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6章 魔法少女と奴隷商の国
201話 《女王》
しおりを挟む奴隷商の国エンヴェル、東商の暗殺部隊《黒蜂》のトップ、《女王》こと稲神恵理。
彼女は転生者だった。
《女王》としての姿は凛々しく、そして華麗である。落ち着いた雰囲気を纏い、圧倒的な力を持つ完璧超人。
稲神恵理としての姿は、可愛らしく、社交的な女の子。少しおっちょこちょいではあるが、立派な姉だった。
彼女の誕生はある6月の初め。奇跡的に、24時ちょうどに生まれた。
季節が巡り、変わる時期。
その「巡る」からとって、恵理と名付けられた。
とても平凡な赤子で、普通に泣き、普通にミルクを飲み、普通に寝る。
夜泣きもすれば、おしめを変えてほしくて泣く。お腹が減っても泣く。本当に、平凡な赤子。
両親は魔法少女の両親のようにおしどり夫婦では無いが、ある程度仲はいい。
口数は少ないけれど、心が通じてるように思えた。
勿論、不倫をするということもなく、少し変わったことといえば父親が株で少し儲けたことぐらいだ。
それは、彼女が5歳の頃の出来事。髪は茶色味がかった日本人らしい色で、瑠璃色などではない。
その頃、母親の勧めでピアノ教室に入った。
父親は初娘がよほど可愛いのか、イエスマンと化していた。
おもちゃが欲しいといえば、好きに買ってくれる。服が欲しいといえば、何着も試させてくれる。
そんな彼女と父を離すことも含め、母はピアノ教室に入れさせた。
ピアノは中学に入るまで続け、それ以降も趣味として続けていこうと考えていた。
大会にも何度も出場し、1位ではなくとも2位をとったことは多くあった。
両親はそれでも喜び、大好きや寿司をたくさん食べさせてくれた。
実は、母も彼女には甘々だった。
8歳になる頃、彼女には妹ができた。
それでも、愛情が偏ることはなく、均等に注がれた。
2人目で慣れているからか、片方が片方ずつ面倒を見るというローテーションで動いていた。
8歳差だからといって、特に仲が悪いわけではなかった。
お互いがお互いに甘え、微笑ましいくらいだ。
いじめもなく、毎日が幸せ。順風満帆な生活。
———幸せな生活をしている頃は、ある魔法少女の両親の不倫が発覚した頃だが、誰もそんなことは知る由もない———
その幸せは、突然崩れ去る。
それは、普通なら高校受験を受け、入学するはずだった中学3年生の春。
京都・奈良へ2泊3日目の修学旅行へ行った。
勿論楽しめたし、たくさんお土産も買った。
ただひとつ、2泊目のバスで事故が起こった。
バス内。みんながワイワイと騒ぎ、楽しげな声がバス内を支配していた。
その時、突然運転手の意識が無くなった。その表紙に、アクセルが踏まれた。
崖の上から、ガードレール突っ切って墜落した。
それだけでは死人は出なかった。意識不明の状態で止まった。
でも、それだけ。
アニメのようには上手くいかない。漫画のような展開にはならない。
バスからガソリンが漏れ、火花がそれに引火。
バスガス爆発とはこのこと。
バスも、木々も、人々も。平等にバラバラに砕け散った。
彼女、稲神恵理もこのバスに乗り、死亡した。
大事故でニュースにも取り上げられた。原因は分からない。
バスも人も、火によって跡形もなくなっていた。その時の状況、遺体の検査、個人の判別。何もできない。
運転手が、睡眠薬を飲まされていたことすら気づけない。
これは事故ではなく、事件だった。
閑話休題。
目が覚めたとき、そこは人が闊歩する街だった。
アニメで見る中世ヨーロッパのような街並み。服も店もアナログ。
よく見ると、色の付いた石がそこかしこにある。
触れると電気がつき、水が出て、そして火すら起こせる。万能な石。
無一文で、出来ることもない。
周りは聞いたことのない言語なのに、意味が分かる。読める。
あるとき、視界の端にマークがあることに気がついた。
タップしてみると画面が浮かぶ。
話を簡潔にまとめると、恵理が死に、神様が異世界に転生させた。そのままでは死んでしまうので、能力を与えられる。
レベル機能、ステータス機能、スキル機能etc
そのスキルというのは、決まった詩を読むことで攻撃できるというもの。
スキルは他にも常時スキル等があり、レベルを上げるごとに充実したラインナップになっていった。
武器は鉄扇を選んだ。剣のような武器が嫌だったからだっからか、ただ気に留まったのか、もう覚えてはないが、鉄扇を使い始めた。
冒険者ギルドに登録し、依頼を大量にこなし、衣食住を賄っていた。
時間が経つごとに常識も理解し始め、2年が経つ頃に冒険者を引退する。
東商に、暗殺部隊を作った。
そしてこの街の四頭の1つにも数えられ始めた。ここからは進展は特にない。
街を害するものを排除し、膿を取り除く。
幹部の集まりである《特攻蜂》が作られ、そのうちの1人、全身を黒の服で覆わせた男の助言で、大量の魔物を集めて街を襲わせる計画を立てた。
完璧にいったと思った。言い逃れのしようはあり、武力でも確実に勝てると思っていた。
思えばそこからだろうか。歯車が狂い始めたのが。
もしここで負ければ、この国にもいられなくなる。どこにも逃げ場なんてない。
そして今に至る。
幹部は全員意識が飛び、立っているのは木偶の坊と化した側近と、敵の少女、そして自分自身だけであった。
勝たなければ、死よりも重い。
戦う理由は、守るべきものを守るため。
自分自身に言い聞かせ、翡翠のペンダントを握る。
これは、昔父に買ってもらった写真の入れられるペンダント。ロケットペンダントというものだ。
今ここにある日本とのつながりは、これ1つ。
これだけしか、家族と繋がっていられるものが無い。たまたま身につけていた、この翡翠のペンダント1つだけ。
写真は見られない。こんな自分を、家族には見てほしくない。
小さな妹、優しい父、厳しく甘い母。絶対に、こんな悪人になった姿なんて見せられない。
せめて、自分が制裁を受けるその瞬間で……
首を振り、彼女は目の前の敵と相対する。道中の会話なんて覚えていない。
それでも、一言。
「絶対に、殺します。」
———————————————————————
《女王》の過去です。いつかソラの転生後の日本での話とかも書いてみたいですね。
7章の初めに持っていきましょうか。7章の話的にも合ってるので、そうしましょう。
200話突破記念ということで、少し特別なおまけをつけます。
ソラの自己紹介です!(今更)
c 「ささっ、自己紹介お願いします」
ソ「え?今更?」
c 「細かいことはどうでもいいですから、はい」
ソ「マイクっ?まぁいいや。
私は空。美水空。出身は静岡。富士山?登ったことないよ、疲れるし。歳は17。トラックに撥ねられて?か分からないけど死んで、異世界に転生したんだけど、こんな姿にさせられて迷惑してるよ。家族?……ノーコメントで。趣味はアニメ、ゲーム、漫画、ラノベ。高校の友達からは『歩く攻略本』っていうあだ名もつけられたね。
ねぇ、そろそろいいでしょ。疲れたんだけど。
ねぇ?聞いてる?ちょっ……」プツッ
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