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6章 魔法少女と奴隷商の国
閑話 《黒蜂》 2
しおりを挟む———これは、本編では語られることの無い、あの爆発後の《黒蜂》の出来事である———
爆音が鳴った後の事。《女王》に呼ばれ、急いで東商に向かっていた。
皆、死人のことは気にしていない。
気にしていても、何もならない。ウダウダと思い悩んでも時は進み、しなくてはならない仕事も無くならない。
「今の爆発、魔力も感じる?」
右目に魔力を込め、そう漏らす。
下っ端の中でも下に位置する彼女、新任の暗殺者であり、犠牲になったチームのリーダー。
今回は彼女を主導者として任務を遂行した。
《黒蜂》のメンバー全員は、多少魔法の心得があり、《女王》の特殊能力でそれぞれにあった能力が与えられる。
彼女は、魔力眼。
魔力を観測することができる。
魔法は、ナイフの速度や走る速度を上昇させることができるため、必須技術である。
話を戻そう。
爆音の方向から、大きな魔力の動きが見えた。なんらかの魔法が放たれたか。
現在36名。何が起こったか分からないが、無事なことを祈る。
あそこまで大きな魔力の流れを、彼女は見たことがなかった。
「《女王》すら救援を出すなんて、私たちでどうにかなるのか?」
「やるしか無い。命令だから。」
そう言ったと同時に、東商の街境を通った。東商に入った途端、強い魔力の風を感じる。
「ちょ、あれは何っ?」
27番のリーダーが指を差す。その先には、目を疑うものがあった。
黄緑の体に、黄色の羽のようなものがある生物が立っていた。
体長は縦横3メートルを超え、一歩歩くごとに強い振動が発生する。
「なに、これ……」
謎の生物への恐怖心が心を埋め尽くす。
大きさはそこまででは無い。でも、言葉にしようもない迫力がある。
「これ、私たちでなんとかなるやつ?」
「やるしかない。27番は接近して。あたしら14番は、援護に回る。」
「っ、それしかないの?」
「他にある?」
リーダー同士の短い話し合いが終わり、戦闘準備に入る。その時。
「よく来てくれましたね。」
「「「《女王》!?」」」
声の主は《黒蜂》のリーダー、《女王》であった。
《女王》は《黒蜂》の中でもトップの実力を持ち、《軍団蜂》や《特攻蜂》でも対処できない敵を相手にしている。
「いい訓練になりますよ。相手にとって不足はありません。」
手のひらにはいつのまにか鉄扇が握れており、準備は万端であった。
《女王》がいてくれるのなら。希望的観測に過ぎないが、いるだけで士気が上がる。
絶対にこの化け物を倒せるのではないか、と。
実際、この兵器は先程の息吹1発でほとんどの力を使ってしまい、見た目と強度だけの木偶の棒になっているのだが、そんなこととはつゆ知らず、総勢106名で相手をしていた。
余談だが、この生物は啼くことは無い。製作者の意図により、魔物のような咆哮を上げないよう設定されていた。
「《軍団蜂》よ、かかれ!」
一気に飛び出し、まるで蚊柱のように大量の人々が空間を埋め尽くすが、ぶつかることは一切ない。
ナイフが縦横無尽に投擲され、何度も化け物の体に衝突し、跳ね返る。
「私の出番っ!」
小刀などでは無く、日本刀を彷彿とさせる鋭い刃を縦に振る。
だが、カキィッという小気味良い金属音が鳴るのみで、弾き返される。
流石は魔法少女製。強度が違う。
「物理攻撃では意味がありません。魔法攻撃に切り替えなさい!」
右手の甲の紋章を光らせる。
これが、魔力供給をするための紋章。
紅く光り、魔力が循環する。
「「「《女王》の仰せのままに。」」」
全員が右手を左胸に当て、敬礼をする。
「今はよろしい。さぁ、始めなさい。」
106人の一斉魔法攻撃が開始される。
爆炎が広がり、落雷が落ち、土が被さり風が斬り裂き、何度も何度も攻撃が直撃せる。
化け物はリンチにされ、次第に傷が生まれる。
「その調子ですよ。傷口を徹底攻撃しなさい!」
そう《女王》が口にした途端、彼女自身も攻撃を開始した。
「——————『朧月』」
鈍色の鉄扇が光を纏い、橙に染まり始めた空を消し去るように鉄扇を振るう。溶け込むような黄色の光が走り、傷口に吸い込まれるように鉄扇が触れる。
「春風。」
魔力を含んだ風が巻き起こり、次第に化け物を囲っていく。
「逃げなさい。」
《女王》がそう一言告げると、渋い顔をして撤退する。
《女王》を残して逃げるなど、本来なら許されない愚行。
だが、それが命令ならば従うしかあるまい。
それが、《黒蜂》のルールなのだから。
そこからは風に阻まれ見ることは叶わなかった。
最後に見た光景は、輪切りにされた化け物を背景に、鉄扇を振るう《女王》の姿だった。
————————————
竜巻の中。
《女王》はある魔法少女の作った地龍兵器を相手に、戦いを繰り広げていた。
「春風の中では自由には動けない。『朧月』を喰らえば、春風の餌食になる。簡単なことでしょう。」
そう、聞こえるはずのない敵に語る。
聞こえていたとしても、意味を理解することはない。
「あなたにはナイフや刀、銃火器は効か無いようですね。ですが、スキルはどうでしょう。」
ニヤリと微笑み、ゆらっと体が重なるように見え始める。
「———酔いに酔いしれ、呑み呑まれ。泡沫の月に願うなら、眠りて夢の我を滅さん。神楽歌2節『酔月』」
鉄扇を握りしめたかと思えば、千鳥足のような足取りで接近する。
ガゴンッ!
何かが凹む音が轟く。
いつの間にか、鉄扇は化物の腹部を抉っていた。
「眠り眠らせ、揺れ揺られ。ぬばたまの夜に誓うなら、永き眠りを今ぞ覚まさん。神楽歌3節『衝月』」
更に深く鉄扇が突き立てられ、大きな穴が生まれるとともに弾け飛ぶ。
それでも、《女王》の追撃は止まらない。
「殺し殺され、逝き逝かれ。五月雨の夜を臨むなら、天の光を断ち撥ねん。神楽歌4節『斬月』」
最後の言葉を言い切った時には、もう化け物は斬り裂かれていた。
何十にも輪切りになり、そこに残るは魔力の海のみ。
———————————————————————
《黒蜂》のリーダー、《女王》の正体とは一体……?
1つ言っておきます。めちゃくちゃ強いです。(知ってます)
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