82 / 681
3章 魔法少女と水の都
80話 魔法少女は3人を見送る
しおりを挟む朝起きて、私は昨日の夜に案内されていた洗面台で顔を洗う。
「綺麗な水で顔を洗うのは、やっぱり気持ちいね。」
フィシア様の話だと、この水は屋敷の後ろを流れる川から引いてると言っていた。
昨日、言葉遣いを緩くしていいって言ってたし、様も取ろうかな?もし、指摘されたら付ければいいし。
呼び捨ては嫌だから、(っていうか失礼だし)さんはつけることにしよう。
「それにしても……フィシアさん、ほんとにハリアさんのお母さんなのか……」
あの後、私はあって無いような脳をフル稼働させて考えてみたけど、どんなに記憶を遡っても、「お母さま」と言っていた。
驚きと驚きを胸に、私は朝食を摂るために昨日のテーブルに行く。
「おはよう、ソラちゃん。朝食?」
女性にしては低い声を響かせて、昨日より少し軽めに接してくれる。
最初は、声とも合わさって怖い印象もあったけど、フェロールさんと同じような感じで接しやすいね。
「はい、目が覚めたので。」
そう言うとフィシアさんは、隣の席に手を向けた。
隣の席に座れってことなのかな?
今思ったけどフィリオの家系って、フから始まる名前多くない?
……ほんと、今更な話だね。
「それじゃあ失礼します。」
「ええ、どうぞ。」
私が席に座ると、リデールアさんが食事を運んでくれる。
「お召し上がりください。」
「ありがとうございます、美味しそうですね。」
「昨日いただいた卵を使用しておりますので、よろしければなにか感想をお願いしたいのですが。」
料理長にお伝えしたいので、と少し体を折った状態で聞いてくる。
料理長ね。やっぱり貴族の料理って、そう言う人が作るんだ。
じゃあフィシアさんは、料理って作れるのかな?
趣味程度なら出来るのかな?部屋にキッチンもあったし。ほら、貴族の嗜み、的な?
気を取り直してご飯を食べるため、ナイフとフォークを握る。
フレンチトースト?お洒落な朝食って感じだね。知らないけど。
ナイフで切り分けて、それをフォークで刺して口に運ぶ。
……美味しい。
昔、一回作ってみたけどあんまり上手く出来なかった。美味しくなかったわけじゃないけど、ちょっと焦げちゃったり色々アレだった。
アレって何って?アレはアレだよ。
「味付けも丁度いいし、美味しいです。」
「それはよかったです。」
そう言って。もう一度頭を下げてから去っていった。
「ソラちゃん。昨日食べた、プリン。だったかしら。もう一度食べたいのだけど……」
少し恥ずかしそうにしながら、手で口元を覆って小声で伝えようとする。
この顔を見たら、怖いなんて気持ちが0を超えてマイナスになったよ。
ギャップ萌えっていうやつ?実際見てみると、何割も増して良く見えるんだね。
しかもフィシアさんの顔は、世間一般で言う美人に当てはまるものだ。
かっこいい感じだけど、中は可愛いとなると人気が出そうだ。
フェロールさんとはまた違った綺麗さっていうか、なにかがあるね。
「ありますよ。よかったらレシピも教えましょうか?卵が手に入ったとき、作ってみてください。」
「レシピは料理人にとって、とても大切なものでは……」
驚いたように目を見張って、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「別に私は料理人じゃありません。私は、美味しいって言って食べてくれる人に、いつでも食べられるようにしたいです。」
そう言いながら、ちゃっちゃとレシピを紙に書き写し、机の上に置いといた。
プリンはこの世界にはなさそうだけど、それを誰にも教えないなんてことはしたくない。
食事は人を幸せにするし、3大欲求の1つにも入っている。
だから、みんなに幸せになってほしいってのもある。
でも実際には、別に私はそんな殊勝こと思う人間じゃない。
だとしても、身の回りの、私の目の届く範囲なら助けたいと思うし、それが人情ってものだと思う。
「リデールア、これを料理長の元へ。このレシピは、一切の漏洩を禁じます。」
「かしこまりました。」
机に置いた紙切れを丁寧に取り、言われた通りに調理場に行く。
フィシアさんは非常に満足した様子で、「感謝します」と一言言って立ち上がった。
「そういえば、ネル達の姿が見えないね。」
朝起きてから、まだ3人とも見てない。
ネルは寝ていたとしても、ロアが寝てるなんてことは無い。
だって外で寝てた時も、私より早く起きてたし。
寝れないことはあっても、寝過ぎることはないと思う。
「ハリアとネルとロアちゃんは、今日は出かけると言って、部屋で準備をしていますよ。」
爽やかな笑みを頬につけながら、私に教えてくれる。
今は部屋に篭ってるってことか。そりゃ姿が見えないわけだね。
じゃあ、3人のお見送りでもしたら私も観光に行こうかな。
私は3人が出かけるまで待つことにした。
途中で暇になったから、リデールアさんを引き止めて話し相手になってもらったりしたけど、迷惑だったかな?
話の途中で「ソラ様。あの様子だと、フィシア様はあなたのことを相当気に入ってらっしゃいますよ」と言っていた。
冗談でしょ、そんなの。だってただの平民が、貴族の人に気に入られるわけないもん。うんうん。
1人でしょうもないボケを挟んでいたら、3人分の子どもの足音が聞こえる。
「お母さま、行ってまいります。」
「えぇ、気をつけて。」
「お二方の言うことは守って、気をつけて行ってきてください。」
玄関先で、ハリアにそう言葉をかける。
その一方で、ネルとロアは私の元に来て「行ってきます、ソラお姉ちゃん」「お父様には内緒ですよ」と言った。
ネル、それ関係ないよね。っていうかフィリオに言わなくて大丈夫なの?
流石に歳的には大丈夫だとは思うけど、身分とかそう言う面でとか。
まぁ、バレなきゃ犯罪じゃないという言葉もあるくらいだし、いいと願う。
一応、魔力感知に引っかかるようにしておこう。
「行ってらっしゃい、2人とも。」
私は笑顔を作って、2人をお見送りした。
そうすると、笑顔で「はい」と返してくれて、元気よく外に出た。
若いってのは、いいね。
そう、何度目か分からないボケを言いそうになった。
———————————————————————
次こそソラの観光……にはなりません。
今度はロア達のお出かけの話です。
少し短くなりそうな雰囲気が自分の中であるので、頑張ろうと思います。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる