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9章 魔法少女と天空の城
274話 魔法少女とご都合試練
しおりを挟むタッ、タッ、タッと、一定のリズムで宙を弾んでいくこと体感30分。空中歩行もなかなかの消費があるので、さっさと昇り切りたいと思いながら大きく踏み込む。
ライの回復薬も残り3本だったし……やばいかもしれない。
「これ、いつまで続くんでしょうね。」
「さぁ?私的には早く終わってほしいよ。腕は重いは揺れは酷いはで普通にキツい。」
自分の両腕にすっぽり抱えられた軍服の百合乃。ある部分が異常に育っているので、抱えるのも一苦労。
こんな脂肪の塊、あったってどうにもならないよ。冒険者なんかやるんだったら尚更。
「触ります?」
「落とすよ?」
「もうっ、わたしは空に堕ちてますよ?」
「この天空からの紐なしバンジージャンプ、片道切符があるんだけど、逝ってみる?」
「行きませんよ?逝きもしませんからね!?」
ぎゅーっと私の体に百合乃の体を押し付けてきて、やっぱりある部分が押しつけられる。
「そういうの、男子しか喜ばないよ。」
「いや、男子にはちょっと……」
「オブラートに包むのやめた。百合乃。今の百合乃は普通に邪魔。だから、暴れないで。落としちゃっても知らないよ。」
「空も段々、扱いが雑になってません?」
そんな都合の悪い言葉はこの天空の下に放り込み、作業に戻る。
こんな変態にわざわざ気を使う必要なんてないよ。そもそも、オブラートに包んであげてる時点で優しさじゃん?
と、変な言い訳も一緒に捨てておく。
「っと、一向に着く気配がない……っ、いい加減、脚も疲れてきた……ふっ、ん。」
もっと上昇系の能力を作ればよかった……と思いつつ、重力操作の魔力の使用量にため息を吐く。。
この後が龍神戦じゃなければ、使えたんだけど。まぁその前に、まず私の操作能力の問題も解決しなきゃだしね。
「空、なんか魔物?鳥が10羽来ます。」
「おっ、右ね。ナイス、百合乃。」
そこは普通に称賛を送り、百合乃は少し嬉しそうに頬を掻く。そのまま腕から背に移行し、ちょっとむすっとしていたのは気のせいだろうか。
「レールガンには名前つけたんだし、この銃にも付けよっかな。」
そう言いつつ、空間を縮めて8発の弾を撃つ。
「キュルワァァァッ!」
先頭の鳥が叫び、後方はそれを聞いて旋回するように避け始める。そのせいで、当たったのは3発。
空中戦は分が悪い。
なら、早速コピーをパクろう!
流石に百合乃の前で「選択銃弾!」などと叫ぶわけにはいかないので、そこは名称変更する。
「前回は神の名前から取ったし、今回は………雷の武器にケラウノスとかあったよね。でも語呂悪いし、ラウノス、いや……ウノス……ラノス。ラノスにしよう。」
ボソボソと独りごち、たった今命名した自動拳銃ことラノスを魔物に向ける。
「変換、重力弾。」
意味は無いけどそれっぽい詠唱でカッコよく見せ、マガジンを新たに装填したラノスの引き金を引く。直後、パァァンッという4回の発砲音の音の後、7匹の鳥群はノロノロと下降を始める。
「空ー、今何したんです?」
私の背中に甘んじる百合乃が、フワッとしたノリで聞いてくる。
「百合乃も百合乃で驚かなくなったね。」
「お返しです。」
「特段やられたって気持ちにはならなかったけど。」
「そうです?」
「そうです。」
フワフワ(違う意味)鳥(瀕死)をわざわざ追いかける趣味は無いので、先を急ぐ。
今何したかって?それは簡単。
って、百合乃に言わなきゃダメなやつかこれ。
「物質変化で魔力に細工しただけ。今回は込める魔力も時間も少なかったから、ちょっと羽に重力の負荷をかけて範囲攻撃にしただけ。」
「重力範囲攻撃とかそれこそチートじゃないです?」
「未来読める人は黙ってて。」
「見えても行動できなきゃ意味ないです。その点空は、最後までチョコたっぷり。」
「どこのト○ポよそれ。私はスティック状のチョコ菓子じゃないし、せめて何かネタにしようよ。なんでそこはチョコに甘んじたの。チョコだけに。」
「上手くもなく不味くもないです。」
謎に採点されたことに若干苛つきを覚え、銃底で手の甲をゴンと叩く。それなりの防御力はあるし、大丈夫だと信じたい。
「いつっ!空、わたしを落とす気じゃ?」
「あ、バレた?」
「殺す気です?!」
「嘘嘘。気にしない気にしない。」
「気にします、ぅっ~~!かみぁ……」
突然空中を蹴ったことによって、百合乃は舌を噛んだ。痛そうにうーうー唸ってるけど、とりあえず放置で。
はぁ。背中は背中でうるさい。じゃあどこにって話だけど……腰に紐つけて括り付ける?
流石に可哀想か。
年頃の女の子にそんな乱暴な方法は可哀想かなと、仕方なく飛び続けることにした。
それから数分と経ち、変わらない空を眺めていた。
それからまたまた今までと同じ時間ほど飛び続けていると、いつの間にか万能感知に強い反応が現れた。
「……百合乃。来たかもしれない。」
それ以上言葉は要らない。その言葉だけで百合乃は理解したようで、今までだらけ切っていたその顔をピシッと作り直す。
「思わず襟首を立てちゃいそうです。」
「百合乃はスーツなんだし、したら?」
「暑いです。」
「あ、そう……」
真顔で即答されて、なんか微妙な気持ちになる。
万能感知を頼りに、更に強く宙を蹴る。大きく跳躍すると、その先には空島のようなものが急に現れる。
今までそんな予兆はなかったのに、急に転移してきたみたいに。
「っ!?……ぁは、ビビったぁ……いきなりすぎないです?」
「確かに私もビクった。まぁ認識阻害とかその辺かな。」
少し岩肌?土肌?の飛び出た場所があり、華麗な着地を決める。それはもう、クルッと、シュパッと。
はぁ~、長旅だった。魔力は……高速回復と回復薬でだいぶ残ってる……かな?
高速回復は信頼してもよさそうかな。
回復薬はいらないかな、と呟き、ステッキに収納したままにする。
「あれ?なんか霧出てない?」
「確かに、言われてみたら水分を感じますね。こう、なんか嫌な雰囲気がします。」
百合乃が軍服越しに自分の体を抱きしめ、少し青い顔で私の側に来る。
目的の場所、ではあるみたいだけど……龍神の棲家というより幽霊とか出てきそうな薄暗い森を連想する。
一寸先は闇ならぬ、一寸先は霧って?
「ま、やることは変わらない。人神みたいに祠とか神殿とかあると思うし、何より変な島だから足元気をつけて。」
「了解です。」
一気に緊迫した雰囲気になったこの場では、流石の百合乃も真面目ムーブ。この調子で頑張ってもらいたいところだ。
「じゃあ今度こそ、警戒して。」
「はい。」
迷いの森の二の舞にならないよう、2人同時に足を踏み込んだ、その時。
「———っ!!」
「———ぁ!!」
霧で視界も、声すらも掠れて何も見聞きできなくなる。霧が一層濃くなり、私達を分断して全てを覆い隠した。
聴覚と視覚。人の大部分の感覚が……
っ、平衡感覚と方向感覚が……意識も、朦朧として?
まるで夢でも見せられるかのような気分になり……無理矢理、自分ですらどこにあるか分からなくなっている脚を叩きつける。
感覚はない。確かに何かを何かにぶつけたとは思うけど、それは一体どこで、どんな場所に作用したかは分からない。
起きなきゃ、そう思ってやった。
こんなご都合な試練、もういらないって……
もうお腹いっぱい、そう言いたかったけど、意識は消えていく。
その間際に思ったことは、キューは大丈夫なのかな、だった。
———————————————————————
今回は次回に向けて少し軽く書きました。量もほんの少し少なめです。
そして、次の木金辺り、投稿休む可能性が大です。私事ですが、少し遠くへ行くことになりましてね。
どこに行くかだけは一応言っときましょう。山です。それはそれはもう、山奥。圏外っすよ、圏外。今の若者に、圏外はきついですよ。
こんなさっむい季節に山奥、それも圏外なため、休ませていただきます。
私も、行きたくないんですけどね。仕方ないことなんです。
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