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3章 魔法少女と水の都
90話 魔法少女は水竜と戦う(本戦)2
しおりを挟む空を飛ぶ水竜が、私とルリィの攻撃をチラチラと左右に首を振って見つめる。
「空を飛ぶ水竜」……謎のパワーワードが生まれてしまった。
トールはルリィの彗星よりも早く水竜の元に辿り着き、水竜に叩きつけようとしていた。
でも、それがいけなかった。
その一瞬の隙をつかれて、私の雷は水竜の息吹によって相殺され、彗星は尻尾ではたき落とされた。
「危険度を理解してる?ルリィの方が安全だって、分かったってこと……?」
驚いたようにこぼすルリィは、またすぐに精霊術を発動しようと指を動かす。
九芒星の次は、何芒星なんだろうね。十二芒星とか?大変そうだね……
すると、小さい五芒星を6つ描き、それが繋がった。
アニメでよく見るような、魔法陣が出来上がったと思いきや、蒼白い炎が弾丸のようになって射出される。
マシンガン?……とんでもないね。
「私も負けてらんない。ミョルスカイ、使うか。」
私はステッキからミョルスカイを取り出し、腰にステッキを挿す。
出力は、130%くらいで大丈夫。
「至近距離で撃つのは、ちょっと難しいよね。でもちょっと、近づいてとこう。」
私はミョルスカイの銃身を握りしめながら、空をトントンと跳び上がる。
「ちょっと、そのマシンガンの位置ずらして!」
「マシンガンってなに⁉︎」
そう言えば、マシンガンは私がつけた名前だ。
じゃあなんで言えばいいんだ?
「その精霊術、私に当たりそうだからさ。」
「そういうことね。分かったー!」
好戦的な笑みと共に、マシンガンの位置をちょっとずらしてくれる。
これで、なんとかなる。
出力調整、完了。魔弾装填、弾道予測……軌道修正、完了。トール、射出。
魔力で押し飛ばすイメージで……
「貫け!レールガン‼︎」
ビュッーーン!と、空気を切り裂きながら、魔弾は水竜目がけて飛んでいく。
その音にいち早く気づいた水竜だけど、流石にマシンガンを喰らいながらは防げない。
「これはあの、防御の塊、カロォークすらワンパンしたレールガン。片手間で防げるようなものじゃないよ。」
空中歩行で一旦この場から退散し、観察に徹する。
レールガンは知っての通り、雷を散らしながら飛んでいく。
それに当たり始めた水竜は、「ギュゥ゛ゥ゛」と、短く悲痛の声をあげる。
「ルリィ!逃げて!貫通したのが当たるかもしれない!」
「えっ、なにが?」
「いいから!」
「うっ、うん?」
ルリィはマシンガンを解除して、すぐにその場から退散する。
水竜はマシンガンの手が止まったことに気を取られ、もう手遅れなところまで来ていた。
「魔弾との距離、およそ5mm。」
核石の位置は分からない。でも、顔の近くを捉えている。
致命傷は、避けられないはずだ。
「次のターンで、勝負をつけよう。」
その言葉を放った瞬間、血飛沫が上がる。
それは、別に反撃されて思わぬ痛手を負ったわけでもなければ、ルリィがそんな立場に立ったわけでもない。
さっきから言ってる通り、水竜の血だ。
マシンガンを防ぎ続けたボロボロな体で、私のミョルスカイでの一撃を耐えられるわけない。
「どう?初めての致命傷なんじゃない?」
致命傷なんてそうそう負うもんじゃない、って言われた気がするけど、この世界は異世界。
魔物も魔法もある不思議な世界。致命傷なんて日常茶飯事だと思う。
「おぉ……派手な一撃だねぇ。ルリィびっくりして腰抜かしちゃいそう。」
「もっと感情のこもった声で言ってほしいな。」
「えー、よく分かんない。」
そんな惚けたようなことを言う。
「ギュギャァァァァ……」
ドクドク体からと血が溢れ出す水竜は、最後の一撃を撃とうとするような動きを見せる。
空気中にある力という力を全て吸い取り、私達は攻撃に備える。
「これが最後の攻撃っぽいから、気をつけて!」
「ソラちゃん。」
私がミョルスカイを仕舞い、ステッキを構えているとルリィが話しかける。
「止めはソラちゃんが刺して。ルリィは、この攻撃を受け止める。」
唐突に、そんなことを言ってくる。
「なんで?一緒に防げばいいんじゃ……」
「そうした場合、確実に水竜を倒す手段が無くなっちゃう。だから、ルリィがこれを受け止める。」
どいて、と私を後ろに下がらせる。
「そしたらルリィは……っ。」
「大丈夫。精霊術っていうのは、そんなに弱いものじゃないんだよ。」
おかしそうに無邪気な笑みで、安心させるように言う。
確かに、2人で受けてダメージが平等に入った場合、確実に仕留められる可能性が低くなる。
この中で1番強い私が残って、防ぐ術のあるルリィが防ぐのは、非常に合理的であって、正しいことだ。
でも、それはただ正しいだけ。
時に人間は、論理にも正論にも逆らって非合理的な行動をとる。
それは何による行動なのか。……それは、感情。
人間には本能がある。その本能は非常に効率的である。生きるための欲求を持つ。
でも私達は感情がある。時に感情に左右され、効率なんてものを取り払う。
だから私は、止める。ルリィの献身を。
「ルリィ、そんな風に身を……」
「ルリィは死なない。ルリィは、勝つよ。絶対に。」
それは、どこか聞き覚えのあるセリフだった。
このセリフは、ルリィは知らないはずで、だからこれは偶然なはず。
なのに、私は言葉を止めてしまった。
私がそうであるように、ルリィもそうなんだ。
「契約の精霊よ!ルリィに従い、全部の力を防御に!」
見たことの無い式を展開し、素早い指遣いでなぞる。
1つの円に沿うように、もう1つ円があり、幾つもの芒星が重なっている。
そこに蒼白い光が強く流れる。
「ルリィは終わらせる。この戦いを。」
言葉は出なかった。ただ、私の心は凪いでいて、氷のように冷たかった。
今こうしている間にも、街の人は笑っていることを考えると、冷たく凍り付く。
死のうとしてないことは分かる。でも、それで死ぬか死なないかが決められるわけでは無い。
今私が言えるのは、ルリィをこの世界に引き留めていられる言葉はなんだろう。
出た言葉は、これだった。
「生きて。」
———————————————————————
ただ1つ言えること、「生きて」の3文字。
次回、長くなりますのでお気をつけて。(なにを気をつけろと?)
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