234 / 681
7章 魔法少女と過去の街
220話 魔法少女は過去に行く
しおりを挟む「ここ、どこ?」
私は今、謎の森にいる。これが俗にいう異世界転生というものだろう。
……既視感とは、このことだろうか。
でも、数ヶ月前とは少し違うことがある。それは私が強くなってること、この世界のことを少し知ってること、そして…….
「キュゥッ!」
「だから暴れない!」
白いもふもふ(いつの間にか名前がキューになってた)が、私の腹部に飛び込んでくる。
このキューとかいう聖獣?が、新たに仲間に加わった。
「確かこの森、私が異世界転生したてホヤホヤの頃にいた森じゃない?」
辺りを見回すと、少し違うけど見覚えのある景色がそこにはあった。
ここでケルベロスを倒して、ロアとパズールに行ったんだっけね。
ほんの少し前の出来事のはずなのに、すごい久しぶりな感じがする。
「キャウッ、キャウッ!」
キューが私に抱えられながら、草むらの方を目掛けて吠えまくる。
「何かあるの?……魔物?」
その先には、見覚えのある魔物。小型のケルベロスが5匹で人を襲っていた。ぱっと見、騎士が2人。
これ、助けたほうがいい系?
どちらかといえば助けたほうがいいと思う。うん、そうしよう。
このキューの能力も試してみたいし。
「キュー、できる?」
「キュウ!」
クリクリな目を精一杯キリッとさせ、力強く吠えた。
「くっ!まだそこにもいるのか!化け物め!」
「静かにしろ。余計に気分を悪くさせるだけだ!」
「一体どこから侵入してきたんだ……こっちはまだ、戦争準備中だというのに……」
ごちゃごちゃ喋ってたけど、草道を駆けているため、全く耳に入らない。
「とぉー、いっ!」
ドアを思い切り蹴破るように、両足ジャンプで騎士と魔物の間に入る。
「やって、キュー!」
「キュワッ!」
任せろ!みたいな感じで吠えると、私の腰のステッキから魔力が洩れ始める。
これで戦えってこと?
……ま、いっか。殴るだけでもこの程度はなんとかなるし、お試しで。
「うーんと、なんの魔法がいいんだっけ。じゃあ、アクアソーサー。」
なんとなくそれを選ぶ。いつも通りにえーい!と5つの水の刃を飛ばした。飛ばしたらはずだった。
キュインッ!キュインッ!ギュイィィンッ!
そんな危険な音が聞こえてきた。
ん?ん?チェーンソーでも使ってるの?
「キュキュ~!」
「キューの力、なの?」
「キュゥ!」
体をブンブンと縦に揺らす。この動きが、地味に面白くなってくる。
アクアソーサー。いつもなら音はカッターくらいで威力はチェーンソーだけど、音がチェーンソー、威力は……ダイヤとか切るやつ。
「うっわ、首とかいらないよ。いつも思うけど、どうして魔物の血はこうも毒々しいの……」
鼻をつまみつつ、ステッキに収納する。
さすがに派手にやりすぎたかな。返り血はついてないけど……
スンスン、と鼻を鳴らす。
「血の匂い、するなぁ……」
そう呟き、ため息を静かに吐く。
そういえば、街のみんなどうしてるんだろう。スペアステッキって機能してるのかな?
ツララとか大丈夫?
それはクミルさんになんとかしてもらおう。
うーん。こんなこと考えてても、龍神を殺すなんて無理だ。
一旦忘れよう。そうしたほうがいい。
「それで、大丈夫?怪我とかは……」
後ろを振り向くと、そこには誰もいない。ただ、人が踏み躙ったであろう草があった。
逃げたな。こりゃ、逃げたな。
助けてあげたっていうのに逃げるって、そんな恩知らずな騎士見たことないよ。
「はぁ~……助けて損した。」
その場に腰を下ろし、休みながらそう吐き出す。
せめてなんか言ってから逃げたらどうよ。そんなんじゃ、魔物をただ押し付けられただけじゃん。
「キュ~?」
「はいはい、そろそろ街に行きますよっと。」
お尻についた草をパッパッと取り、もう1度キューを抱えて街の方向へ歩き出す。
多分、こっちで合ってると思う。
間違ってたらその時はその時だ。
————————————
「はぁ、はぁ……振り切ったか?」
「あぁ。誰も追って来ないな。」
ある騎士らしき男2人が、息を上げて街の近くまでやってきていた。
「あんな女、見覚えあったか?」
「いいや。少なくとも、ここ数年で見かけたことはない。」
「記憶の天才が言うなら間違いないな。」
そう言って、大笑いをする。
「それはそうと、あんな女に魔物押し付けてどうするんだ?」
「時間稼ぎだ。食ってる間くらい、止まっていてくれるだろ。」
「そうか。さすがお前。その頭、少し欲しいくらいだな。」
また笑う。片方の男は鬱陶しそうに見つめるも、笑う男は我関せずといった様子だ。
「それより、早く団長に知らせたほうがいいんじゃないか?」
「あの程度の女、知らせる価値はない。」
あの女———ある魔法少女が、彼らを助けたことなど無かったかのようにして言い捨てる。
「よし、行くぞ。」
「おう!」
————————————
楔となった魔法少女が過去にいるならば、軸である龍神もまた、この過去にやってきていた。
だが龍神にとって過去は現在として存在させようとしている。
何故ならば、龍神はこの世界で、全てをやり直そうとしていたからだ。
「……………同じミスは、2度もしない。」
隅々まで目を光らせ、龍が滅んでしまう世界線を排除する。なにがなんでも。
それだけが今、龍神に残された使命。
龍が滅んで仕舞えば、龍神には何も残らない。ただの生きる屍になる。
滅びもしない、生きもしない。
そんな自分にならないよう、龍をなんとしてでも生かさねば、ならない。
それは龍のためではなく、自分のためになっていたとしても、もう後戻りは出来はしない。
「………まずは龍に襲わせる。………絶対に手を出してはいけないと、本能に刻み込む。」
龍神は立ち、龍たちへと伝える。
「人間を襲え」と。
その言葉で、この世界の命運は決まった。
———それが、龍の……いや、龍神の生きる道か死ぬ道かは、今知るものは誰もいない。
———————————————————————
いろんな視点がおり混ざった回でした。
過去に来たソラ。その場であった街と関係のありそうな男。同じく過去に来た龍神。
一体これからどうなるでのしょう。
話数を見て気づいた方もいるかもしれませんが、次の章も過去の話です。次の次も……いえ、なんでもありません。
もう少々お付き合いください。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い
竹桜
ファンタジー
主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。
追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。
その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。
料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。
それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。
これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる