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7章 魔法少女と過去の街
210話 魔法少女は一旦辞退
しおりを挟む予定の時間からだいぶ時間が過ぎ、絶対怒られるよね……と思いながら、私はギルドの入り口にいた。
「ソラのその適当なところ、どうにかできないのかしら。」
髪が真っ白に染まってしまったレイティーさんが、愚痴のように私に言ってくる。
そんなこと言われましても……私だって私の仕事があるんだよ。
……ミニ女子会してたけど。
「ちょっと聞いて?私は領主に呼ばれてたの。だから仕方ない。仕方ないことなんだよ。」
「領主様が他人の時間を潰すことをするとは思えないな。結局はそっちに過失があるんじゃないか?」
そう話に首を突っ込んでくるウェントが、私の元に近づいてくる。
「またなんかやらかしたから呼ばれたんじゃないか?」
「舐めてる?」
最近脅しでばっか使われるステッキを顎に向け、ひと睨みする。
「捕まえた暗殺者のトップから情報を吐かせろって無茶言われたんだよ。だから時間がかかった。それだけだって。」
多少の嘘を混ぜ、やれやれと首を振る。
「それはお疲れでしたね。」
遠くの方からライが笑顔で声をかけてくる。
「ですが、まだもう少しありますよ。」
「知ってるよ!わざわざそんなの言わなくていい!」
この前の当てつけか、いじめてくるライを無視して椅子にどかっと座る。
なに?コソコソ聞こえてるよ。
「あの人がレイティーさんの髪を白くしたんですって」「キャー怖ーい」「青い悪魔」「女の皮を被った魔物」「レイティーたそを汚した。おで、ゆるさない」
あれ?最後の人…………なんでもない。
「気にしないでいいわ。別にワタシは何も思ってない。」
私に優しく声をかけると、振り返って「黙ったらどうかしら」とドスの効いた声で一喝する。すると全員が静まり返り、スッキリしたように「行きましょう」と言った。
男だったら惚れてるよ、これ。流石レイティーさん。かっこいい。
5人でギルドの奥に集まると、数分後にギルマスがやってくる。
「待たせたな。まずは今回の依頼、無事成功できたことに感謝しよう。いきなりだが本題だり依頼料は小金貨5枚、各1枚ずつで分けてくれ。」
そう言って、机に丁寧に小金貨が乗せられる。
小金貨って確か1枚10万円くらい。
…‥ってことは、この依頼50万!?
私は、とんでもない依頼に手を出してしまったのかもしれない。
「と、言いたいが。予想以上の働きでこれでは割に合わん。情報だけでなく元締めの捕縛にグループの壊滅……」
そう言いながら、カタ、カタ、と小金貨を机に追加していく。
「小金貨10枚でどうだ?」
「そんな多k……」
「足りないわ。」
レイティーさんの声に阻まれる。
え、これで足りないの?私は相場とか知らないけど、十分多く見える。
「確かに相場よりは上ね。でも、こっちは命懸けでやった。アンタはこの髪見て、何も思わない?」
白に染まった髪を持ち上げ、好戦的な笑みを見せつける。
「……仕方ない。希望の金額を言え。」
真面目モードのギルマスが折れた。
「そうね、小金貨30枚でどう?」
「無理だ。せめて20枚。」
「それでいいわ。」
そうして、元の4倍の依頼料を受け取った。私の財布には、4枚の小金貨(40万円分)が眠ることになった。
後で商業ギルドの方に預けに行こう。
「それでだ、ランクアップの件について……」
「結構です。」
「まだ話してる途中……」
「結構です。」
「だからまだ何も……」
「結構です。」
そんなやり取りを数度繰り返し、「分かったから説明だけでもさせてくれ」と言われたので口を閉じることにした。
「現状、全員Sランクに上げることは無理だ。推薦という形なら、ソラが候補に上がるだろうが……さっきからギャーギャーと言っていたので今回は無しだ。」
「おい、これだけのことやってまだダメなのか?」
ウェントが若干キレめに聞く。
「ギルドマスター2人の推薦、というのは出来るだろう。だが、そこに領主の推薦と達成数も関わってくる。現状、規格外の魔物を討伐しない限りは1発でSに持っていくことはできない。例えば、竜とかな。」
私のことを見て、薄く笑う。
何この親父。人の顔見て笑うとか最低ー。
っていうか、Sランクに上がる条件キツくない?私は更にその上があるんですけど?
「だが、特典が無いわけではない。」
「というと?」
興味ありげにウェントは目を細める。私は数歩後ろで、2人の会話を眺めている。
「特別保証として、次回から達成するごとに回数を増やして計算する。簡単に言えば1回達成すれば、2回分ということだ。」
「うむ。それはなかなかの好条件。」
ずっと黙っていたトインが、嬉しそうに呟く。ウェントは、「これで騎士に……」なんて言っていた。
確かSランクになった人は、大抵貴族か領主、国に買われて働くって言ってた気がする。
ウェントはそれになりたいのかな?
ウェント、ライ、トインが喜ぶ中、レイティーさんだけ浮かない表情だった。
「ワタシはいい。遠慮しておくわ。」
「はぁ?なんでたよ。」
ウェントが、久々に真っ当なツッコミを入れる。
「ワタシは偉くなりたいんじゃない。ただ冒険者を楽しみたいの。そのために実績を積んで頑張ってきた。それが、最後はソラの力に頼ってランクアップなんて、情けないじゃない。」
チラッと私を一瞥し、それと同時に目を逸らす。
「許可しよう。これからも励んでくれ。」
ギルマスがそう一言で承諾し、特に合図もなく解散となった。
報酬を貰い、ランクアップを辞退した。特に何もなかったけど、とてつもなく疲れた気がした。
精神的にも肉体的にも。
「そういえばソラ。」
「ん?なんかあった?」
「フード、無くなってるのね。」
「それ、絶対今じゃないよね?」
今日もパズールは平和である。
———————————————————————
ソラ、悪魔と呼ばれるの巻。
まんまるピンクなカー○ィは「ピンクの悪魔」
魔法少女なソラさんは「青い悪魔」
これからもこの名称が伝わっていくとは、ソラさんはまだ知らない……
ソ「なにその不名誉なあだ名」
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