魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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8章 魔法少女と人魔戦争

246話 魔法少女は帰還を待つ

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「うーん、何しよう。」
硬い岩の椅子に座り、うんうんと唸っていた。

 私もようやく自由の身。でも、いきなり自由になったところで、何をしたらいいかなんてさっぱりなんだよね。

 そう考えると、一気にめんどくさくなって、「やめだー!」と叫んで後ろに倒れる。もちろん痛い。

 あの後、数分の雑談を終え、指令さんのお名前を教えてもらった。
 名前はクリスティー。愛称はリーシー。

 リーシーさんは、分かりにくい後日談を分かりやすく変えて語ってくれた。

 森が燃えたことに不審がって来たら私が倒れてて、なんとですます姉妹が助けてくれたらしい!ツンデレだ!ツンデレはこの世に存在したんだ!

 思考が暴走し、現実の私が妄想の雲を消すように手を振った。

 ゔっ、ゔんっ。
 そしてここまでリーシーさんが運んできて、3日間世話をしてくれた。あそこでオレンジ髪の方がいたのは、2人とも少し用事があって、仕方なくだったという。

 大所帯だと邪魔だから、王国側、別国側の人達が先に帰り、B隊を中心に残りの人達が様子見も兼ねて残された、と。

 そんで、明後日帰ります。そういう話。

 特に魔物の発生とかもなかったみたいで、私もそれは安心だ。

「製作者からすると、成功っていうのは案外嬉しいものだね。」
よっと、と声を出しながら立ち上がり、洞窟の外に出て空気でも吸おうと歩き出す。

「目が覚めてからずっとここだし、こういうところは息苦しくて好きじゃないんだよね。」
コツコツと鳴るブーツの音に耳を傾けながら、ボソッと呟いた。そこで、どこからともなくギュルル~、という音が下から聞こえてくる。正確に言うと、お腹の辺り。

「目が覚めてから、水吹き出しただけだった。」
約3日間、特に何も食べずに生活して来たことを考えると、急激にお腹が空いて来て、更に追加で音が鳴る。

 はぁ。食材生成で何か作りますかねっ、と。

 いつの間にか見えていた出口を、ジャンプで飛び越えた。

「ちょっと暑い……かな?洞窟の方が涼しかった気がする?多分。」
それでも、景色が広くて空気も美味しいという圧倒的なプラスがあるため、毛ほども気にならない。

「すぅー、はぁー。……森焼き尽くしちゃったけど、特に気にはならないね。」
途中、その事実に気づいて苦笑いになる。いろんな人から「オイコラ」とツッコまれそうだ。

 そういうのは言わないお約束。全部敵の仕業にしとけばいい。
 蜂を倒した拍子にこうなったとか、死んでも知られたくないし。

 これは墓場にまで持っていこうという謎の決意を固め、顔でも洗おうかと川へ向かう。

「あ、リーシーさん。」
目線の先に、川に向かって石を投げているリーシーさんがいる。甲冑を脱ぎ、下着姿(と言っても、分厚いシャツにハーフパンツみたいなの)になっており、金色の髪が揺れていた。

 お、おぉ……美人だ。

「なんだ、ソラか。」
突然の闖入者に一瞬険しい顔を作るも、すぐに表情が和らぐ。

「もう指令じゃないんでしょ?リーシーさん、美人なんだからもっと可愛く。さっきも言ったでしょ。」

「こ、こうか……?」
石を持った手の人差し指を口に当て、妙に色っぽい雰囲気を流す。私が男なら、吐血物だ。

「もっと口調もね。」

「いや……この口調は、変える気はない。他の口調に変えてしまうと、なんだかむず痒くて仕方がない。それに、死んでいった仲間たちがいる中、1人平和に使命から解放されるなど、あってはならない。」
あっていいはずがない。そういって、険のある顔になって石を投げた。

 まぁ、感じ方は人それぞれだ。
 私は、十分頑張ったリーシーさんを応援したいし、自由になってほしい。

 それでもリーシーさんは、解放されようと、自らその縛りを引きずって生きていくと決めた。
 それが、今の今まで生きてこられた、リーシーさんの強さなんじゃないかと思う。

「2日だけど、なんか長いですよね。」
「そう、だな。」
私も隣に腰をかけ、リーシーさんはなんとも言えない表情で笑った。

「本当に感謝する。ソラ、あなたがいなければ今、この平和は存在しなかった。」
「別に、大したことは……あっ、いや。どういたしまして。」
大したことない。そう言おうとして、すぐに撤回する。この困り笑いの理由が分かったからだ。

 自分ができなかったことを、簡単に成し遂げられた。
 そんな血も滲むような、いや、人が死んでしまうような努力と戦いを、「大したことない」で終わらせてはいけない。

 竹林の村、それにマリンさんに言われたばかりだ。
 謙遜も過ぎれば、ただの嫌味。その力は貰い物でも、それを使うのは私自身なんだと。

 私は今、自嘲していいタイミングじゃない。

「ふっ、別にいい。私も、気にしてなどいない。」
軽く吹き出し、微笑みを浮かべる。

 ここで「無理してない?」なんて無粋なことを聞く私じゃない。
 これは、ほんまもんの笑顔や!

 このシリアスの雰囲気をぶち壊そうと、脳内だけでもテンションをぶち上げる。

 フォォォォっ!………はぁ。もうやめよう。

「今日は宴会をするそうだ。ソラのおかげで早く片付き、保存食も余っている。王国の食事には数段以上劣るだろうが、腕を振るおう。」
私が作るのではないがな、とクスッと笑みを見せた。

「へぇ。」
適当に相打ちを打つけど、頭の中は別のことで埋め尽くされている。

 なにこれ。なんでこんなシリアスな雰囲気になってるわけ?
 私にシリアスとか、米にシロップくらい合わないよ。

 そんなことに思考が支配され、実は全然話を聞いてなかったりする。

「それでは、私はこれで失礼する。」
「あ、はい。頑張ってください。」

「ふっ、何をだ?」
「さぁ?」
互いに、どこからともなく笑い出す。お腹が空いてることも忘れ、また夕方に、と言って手を振った。

 ちなみに顔は洗った。

———————————————————————

 ネタを入れ込もうと思ったんですけど、シリアスになってました。知らない間に勝手にシリアスな雰囲気にされてましたね。
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