魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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8章 魔法少女と人魔戦争

閑話 百合乃の選択

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 これは彼女の旅立ちの少し前のこと。


 ある街の門にて。門番すら引き、頬を引き攣らせるほど怪しさ満天の少女がそこにはいた。

 その服装は森の奥深くのように暗い緑の色をしたショートコートが肩辺りに紐でつけられ、その先には同色の暑苦しいスーツを着ている。少女らしからぬズボンを履く彼女の名は言わずもがな、百合乃である。

 なぜ百合乃がこんなところにいるのかというと、単に空を待っているだけである。
 街を持ち前のステータスと脚力で1周し、門にたどり着くと、小1時間ほど見張って取り敢えず今日は出かけないと判断し、街に戻る。

 実を言うと、こっそり杭を登って外に出ているのだが、気づくはずもない。なぜならば彼女は、うんうんと唸り、銃作りに励んでいるからである。

 百合乃は昨夜引き渡されたリーシーの家にトボトボと戻り、「心配です……」と口から不安をこぼした。

「朝から走っていたが、訓練か?これは単に気になっているだけだが、ユリノも、ソラのように強いのか?」
「いえ、別に……訓練とかじゃないですし、強くも無いです。」
百合乃とリーシーは昨夜仲直りをし、現在彼女はその大きく伸びた金髪を1本に結び、木剣を振るい美しく汗を流していた。

「ちょっと空を探してて。」
「どうしてだ?」

「空、1人で強大な相手に立ち向かいに行くらしいんです。でも、不安だからついて行きたいって言って。ダメって断られて……」

「ふむ。確かに大切な友が1人でとなると、不安か。」
木剣を片手に、百合乃の話をゆっくり咀嚼するように聞き入れ、共に悩む。その間、静寂が流れる。

「結局のところ、ユリノはソラに何をして欲しいんだ?」
その静寂を、木剣と共に切り裂いたのはリーシーだった。

「何を……?」
「その話を聞く限り、ただついて行きたいと我が儘を押し付けた一方で、何がしたい、何ができると、重要なことをすっ飛ばしているように聞こえる。」

「……そう、です?」
「そうだ。」
キッパリと言い切る。その切長の目は、長い間戦地で前線を張っていた者のソレだ。妙な説得力を帯びている。

「ユリノは何故ついて行きたい?ついて行って何ができる?何に貢献できる?感情を優先するのは仕方ない。私もそうだ。だから、最低限相手のためになるよう考えろ。頭を回せ。」

「わたしは……空に……」
リーシーの言葉に心が震え、深く深く思考する。

 何故ついて行きたい?
 空が1人で行くのが心配だから?変なスキルを追加されてるから?

 違う。ただ空と一緒にいたい。

 なら、どういう活躍ができる?
 自分は料理が得意だ。レシピさえあればなんだって作れる自信はある。スキルも、空のお墨付きを貰っている。

 ダメだ。思考が完全に迷子になる。

 つまりどうしたい?

「空を、守りたい。側にいたい……です!」
「そうか。なら、そこでボーッとしているわけにはいかないな。」
振っていた木剣を止め、汗を腕で拭った。そしてこちらを向き、その木剣を今度は百合乃に向けた。

「その武器を見る限り、剣を使うんだろう?ならば、できる限り教えてやろう。さぁ、抜け。」

「いいんです?これ、本物ですよ?」
「大丈夫だ。そんな柔な鍛え方をしているつもりはない。」
その覇気は、まるで無意識に脈でも操っているかのように見え、安心感が生まれる。

 百合乃は腰に付けられたサーベルを引き抜くと、ブンッ!と空気を裂き、口角を上げた。

「わたし、空曰く化け物らしいです。技術は拙いけど、まだ使えないのもありますけど、特殊な技が使えます。大丈夫です?」

「あぁ。全力で来い。本物のに育て上げてやろう。私の全てを教えるつもりだ。短時間で、吸収できるだけしろ!」
戦友の死によりもう振らないと友に誓った。が、木剣といえど剣を振るい、前線の頃に培った経験をバネに鋭い木刃が飛んでくる。

「少しでも、役に立てるようにはしてやろう!」


 それから10日ほど経った。その間毎朝フルマラソンレベルの街中全てを一瞬で駆け抜け、門で待機するしていた。

 そのおかげで体力と気力もつき、ステータスを超えてその体自体が鍛え上がった。
 リーシーとの訓練により、激しい剣戟を覚えた百合乃は、剣姫のスキルに目覚めた。

 剣姫とは素晴らしいもので、「剣」にまつわっていれば、どんな技術でも一流にこなせる。
 そのおかげか、勘も鋭くなり軌道予測も効果が倍以上に跳ね上がり、魔力感知すら軽くできるようになった。

 魔力感知により空気中の魔力を視認でき、サーベルに魔力を纏わせ、刃を飛ばすことすらできるようになった。
 これを飛翔刃と勝手に命名し、にこやかに笑う姿も見られた。

 この翌日、門で旅立ちを始める空に出会うが、まだ百合乃は知らないことだ。


「ふっ、まさか10日で私といい勝負ができるとはな。しかも、まだ使う羽目になった。」
「いいんです?使っちゃって。」

「別にいいだろう。彼女も、これから友を救いに行く者の手助けをする程度、見逃してくれよう。」
「どうですかね?恨んで枕元に化けて出るかもしれませんよ?」

「はっはっは!それなら、その程度の友だったということだ。さっくりと切り捨ててやろう。」

「友達じゃ?」
この10日で非常に仲が良くなった2人は、今日も授業後、汗を垂らしながら楽しげな会話を繰り広げる。

 一方その頃、空はというと10日にも及ぶ銃の練習期間を設け、弱点や撃てる数を調整し、現在はマガジンの補填に当たっていた。

「そろそろ、旅立ちの時では無いか?」
「空に聞いてくださいよ。どこにいるか知りませんけど。」

「まぁ、今のユリノなら、そこらにいる魔物なら一刀両断できよう。頑張れ、としか言いようがない。……私は、もう覚悟はできている。いつでも出ていけ。言う必要はない。」

「それなら、今ここで先に言います。」
溢れんばかりの感謝の言葉を胸にグッと押さえつけ、強い意志で伝える。それを、沈黙をもって了承する。

 リーシーも、思うところがあったのだろう。

「わたしに、勇気を与えてくれてありがとうございます。わたしに、力を与えてくれてありがとうございます。言葉足らずかもしれないです。でも、本当に感謝してるんです。……また、会う日まで。」

「あぁ。」
今すぐに、というわけではないが、お別れムードが広まる。

 これで百合乃の準備は整った。後は翌日、空を待つ。そして物語はまた始まる。

———————————————————————

 今回は閑話といいつつだいぶ重要?な話をしてます。
 閑話には本編から逸れ、空以外にフォーカスを当てる。もしくは飛ばしてもなんとかなるような話を書いているので、分類的にいうと間違ってはありません。
 補足回が多いので、逆に見ない方が推理(そんなことできる回は滅多にない)ができるので、読まないほうが人によってはいい場合もあります。

 なのに、今回読まなきゃ、あれ?時間経ちすぎ……やら、百合乃何してた!?やら、急に強くね?など、ツッコミどころが多くなります。

 何故閑話になったんでしょう。不思議でたまりません。
 ちなみに今回の10日間は乙女の秘密です。
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