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8章 魔法少女と人魔戦争
閑話 救済
しおりを挟むこれは、魔法少女が夢に落ちた後のこと。
—————————
「何が起こってる。です。」
「森が、燃えてる。ます。」
「それは分かる。です。」
「それじゃあ何?ます。」
「あいつのこと。です。」
「生きてる。ます。分かる?空力の盾が森の跡を覆ってる。ます。」
「分かる、です。」
少女2人は心配と疑問を半々に持ち、会話をする。
語尾が特徴の赤髪とオレンジ髪の精霊の少女は、1人の女指令官と共に、拠点にて様子を伺っていた。
「我々の森が、燃やし尽くされて……」
一方の指令は、驚き100%で会話などできるようなものではない。
「回収する。です。十分働いた。です。」
「それは同感。ます。中々耐える。ます。」
予想以上の働きぶりに、感嘆の声を漏らす。
誉めているというより超過小評価を過小評価に戻した程度の言葉にしか聞こえないものの、少女2人にとってはこれが十分な賛辞なのだ。
「っ、私は一体何を?」
ようやく目を覚ました頃には、目を見合わせた少女2人が森の中をゆっくりと歩いて行っていた。その様子を目に映した瞬間、長棒を片手にその背を追った。
戦力にはならないがついて行く。
特にするべきことがなかったからというのもあるが、何かをしていないとソワソワして落ち着かないという理由もあった。
「なぜついてくる?ます。」
「でも危険はない。です。」
「ならば、お供させていただきます。」
何がならばなのかは理解できないが、指令はついていくという。少女2人はため息を吐きあい、「勝手にしろ。です。「ます。」」と口を揃えた。
魔物はいない。向こう側から、一切やってきていないのだ。そもそも今の2人はエネルギーの使い過ぎによりまともに戦うことはできないため、都合がいいのだが。
やはり、他人に分けることに特化した精霊には、激しい戦いは厳しかったようだ。
精霊や妖精は、身体そのものが力の塊のため、節約が一切できず、コスパは最悪と言っても過言ではない……というのは、また別の話である。
しばらく歩いた先には、不自然に脈のない部分があった。それも、とても広い範囲。村の1つや2つは作れるであろう広さだ。
戦闘の荒々しさを感じさせる。
灰燼と化した、青々と茂っていた草木。魔力濃度とは真逆の、荒れた土地。
「…………生きている、でしょうか。」
「確率は高い。です。」
「5割。ます。」
「それは……低いのでは?」
「この状態で5割も確率があるっていうのは、全裸で単騎ダンジョン攻略するくらいの確率。です。」
分かりにくい例えで歩を進め、2人は不自然な本当に何もない壁に触れる。
「ある。ます。隠蔽がかかってる。ます。」
透明の膜を破るようにして、内側に入る。
といっても、この場にその壁を視認できる者などいないが。
「巻き込んでしまった非礼を、どう詫びればいいか……」
そんな話は耳に入らず、指令は己の腹を切らんばかりの勢いで長棒を地面に突き刺す。
自分の罪悪感を晴らすため、他人の生存を願うのはただのエゴだ。
この思いが、そんな利己的な感情であっても、詫びの1つもできずに終わるのはどうにも絶え難かった。
「こっち、いる。です。」
「本当かっ!?」
都合のいい言葉はするりと耳に入り込み、赤髪の少女の方を見る。
「まだ決まったわけじゃない。です。何かがある、それだけ。です。」
焦る指令を抑え、違和感へと足を運ぶ。
この焼け野原で人がいようものなら、目立つ以外の何者でもないが、驚くことに気配の1つも感じられない。
これは後に判明することだが、片方は力の欠如、もう片方は聖獣、神の使いのため、気配がなかった。
「……あれはっ!」
「先走るな。ます。魔物の気配はない、けど、そういうのもいるかもしれない。ます。」
いつにも増して会話量が多い少女2人は、指令の動きを静止させた。
目の前に人間の足のようなものが見え、指令はソワソワと動き出す。
「っ、すいません。一刻を争う可能性もあります!ですので、ご理解を。」
絶えきれず、突っ走っていく指令。先陣を任されないのは、仲間が危機に瀕すると判断力が鈍る……というより、見捨てられない優しさがあるからだ。
足の先の体を確認すると、目に見える重傷はない。姿は、あの時に見た可愛らしい少女だった。まだ少し熱気が残っており、指令は額に汗を浮かばせながら少女に近づく。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
体を揺する。意識は戻らない。首に手を当てて脈を測り、生存を確認。顔に手を当て、呼吸も確認した。
「無理に動かさない。です。」
「余計悪化する危険がある。ます。」
今度こそ完全に静止させ、少女の容態を確認した。
「………っ、です?」
「ます。」
2人は目を見合わせ、彼女が魔力を保有していることに気づいた。
だが、2人は精霊。人間とは違い、多少の融通は効く。この少女が、邪なる者に見えるか?
否。誰がどう見ても、救世主に他ならない。
このままでは1週間程は眠りにつく羽目になるだろう。
死ぬ可能性は低いが、後遺症のリスクはある。
「キュッ、キュウッ!」
どう助けようか、そんな思考に切り替わった2人の前に、そんな鳴き声が響く。
「さっきの。です。」
「また見に来た?ます。帰れ。ます。」
しっしっ、と、オレンジ髪の少女が言う。
「今から助けてやる。ます。」
「少し離れて。です。」
「わ、私もなのか?」
「キュー!」
指令とキューを向こうに追いやり、2人はそこで横たわる少女に手を当てる。
助けると言いつつ、裏では利用の2文字が浮かんでいるというのは秘密だ。
「貸し1つで許す。です。」
フッと息を吐くと、周りの魔力を操作する。
自身の力は限界でも、干渉はできる。それが精霊の本分だからだ。
「力は輪廻する。あるべき場所に、還りなさい。」
「力は輪廻する。大いなる神よ、彼の者に精霊の加護を。」
「「廻れ、少女よ。」」
言霊というのか、その言葉通りに少女の体内魔力は異常な循環を始め、魔力を補填し始めた。まるで、この少女の体内だけ、時間が加速しているかのように。
2人は少女を引きづり、戻っていく。
「運ぶ。です。」
「手伝え。ます。」
追い払った指令たちを途中で回収し、少女を運ばせた。
「荷物持ち、か。」
いくら強かろうと、重いものは重い。体は子供なのだ。
「キュウ……」
後に残ったのは、指令を慰めようとするキューの声だった。
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久しぶり‥‥ではありませんが、閑話です。ソラさんがぶっ倒れ、次回蘇ります。
精霊のですます姉妹、これから出番はどんどん減っていきます。
また、精霊の森でお会いしましょう。です。
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