。
両親はそれを看過してくれた。
それは自分達がどうにかできなかったという、単なる罪悪感からなのか、それともただの我が子可愛さなのか。
両親は私の趣味を理解し、寄り添い、時には陰で自分達もオタク文化に触れ、話し相手になってくれることもあった。
その頃、ちょうど父の会社は倒産寸前だった。
けれど、お父さんの考案の商品がヒットし、瞬く間に会社は立て直された。父さんが倒産、なんていう寒いギャグが現実にならずに済んだ。
父は自暴自棄にもならず、よく頑張ってくれたとてもいいお父さんと思った。
それが、ちょうど去年のこと。
今も両親はおしどり夫婦で、陰では「あんな子」(まぁ私のことでしょう)を授かったことに同情されていた。
それでも私は、十分幸せだった。
学校はというと、いじめていたグループのリーダーが家庭崩壊を起こし、逆にいじめられていた。
なんでも、父親の会社が倒産をし、不倫までした挙句に母親が自殺したという。児童養護施設へ送られ、スクールカースト最低位。
そういうことがあり、私と同じオタクの子数名が声をかけてくれるようになり、友達も若干名できた。
そのまま高校に進学し、平穏に生活してる。
私を無視していた人を許して、剰え友達になることに文句があるかもしれないけど、私からすれば別になんとも思ってない。
私も、立場が逆ならそうしてただろうし。
チリリリリリッ
時計の目覚ましが鳴る。
「……ぁと、5分……」
目覚ましを止め、項垂れるように布団に潜る。その時、ガチャリと部屋の戸が開く。
「空~、起きないと遅刻するわよ?」
「お父さん、先行くからな?」
「えぇ。いってらっしゃい、智浩くん。」
「うん。いってくるよ、未春。」
こんな年になってもいまだに名前呼び、さらにはくんまで付けるというラブラブっぷり。見てて飽き飽きしてくる。
「いま、ぉきる、から……」
「そう言っていつも起きないでしょ?ご飯食べて着替えて、早く学校行ってきなさい。」
「ふぁーぃ……」
眠い目を擦り、重い瞼を開く。大きなあくびをして、今日学校で読むラノベを選定し、カバーをかけて鞄に突っ込む。
カバーをかける理由は1つ、普段は観賞用としているからだ。
実用、保存用、観賞用と何冊も買う人がいるけど、そんな金があったら少しでも別に回したい。
そもそも、それだけの数があるなら、もっと別に必要とする人に買ってもらったほうが、作者さんも嬉しいはずだ。
「暑い。」
起き抜け初めのひと言。いつものことだ。
別パターンに「眠い」や「怠っ」等もある。「暑い」や「寒い」は季節限定で、なかなか出ないレアモノだ。
寝起きはやけに疲れる体質らしい。
「おはよう、空。」
「おはよ、お母さん。」
階段を降りた先で、朝食の用意をしてるお母さんに挨拶をし、軽く口を濯ぎに洗面所へ向かう。
「今日は金曜日よ。」
遠くから、そんな輝かしい言葉が聞こえてくる。
「確か、今夜は秋まにとImport Girlの放送日だったよね?」
「完っ全に目、覚めた。」
「録画は?」
「明日は土曜日。もちろんリアルタイム。」
「終わったら、すぐ寝なさいよ。」
「うん。」
バッキバキに開かれた目で朝ごはんの和食を食べ、7時45分となかなかに危ない時間帯に咳き込む。
「あと6分!?」
「だから、早く行きなさいって。」
「ん、ん゛んっ!ふぅ。ご馳走様っ、いってきます!」
「いつの間に早着替えを……」
困ったような、戸惑うような視線を娘に向ける母。そんな言葉は聞こえず、ダッシュで駅まで向かう。眩しい日差しが体を焼き、汗が夏服に滲む。
「あと、何分っ?」
ポケットからスマホを開く。駅まで間の距離と
時間を見て顔を歪める。
まったく、これだから運動不足は。
ちなみにこのスマホは中折れ式の最新型で、切れ目すら見せない精密な作りになっており、非常にコンパクトだ。
「っ、セーフっ!」
残り30秒。残る限界の力を振り絞り、最寄駅へと到着する。定期を使って中に入り、扉が閉まるギリギリのタイミングで滑り込む。
「席、は……はぁ、あっ、た。はぁ、はぁ。」
大きく息を乱し、空いていた席に直行する。いくら息を整え直し、スマホを取り出す。イヤホンを取り出す。
といっても、これは旧型のモデルの耳に嵌め込むタイプではなく、10年以上前に作られた電波をそのまま脳に流し、音や形を電波を脳波に変えて再現するというこめかみ辺りにつけるシールタイプだ。
特殊な作りで取れないようになっており、(それはここ最近になって作られた)これが開発されたため、フルダイブRPGすら作成可能になった。そのため、ゲームの進歩がものすごい勢いで進んで……
と、そこで脳内に説明を入れていたことに気がつく。
「あれ、なんで……?」
携帯の画面を見ると、そこには私が結構好きだったけど、1年前にサ終したはずのアプリがあった。
この、ゲームは!?
有名声優と神作画のコラボレーション、かつキャラの個性や可愛さかっこよさも際立ち、ゲーム性もやり込み要素があったあのゲーム!
確か課金要素が多すぎてユーザーが離れていったせいでサ終したはすじゃ?
ん?そもそもなんで、私はここに?
私のオタ友なんていたっけ?そんな会話できる人、いたっけ?
「……あ。なんで、私は日本に?」
うっすら、思い出してきた。脳にどんどんと情報が流れ込んできて、上書きされてくような感覚がする。
そうだ。お父さん……あいつは商品なんか考案してない。経営が傾く状況に甘んじて、結局は倒産した。
浮気もして、離婚して、私はあんなオタク趣味を共有できる父親も母親もいない。
私の知る母親は、私を罵り、悪魔と呼び、ストレスの吐口にしてるゴミ。
……でも。
「この世界の両親は、違うんだよね。あのゴミとは、違う。」
自分の生み出した幻想は消え、立ち上がる。
「まさか、ゲームアプリに目覚めさせられることになるなんてね。ってか、秋まにの最終話、まだ見れてないじゃん!」
久しぶりの記憶を思い出し、なんか違うところで悲しがる。
秋の随に。略して秋まに。
主人公達高校生の、青春の話。
感動系のアニメで、作画がすごい綺麗。風景や背景で感情の起伏を表現して、前半は詰め込みすぎじゃ?って感じの内容だったけど、後半にいくにつれまとまり始めて、ラストスパートをかけてるところだった。
中盤あたりではもう2期の可能性が見え始めて、声優も新人声優や有名どころを取ってる、あの頃の人気アニメ。
しかも、物語の始まりが秋だから、体育祭やら文化祭なんかのテンプレにも頼らないのにあれはすごい。
でも、音楽祭の話は結構良かった。
「見たい、絶対見たい……」
グッと拳を握るも、そんな夢は叶わない。
異世界と日本を行き来できれば……!
何故か新しい目標が追加された。
神に会うこと。そして日本と行き来できるようにすること。
「こんな日本、私のいた日本じゃない。こんなの、私の過ごしてきた日常を全否定してきてる。悪趣味すぎるって。」
その頃には着ていた夏服は魔法少女服に変わり、黒塗りのコートを着ていた。
「龍神だよね。あの霧、幻覚を見せる作用でもあるわけ?それとも、試練的な?」
その言葉に誰も返すことはなく、それは独り言になる。
「私には効かなかったみたいだね。というか、こんな試練、もういろんなとこで擦りすぎて使う部分ないでしょ。」
完全に真っ白な世界に閉じ込められ、どうすればいいか、もう分からなくなる。
「はいはい、もう好きにして。突破すればいいんでしょ。」
そうひと言。目を瞑ると、また意識が薄れていく。
次は一体何が起こるやら。
ま、次の私に託すしかないね。
頑張れ、私。
そう心で呟いた瞬間、意識を手放す。次に目覚めた時、私は、平常心でいられるだろうか。
———————————————————————
はい、来ました来ました、ご都合展開×ありがち試練。
今回はは過去にまつわる話でしたね。
過去を改変して、幸せな未来を紡ぐ。あったかもしれない未来を、紡いでいく。勝手に、紡がれていく。
まぁ空は本物の両親なんて大っ嫌いなので、引っかかることはなかったですが。(でもきっかけはゲームだった模様)
ちなみに「秋まに」と「Import Girl」は、空のオタク設定、しかも日本にいるという状況で観ている作品を描写しなければ、という謎の使命感によって生み出された作品です。
アニメを観ていても、そんな細かい知識なんて無いに等しいので、勘です。適当です。
考えに考え抜いた結果、適当でいいという判断に落ち着きました。
もっと心がぴょんぴょんするようなアニメを考えたかったんですけど、無理でした。
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