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8章 魔法少女と人魔戦争
231話 魔法少女は戦地に向かう
しおりを挟む「あー、めんどくさい。なんで戦争になんか行かなきゃいけないの……」
門の外でそう悪態を吐き、あの日の少女達を待つ。
遡ること……といっても、昨日なんだけど、語尾が、です。と、ます。の少女2人に脅されて、戦争に無理矢理参加させられたわけです。
まんまと街主の思惑にハマったわけです。やったね。
なわけあるかっ!
私は今すごくムカついてる。
どのくらい?やたら話が長くて、「えー」が多い校長先生の話を聞いてる時ぐらいムカついてる。
絶妙に分かりにくい例えを出し、度合いを示す。
「そもそもあの2人が行けばいいじゃん。強いよね、あの子達。」
イラつきで足を地面にトントンさせていたら、目の前に影が伸びる。
「すごく滑稽。ます。」
「笑える。です。」
小生意気な声と一緒に現れたのは、赤とオレンジ髪の姉妹のような少女。
顔だけは可愛いんだよね。顔だけは。
「今日は準備だけのはず。です。」
「移動も兼ねるって言われた。ます。」
「明日からだった。です。」
「今日はわたしたち。ます。」
遠目で眺めるなら微笑ましい様子を、間近で見る私。正直今すぐ逃げ出したい。
そう。それはウサ○ン・ボルト氏のようなスピードで。
遠くを見つめ、ある金メダリストの顔を思い浮かべる。
「なにしてる。です。」
「早く行く。ます。」
先に歩き始めた少女達の背中を追い、不満げながらもついていく。
これ、まさか徒歩とか言わないよね?ただ馬車が遠いだけだよね?
段々と不安になる。
「ねぇ、これ……馬車とかは?」
「あるわけない。です。」
「目立つし邪魔。いらない。ます。」
ほとんど同時に否定された。
ここまでくるといっそ清々しいよ。もうそのままでいいよ!一生そんな感じでいればいい。
「不満そう。です。」
「お前は従えばいい。ます。」
そろそろ、ですますも聞き慣れてきた頃、特に魔物の襲来なども無く10分ほど歩く。
本隊の人達が押さえてるのか、天竜を倒したからなのか……
「わたしたちのおかげ。です。」
「誰もオーラに近づけない。ます。」
私の思考を読んだかのように、自身ありげに語ってくる。
オーラで近づけなくなるとか、そんなことあるの。私にもできるかな?
「聞きたいんだけど、これいつ着くの。」
「答える義理はない。です。」
「黙ってついて来い。ます。」
「せめてそのくらい教えてくれてもいいでしょ!」
私の叫びが森の中に木霊した。もちろん2人には無視され、長い間歩き続ける羽目になる。
さすがに原始的すぎだよこれ。せめて何か使おうよ。
そんな不満は口には出せず、脳内で垂れ流す。
————————————
同日。
討伐組合の建物内にて、男が頭を抱えていた。
団長だ。
今日は仕事ができるような心境じゃない。組合員達には待機を伝えた。
「何が組合員を守るためだ。自分の力では何もできなかったじゃないか。」
1人、机に突っ伏した。
ベルグが死んだ。彼は目の前で、痩せ細った状態で倒れていったのを捉えてしまった。
「結局他人の力がなければ、俺はここに座ることすらできなかったというのに———」
クソッ!と机を殴る。けれど残るのは、手の痛みと虚しさだけ。
物に当たっても、何も解決しない。
誰かに恩を返せるほどの力も、権力もない。
まして、自分を庇って死にに行った少女にどう償えばいいかなんて分からない。
せめて生きて帰ってくれたら……
「……他力本願なクソ野郎だ。」
自分が甘えに甘えた結果、こんな事態にまで発展していた。
あの時、街主を誤魔化せていたなら。街主の機嫌を損ねていなかったら。何度も終わったことが頭をぐるぐると巡る。
仲間が死に、あの少女も戦争に行かされた。
全てが自分の罪であるような感覚に陥り、彼はその銃末に耐えかねていた。
「次に、進まなければ……」
そう呟くが、思考は一向に切り替わらない。
魔物で人が死ぬのとは訳が違う。自分のせいで、死ななくていい人間を、死ぬはずのない人間を殺してしまったのだ。
それも人の悪意によって。
早く反省し、次に進まなければならないと、頭では分かっていても罪悪感は消えてくれない。
目の前には、勝利祝いで組合員達が飲み明かした際の酒の残りが大量にあった。
幸いにも、とはいうべきではないのは分かるが、喉が渇いていた。
「…………」
喉が鳴った。
ただ喉が渇いていたから飲むだけだと。自分に言い聞かせる。
「1口、なら。」
酒瓶に手を伸ばす。
これを飲めば、忘れられるかもしれない。淡い期待を抱く。
「…………1本。この1本だけだ。」
震える手で瓶を握り、今にも呷りそうになる。
自分でも分かっている。これを飲めば、もう飲み続けるしかなくなる。
今の彼には、酒が麻薬以上の何かに見えていた。
数瞬後。彼の喉が大きく上下に動き、胃に液体が流れ込む。
もう、抑えきれない。
今まで1本の糸屑で繋がっていた何かが、プツッと千切れたように感情が爆発した。
————————————
現代。
ある丘の上の家。薄い水色が綺麗な、短髪の少女は不安になる。
何故ならば、主人が2日も帰ってこないからだ。
ギルドに行くといって、2日。ギルドに聞きに行ってもきてないと答えられ、目撃情報すら上がらない。
あの少女が、何も言わずに自分を置いていくとは考えられない。
「主……」
窓のそばに椅子を置き、外の景色を眺める。
「大丈夫ですよ、ツララさん。ソラさんはきっとお帰りになります。」
可憐な声で宥めるのは、花の世話を任されている19歳の女性、クミル。
空が消え、代わりに彼女が世話を始めた。幸い、許可は元から降りていた。
食材は元から多く貯蓄されており、肥料用などのお金を使って足りない分を補った。
あの日、地震のような揺れが起こった。それから空がいなくなった。
「主、大丈夫……?」
「えぇ。」
2人は希望的観測に縋り、その時を待ち続けた。
———————————————————————
変なタイミングで章変えしましたね。まぁ戦争を始めようとする場面なので、この辺で区切ったほうがいいかなと。
前回の魔法とはの話を延々としたので、それを一区切りのためのクッションだと思ってくだされば幸いです。
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