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4章 魔法少女と人神の祠
126話 魔法少女は敗北する
しおりを挟む空中から落ちる私と、地面で私を見上げている転んだ人神。
空から落ちる魔法少女と転けた神の構図という、変な状況だなと感じる。
見られることは一生無いと思うから、よく眼に焼き付けておこう。
そんな余裕は無いけど。
「ステッキか刀、どっちでなぶられたい?」
「……どっちもごめんだね。余は君みたいな少女にやられるなんて、情けないことは出来ない。」
目を細めて私を軽く睨む。どこか自信があるようにも見える。
……少し警戒した方がいいかな?ステッキの方は何があってもいいように、防御に専念させよう。
ちなみに刀は、必殺技を使うために鞘に入れてる。
重力に身を委ね、真下に落下する。その瞬間、いい感じのタイミングで刀を振り下ろした……が。
「遅いよ、其方は。」
「えっ?」
その言葉の瞬間、人神は立ち上がった。
そして、1本の巨大な槍を取り出した。
はぁ?何その武器、今の状況で対処なんて出来ないよ。刀で受け止めるしか無い……?
刹那と言ってもいい時間で槍を振り上げ、刃先が私に肉薄する。
……ッ!身体激化!!
私は身体激化で力任せに体を捻り、魔力による筋肉の増幅の激痛に耐えながら、地面に仰向け状態で倒れ伏せる。
中々の高さだった。背中を打ちつけられ、あまりの悲痛に呻きが口から漏れる。
「……ゔっ、……ぁぁ………」
そんな無理な着地のせいで、叩きつけられた勢いで臓器がフワッと浮く感覚を覚える。
やばい……体育の授業で、倒立前転する時に背中を打ち付けた時の何倍も痛い……
魔法少女服着てるのに、なんでこんな痛いの?
「余の攻撃を、スレスレといえ躱すか。これは本格的に……」
「な、に……?」
「何でもないよ。」
即答される。
……この状況を、打開する方法は……何か無い?
私の予想を超える行動をとられてる、私も何か、人神の予想を超える方法を探さないといけない。
槍とかなんで持ってんの、あの人神……神器とかいうやつ?人間相手に、神様の武器使うとか卑怯じゃない!?
「さぁ、立ちなよ。もう少し余を楽しませてくれ。」
ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。
言う通りにするのはなんか嫌だけど……やるしかない。
ヒールで体を治し、足に力を入れる。
「自滅するほど、私は、弱くない。そもそもこの槍を避けるなんて、あなたは想像してなかったんじゃない?」
「うん、そうだね。流石にあれを避けるとは思わなかった。余だってそれなりの戦いは経験してきたけど、其方みたいな人間はいなかった。」
うんうん、と頷きながら楽しそうに笑う。
「だから、其方にはもっと戦ってほしい。余を楽しませるために。」
「なんでそんな気持ち悪いことしなきゃいけないの。私は、倒すためにここに来てる。」
体質はもうすぐ無くなる。その前に、一掠りでもしてくれれば……!
魔力超化で荒れ始めた魔力を制御し、レイタースタートと一緒に魔法を打ち出す。
レイタースタートの数、およそ20。通常魔法の数、およそ5。
精度が落ちるから、魔法はそんな連射できない。だから、レイタースタートで補うしかない。
私は駆け出す、魔法と共に。
「次は何をしてくれるの?楽しみだなぁ。」
ニチャァと狂気の笑みが貼り付けられる。
この神、ちょっと気持ち悪いんだけど。手紙の印象と違くない?
ファイボルトが人神に接近すると、魔法の式だけのトールがその横や間を通り、雷が現れる。
雷のすぐ後ろからは、バチバチと音を鳴らす炎が迫る。
電気と電気が引き合って、速度が増している。
「この程度の魔法じゃ、びくともしないよ。」
「そう?私には効いてるように見えるけど。」
「そう見えるんなら、君の目は節穴だね。よーく、見てごらん。」
人神は、綺麗な姿勢で魔法を消し、ファイボルトを槍で的確に突く。
でも、これで分かった。
いくら神であろうと、数の暴力と魔法の暴力を掛け合わせることによって、次第に対処がしきれなることに。
わざわざ槍を使ってことは、槍を使わないといけない状況だったってこと。
なら、そこで刀を使えばいい。
私は全ての魔力をここで使い込むように、大量の魔法を使う。
レイタースタートは5個を残して、25個使う。通常魔法の方が魔力超化の影響を受けやすいから、30個の魔法を使う。
この際、制度なんて関係無い。
これが出来るのは、魔導法のおかげだ。普通だったら、これだけの魔法を同時に出すことは難しい。
だからといって、全て同時に撃つとか出来ないよ。出来たらレイタースタートなんて要らないじゃん。
式だけ飛ばして後から攻撃なんて、そんな面倒なこと必要なくなっちゃう。
人の作った魔法の価値を、落とそうとするんじゃない!
「少し反撃するけど、間違って死なないようにね。手加減とか無理だから。」
「言ってくれるね、余が死ぬなんてことはあり得ない。其方の攻撃、見せてみよ。」
走りながら2種類の魔法をセットで送りつける。もちろん着払いで。
人神は、途中でめんどくさくなったのか槍で一掃していた。
魔法が少なくなるにつれ、私はどんどん人神に近づけていた。
槍を振るも、私はその攻撃には当たらない。
近づくということは、それだけ魔法の威力も上がる。「厄介な……」と呟いてるのが聞こえてくる。
「これで、余を倒せるとでも?」
「さぁね。やってみないと分からないよ、そんなこと。それとも命乞い?」
軽い挑発を入れて、探る。
「あっはっはっはっ、面白いこと言うね。人神である余が、あろうことか人間に、命を乞うなんて……馬鹿馬鹿しい。寝言は寝て言ったらどうだい?」
最初の少年のような可愛げはどこへやら、見た目に反して随分な大口を叩く。
最後の一撃は大きくいかなきゃね。
私史上最大のエアリスリップを、人神に向かって放った。
でも、人神は動かない。試すような目でこっち見るけど、何かしてくる様子はない。
何……?それだけ自信があるってことなのかな?そうだとしたら、そんな自信を断ち切ってあげよう。
「私の魔法、ちゃんと味わってね。」
ステッキは腰に挿し、刀を握る。柄に力を入れ、目を瞑る。
集中しろ、魔力を固めろ。一点に気を溜め、弱いところに差し込め。
魔力感知で居場所を把握し、エアリスリップごと切り裂こうと指をかける。
レールガンの応用。
鞘に磁場を作り、摩擦抵抗を極限まで下げ、電気の押し出す力と魔力のスピードで。
「斬。」
決めゼリフと共に、竜巻が真っ二つに斬れて水が溢れ出した。
決まった。そう思った。
そして、その途中でこうとも思う。
さっきまであんなに強かったのに、いきなり倒せるなんて有り得ない……
あと、斬った感触が無かった。
「凄い、凄いよ、有り得ないよ。余をここまで追い詰めるなんて。でもさ、やられるなんてもっと有り得ないんだよ。」
圧倒的力を目にした瞬間だ。
今まで見せてきたのは仮の姿と言うようで、抜けてるなんて、今ではもう到底思えない。
そこにあるのは、圧倒的強者で、高みの存在。
それが、誰にも届かない神。だからこその、神。
人差し指で受け止めた刀を下に押し込む。
「余の勝ちだ。」
次の瞬間、私は壁に埋もれていた。
———————————————————————
魔法少女、初めての完敗……
まぁ、相手が悪すぎます。いくらバカっぽくて、たまに抜けてるからと言って、圧倒的な力の差は覆せません。
こそこそ裏話パート2(人神編)
「あれ、余、やり過ぎた?」
少し本気を出し、神槍を取り出したことや本気を見せたことを後悔する。
人神、エディレンの最大の武器、神槍フェンジルというものがある。それを、少女との戦いで使ってしまったのだ。
「でも、ギリギリ生きてるよね?というか、ピンピンしてる。余を倒そうとまでしてるし、大丈夫……だよね。」
やはり心は弱いのである。
もう少し他人と上手く関われたのなら、戦いも避けられ、勘違いも避けられるという一石二鳥なのだが、エディレンはこの戦いを少し楽しんでいた。
「凄い。凄い。なんでこの少女は、余とここまで渡り合える。天地がひっくり返っても、負けることはないだろが……強い。」
そして数分後、少女を壁に減り込ませてしまった。
「あれ、余、やり過ぎた?」
そしてまた戻ってくるのであった。
エ「余、殺しちゃった?え、え?」
私「頑張れ。」
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