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6章 魔法少女と奴隷商の国
189話 《黒蜂》
しおりを挟む1人の魔法少女にこっぴどくやられてしまった暗殺者のリーダー格が、屋根を駆けていた。
それは、その事件の数日後。
あの日、彼女の部隊は彼女以外全員死亡し、隙をついて逃げてきた。
戦力差はあった、技術面でも劣ってはいなかった。何故負けた、弱点はどこだ。
その後、そんな探りを入れながら、拠点に戻っていた。
《黒蜂》とは、そこそこなの知れた……ものではない。暗殺チームの名が知れているなど言語道断。
規模は大きく、そして誰にも気づかれてはいない。実力はトップクラスをゆうに超えている。
人数は300人を超え、幹部が7名、《女王》と呼ばれるものが1名。
それぞれ下っ端を《軍団蜂》、幹部を《特攻蜂》と呼ぶ。
話を戻そう。
いくら下っ端の《軍団蜂》といえど、少女1人に苦戦……いや、圧倒されるはずがない。
だからこそ、《女王》への申請が必要だ。
「《女王》への謁見を頼みたい。急用ということだけは伝える。」
ある地下の道を進み、拠点へと帰った。見張りの女性に一言声をかけ、見張を交代する。
見張りは、何があっても4人。天井に1人、壁の隠し部屋に1人、部屋への入り口に2人のフォーメーションを崩してはいけない。
そのため、彼女はここに残った。
「一体何があった?今日は偵察に行ったのではかったか?」
今度は、髪を雑に後ろでまとめ、ポニーテルを作る女性が、話しかけてくる。
同じく《軍団蜂》の下っ端である彼女とは、少々馬が合う。
《黒蜂》のメンバーは、主に女性で固められている。
男性の者は、特には働かずに上位の役職についている。
まるで、本当に蜂のようだ。
それを妬ましく思う《軍団蜂》は少なくない。
だが、これも《女王》のお考えなので逆らいはしない。
「私の団が壊滅した。それも、奇抜な格好をした少女1人に。」
「は?そんなことあるの?」
意味が分からなそうに眉を曲げるが、「本当だ」と至って真面目にそう答えた。
「だから、上位組に行ってもらいたい。」
「例えば、あの27番とか?」
数字で表されたそれは、団名である。
作られた順に数字が割り振られ、27番は偉大な功績を立て、壊滅したチームを引き継いだ、新生のチームだ。
新生といえど、全員《女王》お墨付きの実力を持っているため、信頼は高い。
「頼もうとは考えている。」
短く返し、仕事に戻る。
数分と見張りをしていると、先程交代した女性がやってきた。
「《女王》呼んでる。」
「オッケー。ありがとう。」
一言のみ交わし、もう1度入れ替わる。
《女王》は、話の分かるボスだ。親身とは言い難いが、しっかりと話は聞き、最善の道を示す。
今回も対応をとってくれるだろう。
《女王》の元に行くべく、核石で作られた特殊な移動期間で下降していく。
最下層に移動すると、彼女はゆっくりと歩き始めた。
ここに女王の間あり、謁見が可能だ。
「入ってきてください。」
「は、《女王》」
女王の前で跪き、声をかけられるのを待つ。
「何か用?先程の件で、何かありました?」
「はい。そのことについて、お話が。」
そう言い、ある程度の経緯を説明する。
自分を除いた全員が、1人の少女に圧倒され殺された、と。
「私の可愛い子蜂たちを殺すなんて、許せませんね。……可能性があるのなら、早めに芽を摘むのが得策でしょう。そうですね、14番か27番をお貸ししましょう。」
「両方、というわけにはいきませんか?」
「そこまでの相手ですか?」
「念のため、です。」
「そうですか。彼女らにも話を通しておきます。また、後日。」
その言葉を聞き遂げ、すぐに持ち場に戻ることにする。
チームがいくら崩壊しようと、仕事がなくなるわけではない。
彼女ら31番は、ほとんど全員が別のものに変わってしまう。そんな感傷に浸る暇もなく、仕事は回り続ける。
そんなこともあり、無事にチームを借りることができた。
南商の屋根を駆け、少女を追っていた。
本来だったら、別の街に出ることは少ない。
念には念を、策を固めて挑む。シミュレーションを繰り返し、数での挟み撃ち。
実力で挑もうとしても、勝てないことは明白。
だからこそ、戦力差が役に立つ。
「発見。」
以前は1人だったが、獣人を連れていた。でも、そんなことは気にかけずにナイフを投擲した。
狙いは獣人。賭けに出た。
印象は温厚そうだ。獣人を傷つけようとすれば、守るはず。
避けられる心配もなければ、逆にダメージも負わせることもできる。
「……ッ!?」
賭けは成功し、背中に直撃した。
前回の失敗は繰り返さない。
装備は見た目以上に堅く、ナイフなど通さない。ならば、奴隷商から手に入れた呪いの魔道具、呪具を使って呪いを付与した武器で戦う。
《女王》が開発した、連射魔弾。それも手にして戦闘を開始した。
もちろん、1人の犠牲者も出す気はなかった。
何せ、こっちは不意打ち。数も圧倒的で事前準備もして情報もある。
その点、向こうはゼロだ。
結果だけを言おう。勝利した。今すぐ殺そうというところだ。
彼女は打ち震えていた。
勝利への感動ではない。
もし、14番と27番。どちらかがいなかったらどうなっていたか。
そんな妄想に震えていた。
1人、死亡した。
14番のナイフ術が無ければ、追い込むことは不可能だった。
逃げられるか、追い込まれて1人ずつ死ぬか。
27番の刀術が無ければ、攻撃を仕掛けることが不可能だった。
ナイフなど簡単に往なされ、1人ずつ蹂躙されていた。
今すぐ殺したかった。
その瞬間。
ドゴォォーーーンッ!!という強烈な爆発音が遠くから聞こえてくる。
それは、東商の方角だった。
何かがあったのか。
その瞬間、《女王》の発明品であるイヤホンという、耳につける小型遠隔連絡機から声が聞こえる。
『戦闘を離脱しなさい!勝敗はこの際いいです。早く駆けつけないさい!』
《女王》の、今まで聞いたこともない焦りの声。
「しかし……」
『しかしもかかしもありません!急ぎなさい!』
いつもより口調が強い。殺すのは諦め、全員に撤退命令を出す。
死んだ同胞は回収し、途中で燃やす。
この少女は、放っておいてもいずれ血の流しすぎて衰弱死すので、この際無視をする。
すぐに、《女王》の元へ。
———————————————————————
一体何があったんでしょう。
魔法少女の安否は……2話後!(多分、きっと)
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