魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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9章 魔法少女と天空の城

265話 魔法少女は迷い込む

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「もうそろそろ森入るから、準備して。って言っても、する準備なんて心の準備しかないけどね。」
「ひょっとはってふだはい。」
あっつ熱の肉を口いっぱいに入れながら、精一杯の返事をする。

 あー、やり過ぎたかな。この肉、ささみみたいで食べにくいから一気に入れたら口がパサパサになるし……水あげよ。

 某竹林産の竹筒に入れられた水を放り投げると、百合乃はそれに全く気付かずに「ひはっ!」と後頭部を抑える。

「なにふるんへす?」
「いや、それ飲んで口を潤してもらおうかと。」
「はしはにはけはみふをふふんへまふひへ。ひゃひい!」

「いや。その中に入ってるから。」
「……ほうひふのへしはは。ひはひへふへぇ。」
百合乃は転がった竹筒を手に取り、まるでファイト一発のリポ○タンDでも飲むかのようにグビ飲みを始めた。

「ん、ん……ぐっ!?ごほっ、ごほっ!喉が、気管がぁ……」
「……はぁ。」
こんなのをわざわざ待つ必要ないと結論付け、踵を返して森に足を運ぶ。

 情報から見ると結構綺麗な形してるね。なんか、誰かが1本1本植えたみたい。

 異様な雰囲気を放つ薄暗い森の入り口に足を踏み入れようとした瞬間、「待って、空!」と百合乃がガバッと背中に抱きついてくる。

「うぶっ……!ちょ、百合乃!危なっ、って!」
勢いを抑えようと脚に力を入れるも、その勢いは殺しきれずにたたらを踏む。

 ほんとに百合乃、さっきから邪魔にしかなってなくない?
 確かに「噛みつきたければ噛み付けばいい」的なこと言ったけど、こんなギザギザの歯は噛み付かないでほしい。

 眉間に皺を寄せて引き離すと、いつの間にか森の中に入っていた。

「ったく、百合乃のせいで確認できずに入っちゃったじゃん。」
「すみません。そしてごちそうさまです。」
私の髪の毛を口元に貼り付け、口から尊みを溢れさせる。

「っ、ほんと置いてくよ!」
「ごめんなさいごめんなさい!お願いです、置いてかないでっ!」

「あ、ちょっとやめてください、百合乃さん。私、あなたみたいな変態知りませんので。」
「ほんとに、ほんとに謝るので、やめてくれません……?」
少し涙目になり始めた百合乃。観念したのか、土下座ムーブで膝を崩す。

「こんなところでジャパニーズな謝罪は要らないから。」
「Japaneseですよ?」

「発音はどうでもいい。」
いつもの上手い英語でマウントを取られた気がして、ちょっとムカついたのは内緒だ。

「それにしても、魔力感知が発動しないんだけど、どういうことです?」
「そんなはずないと思うんだけど。ちょっと待って……万能感知。」

「どうです……?」

「反応はある。」

 反応ある。でも、この森全てから。草木から地面、空気まで魔力で満たされてて、脈が正常に機能してない。
 ほんとにどういうこと?

 眉を顰めて周囲を確認し、その異様な雰囲気の正体はこれかと少し納得する。

「たぶん、この森自体が魔物みたいなもので、魔力が浸透してる。普通の人間だったら死ぬね、多分。」
「怖っ!」
後ろに飛び退き、両手を後ろにあげる百合乃。リアクション王でも名乗れるんじゃなかろうか。

 今の人間なら大丈夫だろうけど、魔力を受け入れられる人だとやばいね。

「っ、空!魔物が!」
振り返ると、何もない草むらを指す百合乃が何やら大慌てで騒ぐ。

「オッケー!」
私はそれを疑いもせず、右手に構えた拳銃の引き金をしぼる。

 軌道予測。これだけはめっちゃ便利なんだよね。奇襲をされないとか、めっちゃ楽だ。

 パァァンッ!パァァンッ!パァァンッ!

 乾いた発砲音が3発なり、その先には突然飛び出してきたであろう紫紺の獣が血に濡れて倒れていた。

「ふぅーっ、こんなもんかな。」
「事前に分かってて1発しか直撃しないですか……銃のセンスがないんじゃないです?」

「分かってるから、傷口抉らないで?」
可愛い顔して割とやばいことを言う百合乃が、私のハートにクリーンヒットなストレートパンチを食らわせてくる。脳内の私が血反吐を吐き、その場に片膝をつく。

 私だって、某web小説サイトの主人公みたいにバンッ!ズドンッ!イェイ!とかしたいよ。
 でもね、一介の女子高生が銃なんて扱えると思ったら大間違いなんだよ!

 そこんところ、オーケー?

 見えない画面の前のみんなにそう確認をとり、血反吐を拭う。

「……もっとやっとこ。」
そう呟くと、上下左右、最後に正面。計5つの発砲音を轟かせる。

「え?なんですっ?」
「警戒させるため。こんな風に軌道予測頼りとか、普通に不安だからね。お仲間を殺した人が殺した武器で連射したら流石に警戒するでしょ。」
「はぁ。」

「分かってないね。」
「ご名答!」
「あ、うん。」
死体をステッキに収納し、淡白に返事を返す。ネタに付き合い続けると、永遠に終わらない可能性があるし。そのままマガジンの装填も行う。

「それじゃあ先進むよ。」
「え、バイクは使わないんです?」
「こんな森の中でバイクが使えるとでも?」
「何言ってるんです?使えるわけないじゃないですか。まさか、使おうとn」

「さぁて、今日はどんなご飯を作ろうかな?ん?人のお肉って、鳥とか豚とかに近いらしいよ?」

「そ、空がまたサイコパスに……」
「そう言うならカニバリズムね。」
結局ボケとツッコミは変わらず、側から見たら正気を疑われそうな会話を続ける。

 この森を作った人がいたなら、「え……もっと警戒してゆっくり進むものじゃ……」と項垂れるかもしれないね。

———————————————————————

 次回、待ち望んだ(人はいないであろう)魔族との遭遇です。
 ネタバレすると、散々ネタにされた挙句締められる不憫なネタキャラですが、最初期の超珍しい魔族なはずなんです。そう……そうだった、はず。

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