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3章 魔法少女と水の都
85話 魔法少女は海辺を散策する
しおりを挟む「よし、二手に別れて散策を開始しよう。」
ベルクさんの一言によって、散策が始められた。
ペアを組んだんだけど、私はベルクさんと。そして、ディッシュはルリィとなった。
ベルクさんは刀のような形状の剣を2本持っていて、中2の男子が大好きそうな感じだ。
ま、かく言う私も憧れたわけなんだけど。
スタバでバーストストリームみたいに。あれ、言っちゃっていいやつ?これ。
大丈夫なことを信じて、ここは異世界だったことに気づいた。
ここでは、何を言っても問題無い、ってことだね。
「じゃあボクらは、右側から回ろうか。」
「あ、はい。分かりました。」
そんなことを考えてるのも束の間、ベルクさんはそそくさと歩き出す。
「魔物が多い場所に水竜あり、って感じだから、魔物は発見次第報告でよろしく。」
「分かりました。報告します。」
私は軽く返事をして、海の方を見た。
にしても、ほんとに水竜なんているの?こんな綺麗に透き通った海なのに。
「あの、質問いいですか?」
「構わないよ。」
「こんな綺麗な海に、ほんとに水竜なんているの?」
純粋な疑問を口にし、「そのことか」と目を1度閉じて説明する。
「水竜もまた、見たことは無いけど綺麗な見た目をしていてね、その鱗は人の目を欺くとか。」
事実かどうかは定かでは無いけど、と補足して話を終えた。
凄い能力だね。それが本当だとしたら、陸上戦では不可能だ。
空中歩行の魔法でも作っておこうかな。
今の残りSPを確認して、大丈夫だったので空中歩行の魔法を作った。
そこは歩けるだけじゃなくて、もっと便利な魔法作れって言われそうだけど、言わせてもらおう。
そんな量のSPは残っちゃいない!そんなの後で付け足せばいい!
散策と言っても、海の上を歩ける人なんていないから周りをぐるっと回るだけ。
「おい!待てよルリィ!」
「精霊達が騒いでるっ!きっとこっちに水竜がいるの!」
左側から回るはずのルリィ一行が、全力疾走でこっちに向かってくる。
急展開⁉︎まだ散策開始から10分くらいしか経ってないよ?
「ルリィ?ルリィは向こうからだろう。」
「だから!精霊達が知らせてくれたの、向こうに何かあるって!」
「それは本当か?」
急に険しい顔つきになったベルクさんは、私達を一ヶ所に集めた。
なんなんだろう。ちょっと展開が急すぎて、着いていけてないんだけど。
なんとか説明を求めたところ、仕方なく……って感じで教えてくれた。
いや、教えてくれないと困るから。
「———というわけだ、分かったか?」
ディッシュが雑に説明する。
えっと、一言でまとめると、精霊の言うことは100発100中らしい。
……それって、まさか。
「そうだ、今回もその可能性……というより水竜がいる。」
「水竜がいるってことは、そこに魔物もいるんだよねっ。水辺の魔物なんて久しぶりだし、みんなで腕鳴らししようよー!」
「そこにガキがいるのを忘れるな。」
むっ、ガキとはなんだー。ガキとは。
私はディッシュよりも強いと思うんだけど?
「とりあえず、行くしか無いんじゃないか?」
「行こう行こうー!」
乗り気で無いディッシュを置き去りにし、2人は先に行ってしまう。
ちょっと、ディッシュはいいとして私は置いてかないでよ。
「おい!待てよ。」
大きな足音をドンドンと響かせて、追いかける。
ちょうどその時。
「ディッシュ!魔物‼︎」
「は?」
海の底から魔物が飛び出してくる。
「うぉっ!なんだこいつ。」
いきなりの魔物にたじろぐディッシュは、一瞬で立ち直ると背中に差してた武器を投げつける。
「ちっ、避けんじゃねえ!」
よく見ると剣の柄に鎖がついていて、それを自分の元に引っ張って戻す。
「ルリィ!援護を頼む。俺は水上戦は苦手なんだ。」
「分かってるよ!っていうか、いい加減ベルクも水上戦に慣れて!全部ルリィに帰ってくるんだもん。」
みんな慌てた様子で対応を始め、魔物と対峙する。
大きさは成人男性くらいだと思う。よく見えないから、細かいところは分からない。
海から覗くギザギザの背びれと、鋭い牙が印象的だね。
「また厄介そうなのが来たよ……」
陰でポツリとこぼし、空中歩行の練習台にすることを決めた。
あとは、どのタイミングで入ればいいかってことだけだね。
「精霊よ、呼びかけに応じて!ルリィに土の加護を!」
「当たれ!」
ディッシュは武器を振り回し、一方ルリィは詠唱を始める。ルリィに茶色っぽい何かが浮かび出し、明らかに強くなっている。
魔力の波長が乱れてる?あれが精霊術……詠唱も短いし、これは重宝されそうだね。
「鋭く尖る岩よ、ルリィの呼びかけに応じて対象を貫いて!」
「ルリィ、右だ!」
「分かってるって!」
海の上では使える技も限られるのか、岩を飛ばして対抗する。
突然の奇襲ってこともあったけど、これでほんとに水竜なんて倒せるの?私の方が不安になってきたんだけど。
「ギュウ゛ゥゥ……」
「トドメだ‼︎」
ディッシュの投げた最後の一撃が、無事に当たり討伐を完了させ……なかった。
魔物は口から水を吐き出し、鋭い槍のように武器を押し返した。
「回避力と攻撃力もあんのかよ……」
機動力に乏しいディッシュは、魔物に睨みを効かせる。
よし、この辺で入ればいいよね。
「そろそろ、私の出番じゃない?」
「……ソラちゃんっ、ダメだよ!危ないからそこでじっと……って、あっ。」
「おい、死にてぇのか!俺達はお前の生き死にまで管理できねぇぞ!」
そんな怒声が聞こえてくるけど、私はそんなのどこ吹く風。無視して空をかける。
「「「は?」」」
全員同じ言葉を漏らし、夢でも見るかのように私を見つめた。
恥ずかしいから、あんまり見ないで。あと下から見ると、地味な上着と全くマッチしてないピンクのブーツも目立っちゃうから、やめて。
ちょっと急ぎ目に空を走り、魔物の頭上に来る。
「ギュゥオ゛ォォォォ」
魚にあるまじき叫びを、その大きな口から発して噛みつこうとする。
「そんな単調な攻撃に当たるほど、私も弱くは無いよ。」
ちょっとジャンプを挟み、攻撃を避ける。
「ギュゥゥゥ!」
「あんまり唸らないで。」
これは眠っていてもらおう。永遠に。
間近で聞くと、だいぶうるさい。
魔物って、みんな叫ばないとダメっていうルールでもあるの?
「短い魚生、今のうちに振り返っておいたら?」
ステッキに昨日つけたばっかの能力、黒鱗とスイングアップ、それにトールを掛け合わせたものを纏わせる。
「ギュ、ゥゥゥゥ……」
ステッキに恐れるように逃げるけど、逃すものか!この一撃をお見舞いしてやる。
「神様の元に送ってあげるよ。」
大きく振りかぶって、魔物に叩きつける。
「ギュオオォォォォォゥ!」
断末魔を最後に、魔物は生き絶えた。
「なかなかグロいことに……」
ステッキを叩きつけたところが、こう、グチャというかグニャというか。
それを収納し、まだ啞然としている3人の元にそっと帰った。
私も合わせて啞然とした方がいいかな?
啞然4兄妹みたいな?……言ってはなんだけど、全く意味が分からないね。
———————————————————————
突然に魔物が襲ってきた!焦る『精霊の祝福』を尻目に、空をかけて魔物を倒しました。
やっぱり魔法少女(?)は最強ですね。
ずっとゆるく行きすぎたので、これからは突然の事件とか増やした方がいいですかね?
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