113 / 681
4章 魔法少女と人神の祠
109話 魔法少女は情報を貰う
しおりを挟む釣りも程々にして、もう切り上げるようだ。
船が行きとは真逆の方向に走り出し、それと一緒に日が沈み始めた。
空がオレンジに染まり、海にそれが反射して綺麗に輝いている。
「やっぱ綺麗だよな、この景色。見慣れたもんではあるけどよ、綺麗なものは綺麗なんだよな。」
長い髪の毛を指で掻き上げて、私の方を見た。
「竹林の村で見た景色も綺麗だったけど、ここの景色も綺麗だね。」
「あぁ、新しくパズールの傘下に入るっていう村のことか?」
「うん、それ。」
ロアは遊び疲れたのか、こくん、こくんと眠そうにしながら、目を擦っていた。
ステッキからクッションを取り出し、頭に置いてあげる。
寝かせるようにして、どう見ても面積があってない布をかけた。
「……うぅ、ん……らぉねぇ…ゃん……」
「はぁ……可愛い。」
「あんた、そんなキャラだったか?」
そういう言葉は綺麗に無視し、寝てるロアを愛でることにする。
いつもはしっかりしてるロアだけど、こういうところはやっぱり子供だ。
可愛い可愛い。
……はぁ。反抗期、来ないといいな。
『ソラ姉さん、キモいんだけど』とか言われたらもう、立ち直れないよ私。
「ペットかよ。」
「何言ってるのマリさん。ロアはペットじゃなくて癒し担当ですよ?。」
「それはそれでかなり酷いんじゃないか?」
マリさんの言ってることはよく分からないので、無視に限りますなぁ。
ステッキからお茶を取り出して乾いた喉を潤す。
釣りで夢中で水分補給忘れてたね。ロアにも後で飲ませておかないと、脱水症状になっちゃうよ。
「あれ?さっきからマリさんしかいないけど、残りの2人はどこにいるの?」
ずっとマリさんしか反応していないことに気づき、辺りを見回すが誰もいない。
「ベスは操縦、アトのおやっさんは裏で魚の処理をしてるぞ?」
「魚の処理?」
「あー、傷んだ魚は売れないからな。綺麗なやつと仕分けて綺麗なやつはすぐに締めるんだ。アタシは専門外だけどな。」
「専門とかあるんだ?」
それはただの得意不得意な気もするけど、本人がそう言うならそうなんでしょう、と割り切る。
魚は釣った後の処理も大変なんだね。日本でも簡単に食卓で出る魚だけど、誰かが1匹1匹命と向き合うことによって出来ることなんだね。
ちょっと覗いてこようかな?
「ほんの少し覗いてくるんで、ロアを見ててください。じゃ。」
「おい!ちょ、待て!人に子守りをおしつけんじゃねぇ!」
眉を寄せ、恨めしそうにこっちを睨む。
ちょっとだから、ほんのちょっと。あと、ロアは人に迷惑をかけるような子じゃないし。めっちゃいい子だし。
そのまま船の裏の方に向かっていた時、魔力感知に異様な魔力が引っかかった。
「ん?あれ、私魔力感知なんて使った覚えないよ?」
何があってもいいように、常駐にはしてあるけど今日は切ってあった。それを疑問に思い、魔力感知を使ってみる。
感知できるギリギリの辺り、そこに魔物すら隠れるレベルの魔力が漂っていた。
街からはだいぶ遠い。そもそも魔力完治の効果は広い。端にあるんだからそういうことのはずだ。
「最初からこの海の魔力濃度は高いと思ってた。魔力濃度っていう言い方は正しいかは分からないけど、空気中や洞窟、もっと言えば村の奥の地下洞窟よりも、もっと。」
ボソボソ声で呟きながら、顎に指を添えて思考を巡らせる。
この街の海にある何か。水竜のせいで、魔物達が遠くからこっちにやって来てるって言ってたけど、それも関係あるのかな?
水竜の生息区域とか知れたらな……
「そういうスキルがあったらいいのに。グーグル先生の代わりにさぁ。」
神様さ、日本の人間様に負けちゃってるよ。グーグル機能追加してもいいよね。ラノベとかにもよくさ、スマホを持って転生することあるじゃん。
圏外で使えるはずの無いスマホをさ、さもチートのように。
あれ、実際使えるのって時間とか電卓とか写真くらいしかなくない?
話を戻そう。
……ん、待って。
「これ、人神の住処があるんじゃないの?」
まさか、と思いちょっとアトさんに聞いてみようと、駆け足で向かった。
声は聞こえてなかったらしいけど、この一連の動きをマリさんは見てて、「頭でも狂ったのかと思った」と言っていた。
ぶっ叩くよ。なーんてね、嘘だよ。
船の裏側に行くと、ちょうどマリさんの言っていた通りの選別をしていて、私に気づいたのか「どうかしたのかい?」も声をかけてくる。
「あの……率直に言いますけど、人神って知ってますか?」
「……それが、どうかしたのかい?」
数段声を低めて、真剣な表情になる。
いつもと違う反応。人神を確実に知っている、そう私の勘が言う。
「この前、水竜が現れましたよね。」
「あぁ、そうだったな。」
私は、あの依頼の内容を教えることにした。転生者っていうところは省くけど、人神に会いたいことも伝える。
「そうか、嬢さんが水竜を。それは一漁師として、礼を言わないといけないな。」
魚の選別作業をする手を一旦止め、私の話を聞いてくれる。
これが別の人だったら、聞いてくれなかったんじゃないかな?
「俺も全部を言えるわけじゃない。嬢さんだってそうだろう?」
「あはは、気づいてました?」
「無論だ。」
アトさんの観察能力に驚きながらも、大事な話を聞き逃すまいと聴覚を働かせる。
人神の居場所を教えてくれればいいけど、(ここにいると言う情報があればそれでいい)全部言えるわけじゃないって言ってるし……
「俺の家に代々言い伝えられていてな、何千年前からこの街を見守ってくれているそうだ。この街に豊富な川が4つも流れる理由はな、人神様から漏れ出した魔力が染み渡ったからだ。」
軽く人神の歴史に触れ、この街の川についても教えてくれた。
あとは核心となる部分を教えてほしいけど、多分これが限界だと思う。
話し方の違和感からして、そう推測できる。
「情報、ありがとうございます。」
「なぁに、漁師としての音を返しただけだ。」
それは、これでもう貸し借りは無いと言わんばかりに。
「でもな、本当に人神様に会いに行くってなら、気をつけろ。実を言うと恩人の嬢さんには、行ってほしくはない。」
「行きますよ。私は私のために、行く必要があるんです。」
「……そうかい。」
もう聞いてもお終いだね。この目はもう何も喋らない目だ。
義理のお母さんに、なんで養子に私を選んだか聞いた時の目にそっくり。
表情は柔らかいけど、目の奥底には絶対に喋らないという意思が見える。
マリさんにロアを預けっぱなしだし、早く戻ろう。
私はロアの元へ、アトさんは魚の選別へ、何事もなかったかのように日常に戻っていく。
———————————————————————
はーい、この街に人神がいることが分かりました。
皆様、今回の話はなんと……人神のお話です!(みんな知ってる)4章始まってもう結構経ってますけど、今回も頑張ります。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる