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3章 魔法少女と水の都
84話 魔法少女は遅刻する
しおりを挟むざざぁー、と川のせせらぎで目が覚める。
「ふぁ~、んー……今日は討伐の日か。」
大きくあくびと伸びをして、私はベットから降りた。
このベット、今まで見たどのベットよりも大きい。降りるとき、ちょっと時間かかるんだよね。
窓の外をチラッと見てみると、太陽が真っ直ぐ部屋に差していた。
うーんと、今何時?
……細かいことはどうでもいいよね?
何故か、自分でも疑問形になってしまった。まずは朝食だよね。食べよう、食べに行こう。
私の部屋は居間のすぐ近くだから、扉を開けてすぐに居間に入った。
「ソラ様、おはようございます。随分と遅いお目覚めですね。」
いつもは机で、優雅に紅茶を飲んでいるはずのフィシアさんがいない。
あれ?ユウランさんだけ……みんなはどこ行ったの?
すると、直感的にある考えに行きついた。
「あの、今…何時ですか?」
「11時です。」
「はい?」
「11時です。」
またまた~冗談きついよ、ユウランさん。私はいつも、6時起きの健康生活だよ。
「本当は?」
「11時です。」
語気を強めて、努めて冷静に言い放った。
ご飯食べたら、早く行かないと間に合わないね。いや、間に合わない。
人間、もう間に合わないと分かると諦めが簡単につくものだね。
あれ、ロアは?
「ロア様は?という顔をしてますね。ロア様は、フェルネール様に道連れにされました。」
私の思考を読み始めたユウランさんが、とんでもないことを言い出す。
ロア、道連れにされちゃったか……ご愁傷様。
私は収納でしまってあったパンを取り出し、それを齧りながら外に出る。
「みんなが誕生会に行ってる間、私はパンを齧って遅刻するよ。」
ゴミみたいな独り言を残して、ギルド前まで歩く。
今日はあんまり人がいないようで、静けさがある。
パンを食べ終わった頃にギルドが見え始め、仕方ないから走っていくことにした。
そこには2人の男性(この前会った人達だ)がいて、腕を組んで待っている。
「遅刻だ。ったく、だから女は嫌いなんだ。」
あのでかい謎武器を持っていた男が、でかい態度で舌打ちを打つ。
「やめろ、ディッシュ。大体ボク達パーティーも集まりきってないだろう。」
「いつも遅れやがって。こういうときぐらいちゃんとしやがれ……」
2人で呆れたように呟き、道の方を見つめる。
「ごめんね、ボク達のパーティーは『精霊の祝福』というパーティーでね。この体も態度もでかいのは、ディッシュ。ボクはベルク。」
よろしく、と手を差し伸べてくる。
私も軽く自己紹介をし、「よろしくお願いします……」と握手を交わした。
「それにしても、なんで今回のこと了承してくれたんですか?」
「それは……」
「ふあぁ~~。ルリィ来たよー。」
すると後ろから、ゆるふわな感じな防具に身を包む私くらいの女の子が来る。
「よっろしく。ルリィはルリィ。このパーティーのリーダーだよ。」
「リーダー⁉︎」
私はその一言に驚愕する。
てっきりディッシュって人が、リーダーだと思ってたんだけど。
まさかの答えだった……
それから一旦落ち着き、私も自己紹介をした。
「ルリィは精霊術師でな、仕方なくリーダーにしたってわけだ。」
嫌そうに説明をするディッシュは、頭をボリボリかいてそう吐き捨てるように言う。
「こんな子供でも、強い者がいるのは知っている。だから君が来るのを了承した。」
そういうことね。だからこんな変な格好した私を変な目で見ないで、了承してくれたんだ。
私を変と言うことは、ルリィも変と言うことになるもんね。
「こんな子供じゃないよ!ルリィは大人だよ!」
頬を膨らませたルリィは、ぷんすかと子供のように怒る。
大人、ねぇ。
「遅刻してるんだから、早く行くぞルリィ、ディッシュ。」
「分かっている。」
「はいはーい。」
もうベルクさんがリーダーみたいになっているこのパーティーを見て、このパーティーはベルクさんがいないと成り立たないんだな、と思った。
精霊術って言ってたけど、なんだろう?小説とかでよく聞く単語だけど、実際精霊の力がどうのこうの~……くらいにしか知らない。
精霊術って強いのかな?ちょっと気になるし、見てみたい。
「精霊術って、どんな感じなの?」
「んー?精霊から力を借りて、それを精霊と一緒に発動する的な?」
気になったから聞いてみたら、そんなアバウトな説明をされた。
うん、分からないことが分かった。まぁ、戦えば分かるよね。
「水竜なんて、ボク達も初挑戦だ。気を抜いたら死ぬかもしれない。」
「分かってるよー。リーダーにそんなこと言わなくても。」
「分かってないから言ってるんだろう。」
そんな口喧嘩が始まるも、誰も止めずに自然と終わる。
「おいお前。見たところ武器も持っていないようだが、そんなんで戦えるのか?」
体も武器も態度もでかいディッシュは、訝しげに私を見つめた。
「戦えますよ、一応。」
「ならいいが。」
魔法を使えるなんて言ったらどうなるか分からないので、隠しておくことにする。
この世界の基準は分からないね。精霊術はいいのに、魔法はダメっていう。
あ、魔法じゃなくて魔術ならいいとか?
そもそも魔法と魔術の違いが分からない私は、また振り出しに戻る。
「海といっても広い。出現場所もまばらだから、着いたら1度散策に出よう。」
「りょうかーい!ルリィの出番だね。」
「どこになにが出ても、そいつを叩き潰すだけだ。」
各々思っていることを言うと、また静かに歩き出す。
一見、統率が取れていなさそうに見えるけど、実は取れてるパーティーなんじゃないかって思う。
尖ってる2人と、それをまとめる力があるベルクさん。このパーティーはベルクさんのおかげで、ちょうどいいバランスを保ててるんじゃないかな。
海に近くなってきたからか、潮風が私を突き抜け、海水の香りが鼻を刺す。
穏やかそうに見える海も、この中のどこかに水竜がいる。
水竜の強さを知らないけど、誕生会には間に合わせたい。
ハリアの誕生日だしね。
———————————————————————
ゆるふわ、夢かわな精霊術師がやってきました。一体どんな風に戦うんでしょうね。
水竜が終わって少し経てば、この章は終わりです。早いですね、びっくりです。
途中で打ち切りにならないよう、頑張ります。
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