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7章 魔法少女と過去の街
222話 魔法少女は街を見回る
しおりを挟む私は門を通ったあと、適当に街をぶらついていた。
特にすることはないせいで、暇な時間出来ちゃったじゃん。どうするの。
それ私のせいやないかーい。
いやどんなノリよ。
暇すぎて、こんな漫才を1人で繰り広げる。
「ほんと、虚しい。」
乾いた笑いが漏れ出る。
ギルドを見つけようと思って歩き出した私だけど、それらしき建物は無い。
ギルドのあったはず(厳密には出来る予定)の場所に向かってみたけど、もちろんそこにあったのは古ぼけた民家。
どうしようかと、路頭に迷ってる。
お金はあるのに路頭に迷うって、意味分からないね。
「キュー、どうすればいいと思う?」
「キュウ?」
体を曲げ、クリクリな目でこっちを見る。
呑気そうでいいね。
こっちは宿屋すらない廃れた街に放り出されてるっていのに……それはキューもじゃん。
「あぁー!もう。せめて食事くらいさせてほしいよ。野菜売り場とかないわけ?」
文句を垂れつつ、探し回る。無いことは分かってるけど、動いてないとやってられない。もう夕方近く。街に活気もなければ、食糧店なんてない。娯楽施設ももちろん無い。
いっそ、食材生成にプラス値振れば……
食材生成Ⅴ+1
店に並ぶような品なら、魔力と引き換えに生成することが可能。加工品は不可。
やっちった。
……よし、SORA'Sキッチンへようこそ。
今日は即席焼肉をしたいと思います。
「キューって、食べれないものとかある?好物でもいいけど。」
体を左右に振り、口をモゴモゴして飲み込むジェスチャーをする。
この聖獣、察しがいい時と悪い時の差がすごいよね、ほんと。都合が悪くなると体傾げて見つめてきて。私の弱点を看破してくる。
「じゃ、焼き肉にしよう。」
ステッキから余ってるお肉、生成した牛豚肉を街の端あたりに移動して取り出し、タレ作りに取り掛かる。
焼肉のタレなんて殊勝な製品は無い。ネギ塩とレンの実しかない。
それで十分だけど。
「まずはネギをみじん切りにして、ニンニクをおろす。その他調味料をかけて混ぜて……っと。」
胡麻でも入れる?と1人で呟き、好きに入れ込む。
これで完成。即席焼肉のタレ!
「よし、焼こう。」
「キュゥッ!」
嬉しそうに鳴き、ぴょんぴょん跳ね始めた。
テ○ッピーみたいだね。心がぴょんぴょんするんじゃぁ~って?どないやねん。
下手なツッコミをするも、脳内だからそれに突っ込む人は誰もいない。
「こういう時に役立つ魔法っていうのが、1番汎用性の高い魔法なんだよねー。」
溢れる肉汁を眺めながら、小さく呟く。
これに米があったら最高なんだけどね。米はこの辺じゃ絶対置かれない。
食材生成は、判定があやふやなのが玉に瑕だ。
「キュキュキュッ!キュー!」
「ちょっと待ってって。まだ焼けてない。」
何故か視線を感じる気がするけど、そんなことより目の前の肉ということで、箸で肉をつつく。
おー、いい感じに焼けてきたんじゃない?
目的は街を見回るってことだったはずなのに、なんでこんなことしてるんだろうとは思うど、してるものはしてる。完遂しよう。
「ほら、キュー。食べて食べて。」
「キュ~!」
焼いた肉は別皿に移し、キューはそれをモゴモゴと食べる。私も焼けてきた順に肉を口に運び、久しぶりの食事に喜びを感じる。
今日丸一日、何も口にしてなかったから染み渡るね。
お食事シーンも程々して、そろそろ本題に戻ろうと思う。
「キュー、怪しいところがないか確認でもしに行こ。」
「キュキュッ!」
後片付けはしっかりして、その場から立つ。
立つ魔法少女跡を濁さずってね。
ここは西だから、東、北、南の順で十字に回っていこう。
それが終わったら野宿かー。野宿って依頼以外でするの初めてじゃない?
「って言っても、ほんとに何もない。簡易的な住居やら古びた建物やら、使い物になりそうもない武器の残骸。ほんとに街か疑わしくなってくる。」
「キュー……」
ところどころからかび臭さを感じ、鼻に手を当てて進む。
整備もなければ清掃もなし、か。戦争ってこんなことになるんだね。
そんな風に、若干引き気味に街を眺めていた。
「おいおい、ねぇちゃん。さっきいいもん食ってたよなぁ?抵抗しないなら見逃す、抵抗したら、死ぬまで犯してやるよ。」
突然、気持ち悪い男がそう声をかけてきた。
「マジでいるの、こういう人。」
目の前の男があまりにも気持ち悪く、眉を顰める。
急にこういうのに手出されたら、手加減効かないよ。ほんとにやめといた方がいいから。
……ま、絡まれたものはしょうがない。それなりの対応で出迎えてあげるよ。
「何ごちゃごちゃ言ってんだ!」
「ちょっと黙ってて。」
「なっ!いつの間……」
神速で真横に移動し、コートを靡かせて回し蹴りを喰らわす。男は、ぐはっ!と短く声をあげ、気絶する。
ふぅー、押忍!
なんちゃって。
「こんな奴に絡まれるとか御免なんだけど。そういうの事務所通してもらって。」
そんな事務所はない、というツッコミを天から頂く。
「キュー、続けるよ。」
「キュ……キュウッ!」
いつもより元気な返事をし、腕の中で小さく飛んだ。
このもふもふ、枕とかにならないかな?
「キュッ………」
怯えた様子で私を見つめる。やめて、食べないで!みたいなアフレコを付けたい。
「私の心の声、読めたりする?」
「キュ?」
「そこは読めないのかい。」
1人と1匹の漫才をしばし楽しみつつ、周りにもしっかりと目を向ける。
初めて来る時代、初めて来る街。偵察が大事だからね。情報が無ければ、手の上で踊らされかねない。
そもそもここにいること自体が手のひらの可能性もあるけど、そこまで考えると死にそうなのでやめておく。
「ん、あれって……」
何か他の家とは違った建物を見つけ、目を細めて確認する。
よく見えない。明日、明るくなってから出直そう。
何より、今面倒ごとに巻き込まれる体力無い。
———————————————————————
街を見て焼肉を食べるだけの回です。
特に面白味はありません。
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