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6章 魔法少女と奴隷商の国
閑話 雪狼族 2
しおりを挟むあたしは走っていた。できる限り、全速力で。
街の中を、西商の大通りを駆け抜ける。
途中で何度も人とぶつかり、怒鳴られた気がする。
でも、そんなことは気にならなかった。
主が襲われた。
早く、どうにかしなければ。
そんな思いが強かった。
初めは気に入らなかった。ヘラヘラしていて、何度も殺そうと思った。
でも、それを軽く往なして良くしてくれた。
段々と信用してきた。
助けたい。何が何でも。
れいてぃー?と呼ばれた冒険者仲間たちに報告するのがいいか、あたしの足で間に合うのか。
その間に、主が死んでしまっているのではないか。
そんな最悪の場合が、頭をぐるぐると回り、支配した。
「……っ!主っ……!」
何も考えず、目を閉じて必死に走る。
買ってもらった新しい服。魔力が通りやすく、動きやすい。
これが無ければ、ここまでの速度は出ない。
どれだけ走ったか分からない。数メートルかもしれない、何キロかもしれない。
感覚が無くなってる。
でも、宿の方向だけは見失わないよう、走った。
走って、走って、走って。
何度転けたか。
そんな時、東の方向で大きな爆発音が鳴った。
身が震えた。
全身の毛が逆立ち、尻尾は直線に伸びる。
聞いたことがあった。
死んでしまったジィちゃんから、そういう話はよく聞かされていた。
龍。
雪龍。会った瞬間に命の危機を感じ取り、身が打ち震える。
言われ続けたその感覚に、今の感覚は酷似していた。
「龍……?」
そう呟いた瞬間、頭を振る。
そうじゃない、今しなきゃいけないのは、報告をすること。
ジィちゃんは言っていた。
報告、連絡、相談は大切だと。
「何の魔物を、どこで見つけたかを報告しろ。いつ、どこに、にどれくらい狩りに行くかを連絡しろ。すべての事柄に対し、不安に感じたなら相談しろ。」
それは、ジィちゃんから教わったことだった。
ジィちゃんは凄い。今更そんな風に思う自分が憎い。
まともに仲直りもできず、死に別れてしまった。
「会いたい……」
その感情をも力にし、今度こそ大切な何かを守ろうと足を早めた。
すると、耳が反応する。
何人かの足音が聞こえてくる。
「おい、さっきの音は何だ?」
「ワタシに聞かないでくれるかしら。」
「お前には言ってないぞ。」
「煙も立ってますね。東商でしょうか。」
「うむ。偵察に行った方が良いのではないか?」
あの時は、バラバラに動いていたはずの4人が、言い合いをしながらも共に行動していた。
見つけた、見つけた!
内心であたしは喜び、さらに強く地面を踏む。
痛みを感じた。肉離れでも起こしたか。
でも、その程度ではあましのこの足は止まらなかった。
「おい、あれってソラの……」
「奴隷……じゃなくて、ツララちゃんね。」
「…………っ!、、はぁ、ぁぁ、……!」
何かを伝えないとと思い、口をぱくつかせる。でも、疲労と痛みと口の渇きで、意味のある言葉は出なかった。
なんで、こんな時に……
「あの爆発と関係はある?」
そんな中、女性が静かに、極めて冷静にそう聞いてきた。
「……」
首を振る。イエスかノー、ジェスチャーで伝わる質問をしてくれる。
こんな時でも、早い判断ができる……
あたしも、こんな風になりたい。
そんな風に、未来の自分と重ね合わせて落胆する。
「ソラは危ない?」
「……!」
何度も頷く。
「そう。人?」
「……!」
同じく、強く頷いた。
「まさか……東商の人かしら?」
「…………!」
本当はどうかは分からないけど、噂くらいは聞いたことはあった。だから、頷く。
「そうね。暗殺者かもしれないわね。私とウェントは救助に、ライとトインは東商に使ってちょうだい!」
「了解です!」
「承知した。」
凄いチームワーク。
あたしも、主を助けられるように、こういう風になれるのかな?
そんな想像に浸り、すぐに現実に戻ってくる。
「それより、向かったところでじゃないか?」
「なんでよ?」
「あのソラが勝てないなら、誰が勝てるんだよ。」
「……それも、そうね。でも行かないよ。行った方がいいわ。きっと。」
急に頼りなくなった。
本心を言うと、ちょっと不安になってきた。
「細かいことはどうでもいいわ。早く行きましょう。」
仕切り直し、主の元へ急ぎで向かう。もう手遅れかもしれないけど、行かずに後悔するより、行って後悔した方がいい。
あたしは走る。その度に痛みがぶりかえす。
でも、2人に追いつくために必死で走る。
主は、『ツララのステータスはその辺の騎士の数倍はあると思うよ』って言ってた。
これは経験の差……?全然追いつかない。
主だったら、ここであたしに何か言っただろうか。
勢いよく、ノリ満載で。
最初はめんどくさかったけど、いざ無くなると、それはそれで悲しい。
「ツララちゃん、こっちで合ってるのね?」
「確認しずにきたのか?」
「聞く暇がなかったんだもの。」
「………あっ、てる。」
なんとか声を絞り出し、搾りかすみたいな声でそう言った。
「ありがとう。ならいいわ。」
そう言ってまた走り出す。
大きな背中。これが、プロの冒険者。
主とは少し違う。
少し経ち、主が襲われた場所まで来た。
「……………ッ!?……うっ…」
両手で口を抑えた。
そこには、戦闘の痕跡と血痕が多く残っていた。
物品での証拠は無く、ただの事故現場にしか見えない。
「この血痕の数……うっ。」
「血の匂い、無理なのか?」
「ワタシも人の血は嗅ぎ慣れないのよ。慣れる方がおかしいのよ。」
「確かに、この量は危険だな。ここに人型の血痕ってことは、全身からの出血で間違いない。血溜まりの痕跡もある。失血死……、連れ去られたとすれば、ほぼ確実に死ぬ。」
「えぇ、そうね。まだここにいてくれたら、回復の兆しはあった。」
2人は、眉を顰めて話し合う。
人が死んだ。主が死んだ。なのに、冷静でいられるなんて……おかしい。
「ワタシ、失敗したわ。人選ミスよ。ライを連れてくるべきだった。もしここで生きてても、ワタシたちだと回復させられる人がいない。」
「気に病むな。トラブルはつきものだ。」
話が入ってこない。
「ツララちゃん、アナタはワタシが育てるわ。ソラの分まで、しっかりと。」
手を差し伸べられる。その手を掴んでしまっては、何かを失うと思った。認めてはいけない。
「……生きてる。」
「ツララちゃん。辛いことだろうけど、現実を見なさい。この出血量。死亡は確定よ。」
「生きてる!」
力の限り叫ぶ。
「ステータスを見た!簡単に死なない!ヒールもあった!回復できる!神様の力も持ってる!絶対に生きてる!」
今思い返せば、言ってはいけないこともあった。でも、それでも叫ぶ。可能性が、ゼロではない限り。
「……言ってることはよく分からないわ。でも、確かにそうね。あの規格外が死ぬところなんて、想像もつかないわ。」
「そうだ。早とちりかもしれない。そもそもこの血だって、ソラの血とは限らない。あいつのことだ。何人か殺して逃げただけかもしれない。」
そんな、可能性の話で心を落ち着かせる。
「探すわよ、ソラを。」
そうしてあたしたちは、主を見つけるために足を動かした。
———————————————————————
ソラの安否がどんどん不確定になっています。
本当に死んでいる可能性もあるかもしれません……
主人公、交代……
設定ミスにより、投稿時間が遅くなりました。
申し訳ありません。
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