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7章 魔法少女と過去の街
230話 魔法少女は脅される
しおりを挟むあれだけシリアス感を出しながら、結局無理矢理戦争に参加させられるという話は変わらない。
しかもそれは魔法少女っていうね。
「あんなこと言ったけど、私は私の事を第1に考えて行動するからね。」
さっきの発言とやや矛盾した言葉を呟き、一歩前を進む。
「いや、それでいい。俺は団長だ。組合員を守るために、他人の力を借りるほど落ちぶれてはない。」
自身ありげに言い張り、私の背中に決意を向けた。
「そういえば、組合なのに団長なのね。」
ふと思った疑問を口に出す。
組長じゃないの、そこは。
なんか白髪顔に傷のお爺さんの顔が浮かんできた。
「本隊の正式名称は対魔討伐協団と言ってな。そこからとって団長と呼んでもらっている。マスターという名は、反抗心から皆使っていない。」
悪戯好きの子供のような笑いをし、ギルマスが子供の時はこんなのだったのかな、と感傷?に浸る。
「へぇー。」
この人、やっぱりギルマスの先祖でしょ。私の勘がそう言ってる。
特に変える場所もないので、野営地を決めようかなとでも考えてると、目の前から筋肉が歩いてくる。凄い通行人もいるんだなー、と思っていると、ふとこう感じる。
……あの筋肉、私の方に来てない?
「団長、この度は迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした!」
ほんとに私の方に来ていた。どちらかというと、団長だけど。
「いや、いいんだ。礼は彼女に。」
見た目と性格のギャップ困惑しつつ、目の前の筋肉を視認する。
背丈は2メートルあるか無いか、かな?横ももちろん筋肉でかい。
筋肉バカ、脳筋、バカ。
似た様な3つのワードが脳裏に過ぎる。でも、さすがに失礼がすぎるので頭を振って思考の奥深くへ追いやる。
「お話は、他の方から聞きました。ソラさんですよね?僕の後始末をしていただき、感謝いたします。」
硬そうな体を小さく曲げて、しっかり8拍で頭を上げた。
「あ、うん。」
そんな言葉しか出てこない。
オッケー。うん。オッケー。見た目で判断しちゃダメって事だね。うんうん。
「竜の一撃を喰らって、動けずじまいで申し訳ありませ……」
そう謝辞を述べようとした瞬間、急に気配を感じた。
魔力が無いから魔力反応は無いし…‥この時代の敵はうざったい!
気づかれないよう、視線をキョロキョロと動かす。その時、団長と筋肉の人の側に2つの影が伸びた。
「そこから動くな。です。」
「お前も同じ。ます。」
素っ頓狂な語尾の少女が、それぞれの背に手を当てている。
赤髪とオレンジ髪。……じゃなくて、この状況はなに……?
少女が脅しの真似事?な訳ない。私がそれで気づかないなんて……
いや、私が見落としてる可能性もあるね。
「なにをしてる。です。」
「手を上げろ。ます。」
また可愛らしい声で脅し?を始め、キッと睨んでくる。
「何者?」
一応聞いてみる。
「お前を戦争に連れて行く。ます。」
「覚悟しろ。です。」
ばっちりのコンビネーションで会話を展開し、次第にイラつきを示してくる。
「飽きてきた。です。」
そう言って、筋肉の人の背をなぞる。その瞬間、緑に光ったと思った途端、バタッと倒れ込む。
「……………………っ!?」
団長は声も上げられない、というか何かの力で上げられないようにされ、ただ目を見開いた。巨大な筋肉が、見る影もなく痩せ細って死んでいた。
……これは本格的にやばいかもしれない。遊戯なんてレベルは超えてるよね。
「なんのつもり?」
「答える義理はない。です。」
「お前は黙っておけ。ます。」
私のことはガン無視で、何も分からないまま進んでいく。
話の流れ的に刺客?戦争がどうこう言ってたし。
「1人殺してるよね?どんな大義名分があるのかな?」
2人の少女は全く話を聞こうともせず、次は団長もそうするぞと言わんばかりの圧をかけてくる。
私の質問はガン無視。要求もわけ分からないし、結局どうすればいいの。
「戦争に参加する。その一言を言えばいい。です。」
「そうすれば、この男は死なない。ます。」
2人の少女は私を見上げ、早く早くと促してくる。
どうすれば……
魔法?絶対向こうの謎能力の方が早い。空力は時間かかるし、神速……相手が2人いるから無理。
向こうは触れるだけでいい。
もうこれ、詰みの状況じゃない?
「……………!…………!」
顔で何かを訴えるそぶりを見せる団長。ごめん、全く分からない。と心で謝りながら、打開策を模索する。
選択肢は3つ。
団長を見殺しにして逃げる。
これは無駄な犠牲を増やすだけ。どうせ、私を逃すことなんてしない。
団長を助ける。
これはまず無理。何か行動しようとすれば即刻殺される。
素直に参加する。
この場合、私が全面的に嫌な思いをする。魔法を使っていいならまだしも、この世界じゃ使えない。
どれを選び取ってもダメ。もう終わりじゃん。
「もう殺そう。です。」
「決断が遅すぎる。ます。」
淡白に言い放ち、背中に手を近づけ……
「待って。」
そう静止を求める。
「分かった。参加すればいいんでしょ。参加するよ。その戦争に。」
苦渋の決断の末、その言葉が出てくる。私の顔は、いろんな感情が合わさって歪んでいる。
結局、自己犠牲なんていう安っぽい答えしか出てこなかった。
……マイナスばっか見ても意味ないよね。
これから龍神を倒すんだ。戦争でステータスを上げて、スキルと魔法を高めて、情報を得る。
絶好のチャンスだ。
「最初からそうすればいい。です。」
「お前のせいで1人死んだ。ます。」
2人の少女は現れた時と同じように、影に溶けるように消えていった。
おい、ますのほう。責任転嫁するなー!
「……はぁ。厄介なことになったね。」
プレッシャーが解け、安堵とこれから起こるであろう事を思い、嘆息が漏れた。
「一体、何が……」
団長はまだこんな様子で震えてる。筋肉を見下ろし、膝をついて触れている。肌は冷めきっていたのか、手がぷるぷると震えていた。
現在に帰る時、あいつを1発殴ってからにしよう。
新たな目標が生まれた。
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そろそろこの章も終わりですね。この章は次章のための休息パート。
とてもゆるふわ(?)な回が多いですね。
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