魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
202 / 681
6章 魔法少女と奴隷商の国

閑話 《黒蜂》 2

しおりを挟む

 ———これは、本編では語られることの無い、あの爆発後の《黒蜂》の出来事である———


 爆音が鳴った後の事。《女王》に呼ばれ、急いで東商に向かっていた。

 皆、死人のことは気にしていない。
 気にしていても、何もならない。ウダウダと思い悩んでも時は進み、しなくてはならない仕事も無くならない。

「今の爆発、魔力も感じる?」
右目に魔力を込め、そう漏らす。

 下っ端の中でも下に位置する彼女、新任の暗殺者であり、犠牲になったチームのリーダー。
 今回は彼女を主導者として任務を遂行した。

 《黒蜂》のメンバー全員は、多少魔法の心得があり、《女王》の特殊能力でそれぞれにあった能力が与えられる。

 彼女は、魔力眼。
 魔力を観測することができる。

 魔法は、ナイフの速度や走る速度を上昇させることができるため、必須技術である。

 話を戻そう。

 爆音の方向から、大きな魔力の動きが見えた。なんらかの魔法が放たれたか。

 現在36名。何が起こったか分からないが、無事なことを祈る。
 あそこまで大きな魔力の流れを、彼女は見たことがなかった。

「《女王》すら救援を出すなんて、私たちでどうにかなるのか?」
「やるしか無い。命令だから。」
そう言ったと同時に、東商の街境を通った。東商に入った途端、強い魔力の風を感じる。

「ちょ、あれは何っ?」
27番のリーダーが指を差す。その先には、目を疑うものがあった。

 黄緑の体に、黄色の羽のようなものがある生物が立っていた。
 体長は縦横3メートルを超え、一歩歩くごとに強い振動が発生する。

「なに、これ……」
謎の生物への恐怖心が心を埋め尽くす。

 大きさはそこまででは無い。でも、言葉にしようもない迫力がある。

「これ、私たちでなんとかなるやつ?」
「やるしかない。27番は接近して。あたしら14番は、援護に回る。」

「っ、それしかないの?」
「他にある?」
リーダー同士の短い話し合いが終わり、戦闘準備に入る。その時。

「よく来てくれましたね。」

「「「《女王》!?」」」
声の主は《黒蜂》のリーダー、《女王》であった。

 《女王》は《黒蜂》の中でもトップの実力を持ち、《軍団蜂》や《特攻蜂》でも対処できない敵を相手にしている。

「いい訓練になりますよ。相手にとって不足はありません。」
手のひらにはいつのまにか鉄扇が握れており、準備は万端であった。

 《女王》がいてくれるのなら。希望的観測に過ぎないが、いるだけで士気が上がる。
 絶対にこの化け物を倒せるのではないか、と。

 実際、この兵器は先程の息吹1発でほとんどの力を使ってしまい、見た目と強度だけの木偶の棒になっているのだが、そんなこととはつゆ知らず、総勢106名で相手をしていた。

 余談だが、この生物は啼くことは無い。製作者の意図により、魔物のような咆哮を上げないよう設定されていた。

「《軍団蜂》よ、かかれ!」
一気に飛び出し、まるで蚊柱のように大量の人々が空間を埋め尽くすが、ぶつかることは一切ない。

 ナイフが縦横無尽に投擲され、何度も化け物の体に衝突し、跳ね返る。

「私の出番っ!」
小刀などでは無く、日本刀を彷彿とさせる鋭い刃を縦に振る。

 だが、カキィッという小気味良い金属音が鳴るのみで、弾き返される。

 流石は魔法少女製。強度が違う。

「物理攻撃では意味がありません。魔法攻撃に切り替えなさい!」
右手の甲の紋章を光らせる。

 これが、魔力供給をするための紋章。
 紅く光り、魔力が循環する。

「「「《女王》の仰せのままに。」」」
全員が右手を左胸に当て、敬礼をする。

「今はよろしい。さぁ、始めなさい。」
106人の一斉魔法攻撃が開始される。

 爆炎が広がり、落雷が落ち、土が被さり風が斬り裂き、何度も何度も攻撃が直撃せる。

 化け物はリンチにされ、次第に傷が生まれる。

「その調子ですよ。傷口を徹底攻撃しなさい!」
そう《女王》が口にした途端、彼女自身も攻撃を開始した。

「——————『朧月』」
鈍色の鉄扇が光を纏い、橙に染まり始めた空を消し去るように鉄扇を振るう。溶け込むような黄色の光が走り、傷口に吸い込まれるように鉄扇が触れる。

「春風。」
魔力を含んだ風が巻き起こり、次第に化け物を囲っていく。

「逃げなさい。」
《女王》がそう一言告げると、渋い顔をして撤退する。

 《女王》を残して逃げるなど、本来なら許されない愚行。
 だが、それが命令ならば従うしかあるまい。

 それが、《黒蜂》のなのだから。

 そこからは風に阻まれ見ることは叶わなかった。

 最後に見た光景は、輪切りにされた化け物を背景に、鉄扇を振るう《女王》の姿だった。

————————————

 竜巻の中。

 《女王》はある魔法少女の作った地龍兵器を相手に、戦いを繰り広げていた。

「春風の中では自由には動けない。『朧月』を喰らえば、春風の餌食になる。簡単なことでしょう。」
そう、聞こえるはずのない敵に語る。

 聞こえていたとしても、意味を理解することはない。

「あなたにはナイフや刀、銃火器は効か無いようですね。ですが、はどうでしょう。」
ニヤリと微笑み、ゆらっと体が重なるように見え始める。

「———酔いに酔いしれ、呑み呑まれ。泡沫の月に願うなら、眠りて夢の我を滅さん。神楽歌2節『酔月』」
鉄扇を握りしめたかと思えば、千鳥足のような足取りで接近する。

 ガゴンッ!

 何かが凹む音が轟く。

 いつの間にか、鉄扇は化物の腹部を抉っていた。

「眠り眠らせ、揺れ揺られ。ぬばたまの夜に誓うなら、永き眠りを今ぞ覚まさん。神楽歌3節『衝月』」
更に深く鉄扇が突き立てられ、大きな穴が生まれるとともに弾け飛ぶ。

 それでも、《女王》の追撃は止まらない。

「殺し殺され、逝き逝かれ。五月雨の夜を臨むなら、天の光を断ち撥ねん。神楽歌4節『斬月』」
最後の言葉を言い切った時には、もう化け物は斬り裂かれていた。

 何十にも輪切りになり、そこに残るは魔力の海のみ。

———————————————————————

 《黒蜂》のリーダー、《女王》の正体とは一体……?

 1つ言っておきます。めちゃくちゃ強いです。(知ってます)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

処理中です...