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6章 魔法少女と奴隷商の国
202話 魔法少女は死闘を繰り広げる
しおりを挟む私は《女王》の目を真っ直ぐ見て、何もしないまま時間が過ぎる。
そこで、《女王》が口を開く。
「私はここで、どのみち終わるでしょうね。だからこそ聞きます。あなたの名は?」
真剣な目で一言、強くそう言う。
「分かった。そっちも教えてよ?私は空。美水空。知っての通り、転生者。」
「えぇ。空ね。私は……いえ、じゃなくて、"私"は恵理。稲神恵理。19歳。」
余分な自己紹介もあったけど、特に気にせずにニヤッと笑ってステッキを向けた。
ようやく柔らかい口調になった。……でもいいの?刀娘の目、点になってるよー。
転生者とか本名とか。
あ、前者は私か。
「よし、じゃあやろうか。私も、ちょっと本気出すから。」
運命の線は見えないけど、少し余裕を見せて言ってみる。
「分かった。やろう。」
鉄扇を振るって長い服を破る。この人達は、長いものを切る宗教にでも入ってるのかな。
勝てるか分からない。だけど、やんないといけない。あの子はちゃんとやってるかな?
ちゃんと言う通りにしてくれればいいんだけど。
ここにツララは来ない。
言い方は悪いけど、来たってなんの役にも立たない。
印を残したけど、あれは多分バレてる。
「では、行きます!」
————————————
魔法と鉄扇の攻防が続き、鋭い音が鳴り響き続けた。
「———春風。」
魔法がかき消され、鉄扇大きく振るわれた。
「沈み沈ませ、浮き浮かれ。流れる夜星を砕くなら、消えぬ夢路を渡り壊さん。神楽歌1節『朧月』」
《女王》こと恵理さんの姿がぼんやりと消え始め、鉄扇が全てを薙ぎ払った。
今の状況を説明しよう。
あれから結構な時が経って、両者消耗している。
私は魔力水を使い切って、魔力が半分くらいになった。向こうは、大きく肩で息をしてる。
でも、こっちは向こうにダメージは負わせられてないし、逆にこっちはダメージを一方的に与えられている。
こんな感じ。
「……ねぇ、なんであの時恵理さんが来なかったの?そうすれば1発だったと思うけど。」
「別に、深い意味はないんだけど。」
刀娘がいることを忘れて、息を荒げながら会話する。
「私が苦手なのは暗殺者のそのゴキブリみたいにすばしっこいところなんだから、慣れさせたらダメだと思うんだけどっ!」
魔法を撃ちながら問う。それを、難なくいなしてこう言った。
「甘く見ていたんですよっ!」
いなされた魔法はそのまま消滅せず、魔導法によって戻ってくる。その戦術を知ってか、空中でバク転して斬撃を飛ばす。
「トール。……『一閃』ッ!!」
斬撃が晴れ、視界が開けるとそこに私はいない。神速で接近し、もう刀は放たれていた。
「———神楽歌3節『衝月』!」
鉄線が振り下ろされる。私は一抹の焦りも抱かず、全魔力を指に集めるように凝縮させ、攻撃を仕掛けた。
「いっけえぇぇぇぇぇっ!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
2人の魔力が鬩ぎ合い、ほんの一瞬。髪の毛1本分私が速く、刀に手応えを感じる。そのまま刀は、綺麗な弧を描いて通過し、それと同時に体が吹っ飛ぶ。
いった……最後まで足掻き続けるって、根性すごいよ。
「どうしてくれるんですか?乙女の左手は貴重なんだけど?」
前を見ると、服の切れ端を左手に巻く姿が目に入る。
「なん……かはっ…」
あの時肺がやられた?というか、私は右手を斬ったつもりで……え?
困惑を抑え、ヒールを胸にかけつつ、ゆっくりと立ち上がる。
「見ての通り、私は魔力が無い。戦い、やめにしない?」
「無理って分かってるよね。こっちは捕縛しないといけないの。大人しく捕まってくれるなら、やめてもいいよ。」
「それはそれは。なら、負けるわけにはいかないです。」
地面が強く踏み込まれ、流れるような作法で鉄扇が動く。
ほんとに、掴みどころが無い……
うまく攻撃が当たらない相手って、キツくてしょうがない。
「酔いに酔いしれ、呑み呑まれ。泡沫の月に願うなら、眠りて夢の我を滅さん。神楽歌2節『酔月』」
「土壁!」
冷静に魔法を使い、一歩後退する。そのまま2撃目の用意をし、ある袋を左手に持つ。
あと少しで来る。地龍の壁すら突破する化け物が。
「今!」
左手の袋を投げ飛ばし、雑巾を絞るように魔力を捻り出し、ファイボルトを練り上げる。
「今更小細工なんて通用しない!」
鉄扇が袋を切り裂くと、白い粉が舞う。人間、驚くと呼吸をしてしまうもので、吸い込んだ粉でゲホゲホとむせかえる。
よし、第1段階成功。
「目眩しですか。悪くは無いですね!」
目を瞑りながらでも位置が分かるかのように、重く強く練られたファイボルトを斬り裂かんと鉄扇を横に薙ぐ。その瞬間。
「第2段階も成功っと。」
巨大な爆発音に耳を押さえながら、爆発の中心地にいたであろう恵理さんを見る。
ゆらゆらと揺れる影。もう死ぬんじゃ無いかと思うほどに。
「何が起こって……私は、確かに斬って……」
「粉塵爆発。」
「粉塵、爆発?」
首を傾げる。
19ってことは大学生だよね。どっかで聞かなかった?
いや、そもそも転生のタイミングが違うかもしれないのか。
「小麦粉とか砂糖とか、そういうのに火が引火して爆発が起こるっていう結構身近なやつ。それを大規模で起こしてみた。」
辺りを見回しながらそう言う。あの爆発で、天井が落ちてきていた。あれが当たっていれば、確実に死んでいた。
危なかった……捕縛なんだから、殺しちゃダメだよ。誰だよ、こんなことした人は!
私か。
食材生成がこんなとこでも使えるっていうのはいい発見だったけどさ。
「互いに満身創痍ってところですか?」
「そんな感じだね。」
また、ただ見つめ合う時間が訪れた。
———————————————————————
おまけコーナー第2弾
ソ「はい、昨日の続きね」
c 「ゑ?」
ソ「質問コーナー。ぱちぱちぱち。…‥誰も興味ないみたいだね」
c 「あの、ソラさん?勝手に進めないでいただけないでしょうか」
ソ「無理。それじゃあレッツゴー!」
ソ「性別は?」
c 「ノーコメントで」
ソ「年齢は?」
c 「ノーコメントで」
ソ「出身は?」
c 「ノーコメントで」
ソ「ふざけてる?」
c 「フザケテマセン」
ソ「もうダメだ。はい、解散解散。散ったちった。見せもんじゃないよ。」
c 「分かった、分かりましたから!次回ちゃんとやりますぅ!」
ソ「分かればよろしい。」
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