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4章 魔法少女と人神の祠

127話 魔法少女は諦めない

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 痛みは、遅れてやってくる。壁に打ち付けられたと気づくのに、時間がかかった。

「がぁっ……ッ!」
口から血が出る。これが俗に言う、吐血というものだ。

 あ、ぁぁ…………な、なにが?おき……

 肩で大きく呼吸をし、何度か嗚咽した。目からうっすらと涙が垂れ、体の痛みと息がしにくい苦しみに耐える。

 ……少し、慣れた。

 数分後のこと、痛む体に鞭を打つ。

 強引に腕を動かし、血を拭う。上着にはべっとりと血と吐瀉物まみれになっていた。

 こんなの着てられないね。痛いけど、頑張って脱ごう。

 段々と思考力も取り戻していき、なんでこうなったかを考える。

「人……神?」
聞こえないほど小さな声で、呟いた。人神はなんともいえない顔をして私を見る。生きてることは確認できているようで、様子をただ見てくる。

 蹴られた、多分。高速なんか生ぬるい程のスピードで、滑るように蹴り飛ばされた。

 いっ……!痛い……

 自覚した途端、お腹が痛くなる。お腹をさすり、なんとかヒールで治す。
 でも、ヒールは傷を治すだけで痛みは消えない。

「あれ、お終いかな?余もやりすぎたかな……?」
後半の言葉は、痛みで意識が朦朧としていて聞こえないけど、何かムカつく言葉を言われてるんだと思う。

 何て言われたかは分からないけど、何か言われたことは分かる。
 意味が分からない?今、それ聞かないで。痛いんだから、身体中。

 あと、痛くてもこれは言いたい。私の服には驚かないのね。

 どうする?もう痛みでまともに魔法なんて撃てない。このまま寝るなんて真似は、絶対出来ないし。響くんだよ、神様の蹴りは。

 だからといって諦めきれない。いや、諦められない。

 最後の可能性としては、覚醒。ステータスが上がり、制限時間を超えると数日間半減する。

 でも確か、魔力が回復するってことはなかった気がする。

「やらないよりかは、マシだよね。」
掠れた声を上げると、それに反応するように人神の目線が私に向く。

「おぉ、ちゃんと生きてた。少しの本気とはいえ、余の攻撃を受けて生きてる。単純に凄い…!」
オーバーなリアクションで手を広げ、槍も一緒に持ち上げられる。

 よくあんな重そうな物、持てるね。そこでも人神の強さを感じる。

 痛みにもだいぶ慣れた。そろそろ、やろう。魔法が無くても、私は諦めないし、戦える。

 でも、微かに残ってる。神速1秒分、軽いスキルなら発動出来る分は……ある!

「これだから、異世界は面白い!」
小さな声でも、語気を強めて決意を示す。

 元の世界では、こんな命のやり取りは出来ない。

「覚醒!」
魔法少女服が光り、ステッキの形も少し変わる。

 指空きの手袋には指がつき、服は体を薄く覆った。

 脛や胸の辺りには硬そうな薄い板装着されていた。手には少しだけ細く変形したステッキが握られ、見方によっては刀にも見える。

 覚醒後の戦闘フォーム。可愛らしい色も、少しは落ち着いている。

 でも、体は軽くて力がドッと溢れているような気がする。

 私はステッキを握りしめ、立ち上がる。

 体には壁の破片がついてるので、パッ、パッ、と手で払う。

「それじゃあ続き、始めようよ。」

「わぁ。次の形態があったなんて、余も驚いたよ。その状態で動けるなんてね。」
「あなたが付けた能力でしょ」とツッコみたいけど、そんな余裕はない。

 だって、今は覚醒状態で痛みとか無いけど、これ短時間で切れるからね……
 この状態、基礎能力が4倍……だったよね。神速1秒分くらいの魔力なら、十分だ。

魔法少女の意地を、舐めてもらったら困るよ。」
「そういう言葉は、余に攻撃を当ててから言ってほしいな。」
微笑を湛えたかと思えば、少し顔を引き締めて槍を前に突き出す。

 最終決戦だ。やってやろうじゃない、この世界は弱肉強食。生き抜いた者こそが、正義。

「勝てばいい。当てればいい。」
「それが出来るか、だけどね。」
私は駆け出し、ステッキを刀のように振るった。

 それは神速による一撃。時間は1秒もかからない、0.2秒程度の時間。

 これが私の最初で最後の全力。いくらステータスが4倍になったって、魔力がなければ魔法少女はそこまでの強さは無い。

 だから神速での魔力を極限まで減らし、全魔力をステッキに込める。
 大量の魔力を一瞬で使ったせいか、体がだるい。

 でも、そんなこと言ってる余裕は無い!

「喰、ら、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ステッキを右斜め上から大きく振る。

 風を音を立てて切り裂きながら、人神へ迫る。あとほんの少し、あと数ミリで切り裂けるという距離で………

「え?」
情けない声が漏れた。

「本当に凄い、凄すぎる。それで人間だなんて、本当に信じられない。余は其方が気になる。」
目が濃い紅色になり、ジッと私を見つめる。

 ご都合体質の効果はもう切れた。ステッキの先が、当たるその瞬間に。

 こんなところまで……つくづく私は運がない。

「はぁ………もうお終い。勝てなかったし、当てられもしなかった。」

 私の実力は、その程度だった。完全な慢心……

 一瞬にして絶望に落ち、膝が砕かれたかのように床に膝をつく。

「それは違うと思うな。」
よく通る声が、部屋に響く。ボロボロになった部屋を、ぐるっとよく見つめて最後に私を見て笑う。

「其方はよくやった。そもそも、余の前に現れることすら、人間業じゃない。その後も、余と攻防を繰り返し、まだ生きている。その強さに、賞賛を送ろう。」
パチパチパチ、と一定のリズムで拍手する。

 あれ、なんか思ってたのと違う……?

「そもそも根本的に思い違いをしているようだけど……そもそも余は、其方を転生させてなどいない。」

「………………………………………………………」
「………………………………………………………」

「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
長い沈黙の後、ようやく脳が情報の処理を始めた。

 ん?・・・・・・

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

———————————————————————

 人神の突然の告白に驚くソラ。頑張れソラ、負けるなソラ。あ、負けたのか。


 こそこそ裏話パート3(人神編)

「よかった、ちゃんと生きてた。ここまでの強さの人間を、殺しちゃったかと思ってヒヤヒヤした……」
ほっと一息つきたいのを我慢し、少女を眺める。

 すると、突然少女が叫び出す。

 その瞬間、服装が変わった。

「おぉ?なんだその能力は、気になる。」
まじまじと見ていると、少女が話し出す。

 エディレンは、人の話をあまり聞かない。たまに行われる、神が集まる「定期神集会」というものがある。そこでも、よく話を聞かず適当に相槌を打って後悔したことも多々ある。

 それでもやめないのは、怠惰なエディレンらしい。人間の欲望を全て持つエディレンは、興味のあることにしか反応しない。
 少女には、随分興味があるようだ。

「この少女は、他の神々とも接触することになろうな。余の次は……あの変態露出魔か?」
顎に手を添えて考え事をするときは、大抵話を聞いていないときである。
(この思考に至ったのは、露出の多い服を着ていた為だ。だが、エディレン人の趣味に、とやかく言う趣味は無い。無理に踏み込む必要は無い。)

 適当に相槌を打つため、厄介ごとも多い。他の神も、「早く治してほしい」と本気で悩むほどだ。人間の欲望は末恐ろしい。

 話を戻そう。変態露出魔というのは、霊神のことだ。精霊や妖精、魔物では無く、人間でも無い生き物を管轄する神だ。
 いつも、薄く胸や性感帯といった、大事なところのみを隠した露出度極高の服を着ている。

 実のところエディレンは「サキュバスになった方がいいのではないか?」と感じている。

 エディレンは、少女を推し量るように見る。1歩でも間違えば、今の少女ならば傷くらいつけられてしまうからだ。

エ「余、誤解解けた。」

私「良かったねー。」


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