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3章 魔法少女と水の都
94話 道連れ誕生会 (ロア視点)1
しおりを挟む今日は領主様のお父さんの誕生会の日、(ネル様のお爺さんでもあります)ネル様は「ロア達と一緒に遊びたいです!」とで違ってはいませんでしたが、さすがにダメなようで連れて行かれてました。
私は小さく手を振って、見送ろうとしたんですが……
「ロア!ロアも来てください!」
「えっ……あ、えっと…そ、その……」
私が焦って言い淀んでいると、領主様が声をかけてきました。
「いくら同行が許可されていても、嫌がっている者を無理矢理連れて行くのはどうかと思うぞ?」
「お父様……」
目を少しだけ潤ませて、こっちをチラッと見てきます。
そんな顔見たら、断るのはなんだか忍びないです……かといって、誕生会に出席したら私は……正気を保てていられますかね?
「あっ、あの!」
私は両手を握り締めて、目をギュッと閉じて勢いよく言いました。
「わ、私もついて行っても、……よ、よろしいでしょうか?」
ちょっと涙が出ていたかもしれません。少し、声が裏返ってしまったかもしれません。でも、ネル様を助けたいので、そう言いました。
「ろっ、ロアぁぁぁぁぁ‼︎!」
「ネル様っ、涙拭いてください。泣かないでくださいよぉ……」
私にギューッと抱きついてくるネル様に、どうすればいいか分らずにハンカチをお渡ししました。
このまま抱き返してもいいのでしょうか?私の手は、少しだけ上がったところで止まっていました。
ソラお姉ちゃん……どうすればいいですか?
まだ寝ているソラお姉ちゃんに、また頼りそうになってしまいました。
「本当にいいのか?言っては失礼だが、平民が貴族の誕生会に来て倒れたりしないか?」
領主様は、ネル様の我が儘で私が倒れてしまわないか気を遣ってくれます。
優しい領主様です。この街に生まれて、私はよかったです。
「あっ、はい。多分……大丈夫です。」
「ならいいが……気分が悪くなったらちゃんと言うんだぞ?」
困ったような笑顔で泣くネル様を見て、優しく私に言ってくれます。
「でも、ドレスなどは持っていません……」
とても重要なことを思い出して、私は俯きます。
そうです、こんな格好で誕生会なんて出られません。
「心配しないでください、私のドレスをお貸しします。なんなら、差し上げましょうか?」
「いいんですか?」
「いいですよ!」
泣き止んだネル様は、晴れやかな笑顔で私に言います。
やっぱり、ネル様には笑顔が1番ですね。
そんなことがあり、今私は誕生会の会場にいます。
周りには綺麗な服で着飾った、綺麗な女性貴族の方々と、男性貴族の方々がいらっしゃいます。
そこに1人だけ平民の私がいて、少し場違いな感じがありますが……ネル様のためにも、頑張ります。
1人につき、1人だけ友人の同行が許可されているようで、私はそれで来ることができました。
私は青っぽい、控えめな感じのドレスをネル様からお借りしています。
似合うか心配でしたが、ネル様はとても褒めてくださります。
ネル様は少し大人っぽく、薄い紫色をしていて、ふわふわしていなくてシュッとした感じのドレスです。
ネル様の格好は、いつもより数段大人な雰囲気があります。
これが貴族様の力なんでしょうか?
そういえば、ソラお姉ちゃんはまだ寝ているんでですかね?いえいえ、流石に起きていると思います。
起きて、いますよね?
領主様は他の貴族の方々とご挨拶をしており、ネル様も一緒なようです。
とても失礼ですが、いつもの私達への立ち振る舞いが、嘘だと思えるほど気品高く、近寄り難い空気を持っています。
ネル様は、私達を気遣ってわざと軽く接しているのでしょうか?
今のネル様を見ていると、そう思ってしまいます。
私はどうしたらいいか分からず、会場の端っこのところで少しキョロキョロして、両手を胸に添えます。
「あら。そんなところで、どうかいらしたのですか?」
ネル様より3歳ほど年上くらいの方が、私の動きを不審に感じたのかそう聞いてきます。
「貴方、お名前は?」
流石に無視はできないので、小さく「ロアです」と頭を下げて言います。
貴族様とお話しするのは今日が初めてで、緊張で胸が張り裂けそうです……
「ライナ様じゃないですか、お久しぶりです。」
ネル様は挨拶が終わったのか、こちらに足早で来ます。
助かりました……1人だとどうなるか不安でしたし、ネル様のお知り合いの方でしたら、いい方だと思いますし。
「ネル、お久しぶりね。」
そう言って笑顔で挨拶をします。小さく頭を下げると、赤髪がサッと揺れます。
「こちらは、私の友人のロアです。ロア、こちらは昔から良くしてもらっているライナ様です。」
「よっ、よろしくお願いします!」
ネル様の紹介に次いで、私は深く頭を下げます。
私の髪は短く切ってあるので、ライナ様のようには揺れません。
「それほど畏まらなくても良いですよ。別に、わたしが偉いわけでもないですし。言ってしまえば、世間体を気にしているだけです。」
そう、柔らかな笑みを一緒に向けてくれます。
やっぱり、いい人の笑顔はとても綺麗に見えます。笑顔は、心が表れるんですね。
そうしているうちに、私もなんだか心がほぐされていく感じがします。
これもネル様なりの、配慮だったんでしょうか?
その時、正面の入り口がバッと開きます。
そこには威厳を感じる髭を生やした、50代くらいの貴族様もやってきます。
すると、みんなは全員その方の方を向いたので、私も合わせて向きます。
どうやら、この方が領主様のお父さんのようです。
ゆっくりと1番奥の席に向かい歩き、席の前に立つと、
「待たせたな。さて、待たせてしまった分、好きに食べて呑んでいってくれ!」
———————————————————————
今頃ソラは、遅刻しています。(時系列的に)
ロアはネルのおかげで、ちょっと緊張が和らいでる様子です。
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