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5章 魔法少女と魔物襲来
159話 魔法少女と表彰式
しおりを挟む魔法通信に、騎士団の団長と副団長が映る。
「領主様直々の表彰、光栄であります。」
「光栄であります。」
敬礼のポーズをとり、声を張って喋る。
騎士様はお堅いねー。騎士団にだけは、永遠に入りたくない。
裏側の休憩スペース的なところで、私は魔法通信の映像を眺めていた。
「なんだ、その真顔は。」
「ん?いや、めんどくさいなって。」
「凄いですね、ソラさんは。勇気があって……その勇気、少しだけ貰いたいです。」
フェイルが笑いかける。
騎士団の人達は舞台の後ろ側に待機して、綺麗に整列をしている。こういうのに憧れる子供も、少なからずいるんだろうね。
「次は冒険者の表彰に入る。まずは、支援を率先して行い、戦闘役の心と体を癒した魔法使いたちだ。」
フィリオが呼ぶと、ざわざわとまたざわめきだす。
「わわっ、私の番ですかっ!?はっ、早くしないと……!?」
ワタワタと慌てふためき、あっちにこっちに顔を動かしていた。
「落ち着いて、フェイル。目を閉じて、息を吸って。吐いて………吸う。」
私の言葉に従い、目を閉じた。思いっきり息を吸い、吐いた。
「ゆっくり目を開けて。どう?落ち着いた?」
「は、はい。」
まったく、世話の焼けることだね。そういうのは子供のうちだけだよ?
「いっ、行ってきます!」
「おう、頑張ってこい。」
「はい!」
「ファイトー!」
まるで、初舞台のアイドルみたいな初々しさで舞台に上がる。
こういう場合って、誰が代表するんだろう?活躍した人……って、分からないか。
「急な招集で悪かった。街のために尽力したことを、表する。代表を1人……そこの魔法使い。前に出てくれ。」
フィリオが指を差す。その指先を真っ直ぐ辿っていくと、そこにはなんとフェイルがいた。
「ふぇ、ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」
咄嗟に両手で口を塞ぎ、フェイルは目で何かを訴えかけていた。
え、なに?モールス信号的な?一定の時間、目を開けたり閉じたりする暗号とか……な訳ないね。
「わわわっ、私ですかっ?」
「あぁ。」
「は、はいっ。」
フェイルが前に出て、まるで氷像のようにカチコチになっていた。
緊張してるねぇー、可愛いねぇー。
フェイルは、終始そのままカチコチだった。応援したくなる感じだった。
「じゃ、次俺らだろうからな。行ってくる。」
「あ、そうなの。じゃあ私も行かなきゃじゃん。」
「何言ってんだ?お前はまだだぞ?」
「は?」
よく分からないことを言ってくるディーに、怪訝な視線を向ける。
「お前はMVPだ。頑張れよー。」
「はぁ!?」
そのまま表彰台に登っていった。それから先は、あんまり覚えてない。
私が舞台に出なくても、フィリオは何も言わなかった。ということは、本当に私はMVPということなのかな……?
「よぉ、そろそろお前の出番だな。」
「えっ、もうそんな時間?」
ボーッとしてたからか、時間を忘れてたみたいだ。ガクッと肩を落として、舞台に上がろうと歩き出す。
はぁ……個人?ねぇ、個人的な何か?八つ当たりでもしてくるの?
「では、最後に1番活躍した人物だ。入ってこい。」
誰が見ても、嫌そうにしているのが分かるほど顔を引き攣らせ、舞台を歩く。
おいそこっ!「誰だこいつ」「さっき胴上げされてたやつじゃね?」「あぁ、弱そうだな」「魔法使いか?なんでここにいるんだよ」じゃない!罵倒なら他所でやって。
「静粛に。ソラがいなければ、この街は滅ぼされていた。俺も映像で見ていたが、大半の魔物はこのソラが討伐していた。」
住人達がざわざわしている。私は私で、他の意味で驚いている。
え、見てたの?見てたってことは、地龍の件も知ってるってこと!?
チラッとフィリオを見ると、「あのことは黙っておいてやる」みたいな目で私を見ていた。
「ソラ、お前はこの街の英雄として一言もらおう。ほら、言ってみろ。」
魔法通信で映像が流れていると考えると、今すぐにでも逃げ出したくなる。でも、そんなことをしたら信用に関わる。
くっ、何か一言………一言……なにか、テンプレでも。
結局思いつかないので、適当に言うことにする。
「えー、あのー、まぁはい。こういうのって、なんで言えばいいか分からないんですけど、今みんなが平和に暮らせてるのって、誰かのおかげだと思うんです。」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「だから、何事にも感謝して、今の何でもない平和を噛み締めてみてください。っていうのは私の意見なので、信じるか信じないかはあなた次第ということで。」
そそくさと逃げようとするも、フィリオに止められる。最後までいなきゃいけないらしい。ちくしょう。
責任は取りませんで最後締め括って逃げようと思ったのに、なんでこうなるの。
「今回協力してもらった者は、全員冒険者ランクを1つ上げよう。既にAランクなら、紹介状くらいを出そう。」
そこから少し説明があった。
それぞれの活躍を加味して、賞金が出ること。欲しい人は、武器や鍛冶師の斡旋、高ランクパーティーの紹介、その他諸々をやってくれるらしい。
今のところ、私は武器もパーティーも要らないから、お金だけもらおうっと。
「こんな時間に集まってもらって悪かった。そして、皆で英雄たちを讃えよう。」
大喝采が起こり、騒がしくなる。明け方なのに、よくやるなぁと思った。
そこからは、別の街の表彰式が始まる。そういえば、表彰式なんて中学校以来だな、とも懐かしんだ。
ま、ぶっちゃけ聞いてなかったけど。
その中には、しれっとルリィやクレアスさんも混じっていて、少し驚いた。
顔見知りがいると、驚くものだね。
そのまま表彰式は流れ的に終わり、みんなは止まってワイワイしていた。
もちろん私は、そそくさと逃げるようにして出ていった。
グッバイ、表彰式。
———————————————————————
5章ももうそろそろ終わりです。今章はいつにも増してチートになりましたね。
6章では、ある場所に向かいます。最強に近いたソラでも、苦戦する相手が出る……………かも。九分九厘、十中八九。
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