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6章 魔法少女と奴隷商の国

197話 魔法少女は対話する

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「ふぅ……で、《女王》は?」
私は30人弱が昏倒している部屋で、首だけ振り返りながらそう呟いた。

 奥に通路らしきものが見えるし、多分この奥が女王の間だと思う。
 なら……いるのかな。そこに。

「よし、やるぞ!」
自信を鼓舞しつつ、赤絨毯を歩く。

 赤絨毯って言ったけど、別に血塗れってわけじゃないよ?
 色々崩れて凄いことになったり、血痕がシュッと付いてたりしてはいるけど。

 にしても、何この豪華さ。ほんとに暗殺者の拠点?趣味が中2の男子なんだけど。
 洋館とかにありそうな蝋燭が左右の壁にかけられてる。ドクロとかは流石にないけど。

「私もこんなの欲しいなぁ。飾るところないけど。ロマンというか、なんというかね。」
一応辺りに警戒の目を光らせながら、巨大な扉が設置されたいかにもな場所に立つ。私の厨二心がくすぐられる。

 うっわ、またなんか一悶着ありそう。
 対話で片付けばいいんだけどな。

 あ、これフラグ。

 私は一級建築魔法は手に入れたけど、一級フラグ建築魔法は持ってないよ。
 だからフラグはさようなら。

「たのもー!」
と、言い切る前に蹴破る。真顔で。

 あっれぇ?対話じゃなかったけ。いや、大丈夫だ。この程度なら。多分。

「あらあら、随分荒い挨拶ですね。」
結構遠目の玉座に、ザ・女王!的な姿で座っていた。ここまで声が響いていて、体がこわばる感覚がある。

 これに歯向かう……やってやろうじゃない。
 やってやりましょうよ!

 も、もちろん対話を、ですよ。

「いやぁ、すみません。ちょっと張り切っちゃったみたいで。お話、しましょ?」

「無礼者っ!そのような口を……」
「いいのですよ。」
「しかし……」
「あなたは、然るべき時に行動していただければ。」
「はい。」
側近らしき人が、私を二睨みしてくる。

 刀が1、2、3。ワ○ピースかな?
 いや、3刀流くらい普通だよ。

「そうですね。できれば、私もあなたとは争いたくはありませんからね。」
そう、好戦的な笑みを湛えて言う。

 そんな風に言われても……
 というか、わたくして。どこのお嬢様よ。

 いや、お嬢様はもとアテクシ主義か。

「黒髪ロング……清楚系お嬢様。」
「………あなた……?」
「ボン、キュッ、ボン。」
「………」
と、会話とも言えない謎の会話を重ねる。

 でもさ、着物映えしそうな体だよね。
 セクハラとか言わないでよね。袴でも映えそう……いや、なんでもない。

「まあ、いいでしょう。で?あなたはどのような御用向きで?」
気を取り直し、咳払いをする《女王》。鉄の色合いをした扇子を取り出し顎に添えた。

「単刀直入に聞くけど、パズールとティランに魔物をけしかけた犯人、《黒蜂》だよね?」

「あら?何のことか分からないですね。」
しらばっくれる《女王》。白々しいにも程がある。

 こっちには証拠がある。フィリオからもらった核石映像、そこにチラッと映った赤い紋章の男の写真。

 どっからどう考えても、この《黒蜂》とやらの仕業に違いない。

「あ、そういう嘘いらないから。」
「嘘じゃない、といったら?」

「無理矢理聞き出す?それがこの世界のやり方だから。」
私は、《女王》。———転生者に、そう言い放つ。

「対話、はどこへ行ったのです?」
「しらばっくれるからでしょ。暗殺者らしく、尋問にでもかければ1発だし。」

「スパイ映画の見過ぎでは?」
「もうそのキャラやめたら?」
バチバチと、日本人女性同士の視線が交差する。

「貴様っ!きゃら、というのはなんだ……?」
「「そこ、引っかかるところじゃない。」」

「す、すみません。」
私達2人の圧に負けて、おずおずと後退りする。

 臆病な部下だね。あ、これは私じゃなくて《女王》にビビってるのか。
 私にビビる人間って、魔法使った後以外にはいないと思う。

「で、結局認めるの?認めないの?」
「認めるも認めないも、やっていないことでとやかく言われましても。」
飄々とした態度で答える《女王》。

「地龍を洗脳できるレベルって、ここ以外どこにあるの?」
「どこかの街が、バレないよう隠れてやったのでは?私には関係ないことですが。」

「そんな自分の街の不利益になること、する?いくら私の平和脳でも、交易路を断つ真似は普通しない。それをして喜ぶのは、この国だけ。交易がしづらくなって、残ったここに商人が集まる。本当に商人の国になりそうだね。」
薄く笑いながら、王手をかける。ここまで動機は揃い、証拠もある。

 なにより、地龍と戦わされたって言う恨みも強いよ。あんなトランスフォームする地龍、私知らないよ。その技術はちょっと気になるけど。

「対話はできそうもありませんね。これだから、騒ぐことしか脳の無い猿は。」
「いや、先祖一緒でしょ。ホモサピエンスだよね。」

「な、なんのことでしょうか。」
「見たところ……20代くらい?厨二帰りした大学生ってところかな?」

「……………」

 あ、効果はバツグンみたいだ。

「もういいですか?言いたいことは終わりました?———なら、本格的に始末しましょうか。」
パンパンッ乾いた音が鳴る。すると、玉座が一段上に上がり、数メートル後ろに下がる。

「我らが砦、《軍団蜂》。蹂躙し尽くしなさい。」
壁、地面、天井。ところ構わず武装した暗殺者が登場する。数は、100程度。

 なにこれ?いきなりすぎやしませんかねぇ。
 いやいや、対話の流れじゃないですか。あ。そもそも、そっちに対話の意思がなかったのか。

「《軍団蜂》とは、私の可愛い子蜂たちの中でも精鋭を集めたもの。龍をも抑える力があります。」
自ら犯行を認めるようなセリフを吐きながら、嗜虐的な笑みを貼り付ける。まるで、嘲笑うかのように。

 この量、流石の私でも無理……なんて言ってられない。
 ここまで来たってことは、覚悟はできてるってこと。だからいる。

 なら、やり切らないと。

 私だって、死ぬつもりは毛頭ない。

「あなたのターンは、訪れませんよ。」
その一言を皮切りに、暗殺者は飛び付いてくる。

 私の魔法を、舐めてもらっちゃ困る。
 スキルと魔法。この2つがあれば、私は何とかできる。

 ………と、思いたい。

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 次回は《軍団蜂》との戦いです。
 まさかの《女王》も転生者とは。一体誰が転生させたのか、何が目的なのか、分からないところだらけですね。
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