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9章 魔法少女と天空の城
263話 一方その頃 (各視点)
しおりを挟む魔法少女が姿を消してからいくらか経った。
まだ1週間やそこらだが、パズールの皆は一様に心配の念を抱いていた。
まさか、あのソラが……と。
そしてここ、丘の上のある家に4人の人影が。
「ソラさん捜索隊を組みましょう!」
広間でそう高らかに宣言するのは、この街の領主であるフィリオの娘、フェルネールことネルだ。
「そんなことできるんですか……ネル様。」
そんなネルにおどおどと質問を投げかける少女は、ロア。一介の市民であるが、空との関わりがあるため人脈は多からずある。
「あたしもやる。主、探したい。」
決意の眼差しでネルを見つめる、歳に似合わない幼気な見た目のケモ耳少女、ツララ。奴隷だ。
「3人だけでは危険ではないですか?特にフェルネールお嬢様は、ご令嬢なんです。」
不安気に呟く緑髪の女性はクミル。空の花壇の世話係だ。
この4人が、空について話し合っていた。
「そもそもソラさんはどこへ消えてしまったのでしょうか。ツララの話によると、まるで神隠しのように聞こえますが……」
「大丈夫。主、生きてる。微かに、主の気配、感じる。」
まだ言葉の拙いツララであるが、しっかりと意思をぶつけることができている。
「ソラさん……」
「サキも心配していましたからね。あの時は泣きそうでしたし。」
指を絡めて悲し気な声を出すロアの背中をトントンと宥める。およそ領主との娘とは思えないラフさだ。
このような対応が、後の信頼確保に大きく役立つとは思っていないだろうが。
「ここは子どもの私たちでどうにかできる問題ではないようですね。戦力はツララ1人で十分そうではありますが、行動範囲が狭まってしまいますし。大人がいれば、変わるんですが……」
チラリチラリとクミルに視線を送り、それを感じ取ったクミルはスマイルを浮かべてこう言う。
「いけません、フェルネールお嬢様。」
「……そうですか。元々、お父様の許可が下りるわけがないので不可能でしたけど。」
悲しそうに首を振るネルは、話がスタートラインに戻ってきたことにため息を吐く。
「さて、どうしましょう。」
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天空に聳える遺跡のような島。その一角にある神殿の中でがっくりと倒れ込む男がいた。
式家蓮。転生者だ。
彼は創滅神直々の願いに応え(少しでも神の存在に近づくためという下心100%)、今こうして魔力枯渇で倒れていた。
彼の魔法には魔物から魔法を奪う能力を持つものがあるが、実を言うと奪えば奪うだけ確率が減るという制限がある。
彼はそんなことはあまり気にせず、戦闘狂のように殺し尽くしている。
それが、確率の壁を超えて魔法を手にすることができる秘訣である。
奪った力の1つに、再生能力を持つものがある。もうそろそろ、その力によって目を覚ます頃合いだろう。
「……ぁ、ん……さぃ……」
小さく呻きながら起き上がった彼は、ガリッと歯を噛み締めると、チッ。寝ちまってたか、と悪態を吐く。
寝起きにこれとは、彼の性格は随分と捻くれたようだ。
それも、全ては死の理由と転生、そして孤独によるものだ。
「あぁ、思い出してきた。俺は、間接的だが憎たらしい神の1人を殺したんだったな。」
だった、と過去形なのは、実際に過去で起こった出来事だからだ。
この時点で、龍神の生死は決まっている。
「創滅神。今度会った時は、殺してやる。」
そう一言だけ吐き捨てると、雲の下へと飛び去った。
————————————
白い顎髭を蓄えた老人。龍神ルーが、自分の運命を悟り、最後の一手を打っていた。
危機を生み出していた張本人であった魔法少女への干渉は、創滅神による一手にて封じられ、未来に戻って立て直すという手も先に潰されていた。
もう、目の前の道を歩くしかない。
「……最後の試練だ。乗り越えて見せろ。……そうしたならば、納得しよう。」
龍が滅ばぬことだけを願い、地獄を生み出す。
「……‥これだけは忘れないで欲しい。命は皆、平等と。」
その呟きが、誰かに聞こえることはない。ただ雲の上に放たれた。
平等。それがどのような意味なのか。
皆、同じように生きているなどというありふれた意味なのか。
それとも、滅びは誰にでもやってくると、暗に伝えているのか。
今もなお龍が生きながらえているのは、魔法少女がその意図を汲み取ったからなのか、逆に龍神が勝利したのか。
それを知るにはまだ早い。
————————————
「ハッハッハッ!面白いではないか。」
この世の果てで笑い声を上げる者が1人。
創滅神その人である。
百合乃を呼び、差し向けた張本人。
彼女が空を選んだ光景を覗き見て、新たな雫の誕生に楽しそうな笑みをこぼす。
「もしや、奴らは本当に我の元までくるやもしれん。茶菓子の1つでも用意させるか?ん?」
誰もいない部屋。独り言が延々と木霊する。そんな様子も気にせずに、考え耽るような沈黙をする創滅神。
「これが終わったなら、何か情報を与えてやってもいいかもな。我、天才だ。」
そう、バカ丸出しのセリフと共にまた画面に目を向ける。
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目の前には四方何キロメートルあるか分からない巨大な森があり、そんな中優雅(笑)にランチを食する人、すなわち私達がいた。
「そろそろ離れてくれない?火の前で抱きつかれると暑いんだけど。」
「なら、火がなければいいんd」
「いつでもダメだけど。」
口を尖らせながら渋々腕を離す百合乃に、スパイシーな肉を無理矢理放り込む。
「あふっ!」
「よく噛んでねー。」
ワタワタと暑さに悶える百合乃をおかずに、もしゃもしゃとササミみたいな食感の肉を貪る。
百合乃が来てからなんか私、真面目になったような気がするんだけど……気のせい?
え?百合乃のヤバさ加減が突出してるだけだよね?
みんながこんなに色々している中、私はそんな誰も心配しないことを気にしていた。
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この回は閑話です。ですが、何故閑話と表記されていないのか。それは簡単。
修正がめんどくさ……ゲフンゲフン。
いえ、なんでもありません。
あ、あ~、そういえばですが、しばらく適当な感じが続きそうですー。戦闘は後ちょっと先です。
ちなみに最後のは次回最後の補足部分ですので。なんでここに入れたかって?…‥聞かないでください。前半の文で、察してください。
応援ありがとうございます!
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