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5章 魔法少女と魔物襲来
151話 転生者と転生者
しおりを挟む「確実に倒した」俺は、そう思っていた。
溶け残った腕。これを見れば、誰だって死んだと思うはずだ。
「乞食者が発動しない?……そんなことはあり得ない。何が起こった……!」
海の中、戸惑いと怒りの混じった気持ちが膨れ上がる。
発動しないなんてあり得ない。なら、倒し損ねた?ならこの腕は?
俺は目を見開いて、拳を強く握る。
掌にグッと爪が突き刺さる感触がある。皮膚が裂け、血が垂れる。
だが、《常時能力》オートヒールで回復してしまう。
これほど強い。チートなはずだ。なのに、倒せなかった?
そんな俺自身にな対してか、あの神に対してか、怒りの気持ちが収まらない。
「………もっとだ。……もっと、強く、強くならないといけない……!!」
岩を叩き割り、俺は海から出る。
絶対に、アイツを殺してやる。その一心で。
————————————
転生者、晴人は森を歩いていた。自分の弱さを認め、普通の剣で鍛錬を積むことにしていた。
ここは絶好の狩場だ。無限に魔物が湧き、レベル上げも無限にできる。
魔物を狩りながらも、剣を振っていた。
「ふっ!ふっ!……ふっ!!」
何度も剣を振るい、剣筋は引き締まっていく。柄を引き絞り、地面を踏み込んだ。
見違えるよう……とはいかない。所詮はレベルでのゴリ押しにすぎない。
そんな時、背後から気配を感じる。聖剣を手にした影響か、そういうスキルも身についていた。
「アンタ、なにもんだ?」
黒いフードを深手に被る男に、声をかけられた。
「君こそ、なんなんだい?」
聖剣を取り出せるような構えをとり、警戒する。
晴人とフードを被る男が相対する。それぞれが睨み合い、沈黙が続く。
その数瞬後。
「……転生者か?」
「なんだとっ?」
男は「転生者」というワードを発し、驚きの声が漏れ出す。
溢れ出る小物感は、少しの訓練ではどうにもならなかったようだ。
「試してみたかったんだ。転生者を殺すとどうなるか。殺して、殺して、殺し尽くすっ!アンタがどんな能力を持ってるか、楽しみだ。」
先程の雰囲気が嘘のように、まるで子供のように手を横に上げて、微笑を湛えた。
「なんの話だ?」
状況が把握しきれない。困惑一色に染まる晴人とは裏腹に、男はワクワクしている。
この転生者は一体、どんな能力を奪わせてくれるのか、と。
「お前を殺すってことだ。」
「簡単に殺されるとでも?」
その瞬間、聖剣ファリスを引き抜いた。アドバイスどおり、深く強く踏み込む。
「奥義、《天道斬華》ッ!!」
「遅ぇ。」
導かれているような、完璧な剣筋なはずだった。それが、完全に防がれていた。
「……っ!?」
驚愕で言葉が出ない。
「獄炎鎖。」
その隙を突かれた。聖剣が炎の鎖で巻き付けられ、食い止めようと力を入れた瞬間に、体に激痛が走る。
「うぁ……かァ……っ……」
人間、度を超えた痛みを経験すると声が出ない。叫ぶ気力すら湧かない。
一方でフードを被った男———蓮は、気味の悪い笑みで近づく。
「やっぱり効くんだな。どうだ?拷問用の鎖の具合はよッ!」
怒りをぶつけるように、足蹴りをする。
スキル欄をスワイプし、どんなスキルがいいかを眺めていた。
嗜虐的に、残酷に。
「一瞬で消え去りたいか、絶望に喘ぎながら死ぬか、選ばせてやるよ。」
「ぁ、ぁぁ…………………………」
声は出ない。出そうと思っても、痛みでそれどころではない。
「選べないのか?なら俺が選んでやるよ。———両方だ。」
口角を大きく上げると、蓮は手を伸ばす。
《主要能力》、雹刻。
伸びた手からは、幾つもの尖った雹が射出された。ひとつひとつが体を刻む。それでも体は刻まれた端から凍りつき、自然と傷口が塞がれている。
「痛みに喘いで逝きな。」
晴人に催眠をかけ、死ににくくする。だが、痛みは感じるようにした。
「神経に触れたらどうなるんだろうなぁ?」
人間の構造はスキルで把握した。蓮はその知識に従い、行動するだけだ。
体を凍らせ、神経を壊し、回復し、燃やし、なぶり、蹴り、殴り飛ばし、斬り刻み、回復し、精神が壊れるまで何度も、何度も殺す。
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。
そんな言葉が脳に張り付き、衝動的に突き動かす。その憎しみの感情は、今のように他人にも降りかかってしまう……
最終的には呻きすら聞こえない。全てを諦め、ただ身を委ねていた。
体から、ドッと血が流れ出し、あらゆる場所に血が滲んでいた。
所々骨が突き出していて、体中が変色していた。
風に煽られるだけでも激痛を味わう。肋骨は折れ、首には針が刺さっていた。
「もう殺してやるよ。」
最後の最後に苦痛を味合わそうと、折れた肋骨に触れ、押し込む。胸を突き飛ばし、頭を乱暴に掴んだ。
非常につまらなさそうに、冷めた目で見下ろす。
それをそのまま上空へ飛ばし、すぐに墜落する。
残ったのは、人間の血に染まった森と、グチャッ、という落下の音だけだった。
そして、空の知らぬ間に、もう1つの戦いは終わりを迎えていた。
空と地龍、未だ戦闘中。
フェイルとディー、待機中。
晴人と蓮、蓮の圧勝。能力と聖剣の奪取。
———————————————————————
あの後、こうなってたんですね。そして晴人は瞬殺されました。
ソラがそのことに気づくのは、一体いつになることやら。
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