274 / 681
8章 魔法少女と人魔戦争
閑話 百合乃の選択
しおりを挟むこれは彼女達の旅立ちの少し前のこと。
ある街の門にて。門番すら引き、頬を引き攣らせるほど怪しさ満天の少女がそこにはいた。
その服装は森の奥深くのように暗い緑の色をしたショートコートが肩辺りに紐でつけられ、その先には同色の暑苦しいスーツを着ている。少女らしからぬズボンを履く彼女の名は言わずもがな、百合乃である。
なぜ百合乃がこんなところにいるのかというと、単に空を待っているだけである。
街を持ち前のステータスと脚力で1周し、門にたどり着くと、小1時間ほど見張って取り敢えず今日は出かけないと判断し、街に戻る。
実を言うと、こっそり杭を登って外に出ているのだが、気づくはずもない。なぜならば彼女は、うんうんと唸り、銃作りに励んでいるからである。
百合乃は昨夜引き渡されたリーシーの家にトボトボと戻り、「心配です……」と口から不安をこぼした。
「朝から走っていたが、訓練か?これは単に気になっているだけだが、ユリノも、ソラのように強いのか?」
「いえ、別に……訓練とかじゃないですし、強くも無いです。」
百合乃とリーシーは昨夜仲直りをし、現在彼女はその大きく伸びた金髪を1本に結び、木剣を振るい美しく汗を流していた。
「ちょっと空を探してて。」
「どうしてだ?」
「空、1人で強大な相手に立ち向かいに行くらしいんです。でも、不安だからついて行きたいって言って。ダメって断られて……」
「ふむ。確かに大切な友が1人でとなると、不安か。」
木剣を片手に、百合乃の話をゆっくり咀嚼するように聞き入れ、共に悩む。その間、静寂が流れる。
「結局のところ、ユリノはソラに何をして欲しいんだ?」
その静寂を、木剣と共に切り裂いたのはリーシーだった。
「何を……?」
「その話を聞く限り、ただついて行きたいと我が儘を押し付けた一方で、何がしたい、何ができると、重要なことをすっ飛ばしているように聞こえる。」
「……そう、です?」
「そうだ。」
キッパリと言い切る。その切長の目は、長い間戦地で前線を張っていた者のソレだ。妙な説得力を帯びている。
「ユリノは何故ついて行きたい?ついて行って何ができる?何に貢献できる?感情を優先するのは仕方ない。私もそうだ。だから、最低限相手のためになるよう考えろ。頭を回せ。」
「わたしは……空に……」
リーシーの言葉に心が震え、深く深く思考する。
何故ついて行きたい?
空が1人で行くのが心配だから?変なスキルを追加されてるから?
違う。ただ空と一緒にいたい。
なら、どういう活躍ができる?
自分は料理が得意だ。レシピさえあればなんだって作れる自信はある。スキルも、空のお墨付きを貰っている。
ダメだ。思考が完全に迷子になる。
つまりどうしたい?
「空を、守りたい。側にいたい……です!」
「そうか。なら、そこでボーッとしているわけにはいかないな。」
振っていた木剣を止め、汗を腕で拭った。そしてこちらを向き、その木剣を今度は百合乃に向けた。
「その武器を見る限り、剣を使うんだろう?ならば、できる限り教えてやろう。さぁ、抜け。」
「いいんです?これ、本物ですよ?」
「大丈夫だ。そんな柔な鍛え方をしているつもりはない。」
その覇気は、まるで無意識に脈でも操っているかのように見え、安心感が生まれる。
百合乃は腰に付けられたサーベルを引き抜くと、ブンッ!と空気を裂き、口角を上げた。
「わたし、空曰く化け物らしいです。技術は拙いけど、まだ使えないのもありますけど、特殊な技が使えます。大丈夫です?」
「あぁ。全力で来い。本物の剣士に育て上げてやろう。私の全てを教えるつもりだ。短時間で、吸収できるだけしろ!」
戦友の死によりもう振らないと友に誓った。が、木剣といえど剣を振るい、前線の頃に培った経験をバネに鋭い木刃が飛んでくる。
「少しでも、役に立てるようにはしてやろう!」
それから10日ほど経った。その間毎朝フルマラソンレベルの街中全てを一瞬で駆け抜け、門で待機するしていた。
そのおかげで体力と気力もつき、ステータスを超えてその体自体が鍛え上がった。
リーシーとの訓練により、激しい剣戟を覚えた百合乃は、剣姫のスキルに目覚めた。
剣姫とは素晴らしいもので、「剣」にまつわっていれば、どんな技術でも一流にこなせる。
そのおかげか、勘も鋭くなり軌道予測も効果が倍以上に跳ね上がり、魔力感知すら軽くできるようになった。
魔力感知により空気中の魔力を視認でき、サーベルに魔力を纏わせ、刃を飛ばすことすらできるようになった。
これを飛翔刃と勝手に命名し、にこやかに笑う姿も見られた。
この翌日、門で旅立ちを始める空に出会うが、まだ百合乃は知らないことだ。
「ふっ、まさか10日で私といい勝負ができるとはな。しかも、本物まだ使う羽目になった。」
「いいんです?使っちゃって。」
「別にいいだろう。彼女も、これから友を救いに行く者の手助けをする程度、見逃してくれよう。」
「どうですかね?恨んで枕元に化けて出るかもしれませんよ?」
「はっはっは!それなら、その程度の友だったということだ。さっくりと切り捨ててやろう。」
「友達じゃ?」
この10日で非常に仲が良くなった2人は、今日も授業後、汗を垂らしながら楽しげな会話を繰り広げる。
一方その頃、空はというと10日にも及ぶ銃の練習期間を設け、弱点や撃てる数を調整し、現在はマガジンの補填に当たっていた。
「そろそろ、旅立ちの時では無いか?」
「空に聞いてくださいよ。どこにいるか知りませんけど。」
「まぁ、今のユリノなら、そこらにいる魔物なら一刀両断できよう。頑張れ、としか言いようがない。……私は、もう覚悟はできている。いつでも出ていけ。言う必要はない。」
「それなら、今ここで先に言います。」
溢れんばかりの感謝の言葉を胸にグッと押さえつけ、強い意志で伝える。それを、沈黙をもって了承する。
リーシーも、思うところがあったのだろう。
「わたしに、勇気を与えてくれてありがとうございます。わたしに、力を与えてくれてありがとうございます。言葉足らずかもしれないです。でも、本当に感謝してるんです。……また、会う日まで。」
「あぁ。」
今すぐに、というわけではないが、お別れムードが広まる。
これで百合乃の準備は整った。後は翌日、空を待つ。そして物語はまた始まる。
———————————————————————
今回は閑話といいつつだいぶ重要?な話をしてます。
閑話には本編から逸れ、空以外にフォーカスを当てる。もしくは飛ばしてもなんとかなるような話を書いているので、分類的にいうと間違ってはありません。
補足回が多いので、逆に見ない方が推理(そんなことできる回は滅多にない)ができるので、読まないほうが人によってはいい場合もあります。
なのに、今回読まなきゃ、あれ?時間経ちすぎ……やら、百合乃何してた!?やら、急に強くね?など、ツッコミどころが多くなります。
何故閑話になったんでしょう。不思議でたまりません。
ちなみに今回の10日間は乙女の秘密です。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる