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3章 魔法少女と水の都
79話 魔法少女はお屋敷に泊まる
しおりを挟む私は今、門の前から移動して屋敷の中にいる。
部屋は白や水色といった、水の色を基調としていて、ネルの屋敷とはまた一味違っていい感じ。
通された部屋は、リビング?的なくつろぐスペースになっており、ソファや机、だいぶ奥にキッチンがある。
「本日はお忙しいところ、誠に感謝申し上げます。」
「こちらこそ、遅れて申し訳ありません。」
ユウランさんは、さっき門の前で話していた人にそう謝罪の言葉をかける。
リデールアさん、だっけ?確か、ユウランさんが電話口……じゃなかった。じゃあ何口なんだろう。
核石口?でいいや。核石口で話してた。
「それと、今日は皆様ぜひ泊まっていってください。部屋は、空き部屋を使っていいですよ。」
リデールアさんは、私達の方を見てそう言う。
「い、いいんですか?泊めてもらって。」
「私達、その、庶民ですし。」
ネルの家に行ったことがあると言っても、流石に泊まるなんてのは私としてもキツイ。(心の方が)
「ネル様のお友達ですから。」
その一言で、全てが片付けられてしまった。
そこで断ったら、言外に「私達はネルの友達じゃない」って言ってるようなものだから、断ることが出来なかった。
「では、私は退出しましょう。」
ゆっくりお話しして行ってください、とだけ言って、部屋から退出した。
「では、私も。ネル様、粗相の無いように。」
ユウランさんも、同じように退出する。
それから、ネルとハリアは適当に話をして盛り上がり、次は私に話が振られた。
「それで、ソラお姉さまは他にどんな魔物と?」
ハリアは質問攻めをしてくる。
そんな一気に話されても、答えられるものも答えられないよ。
目を輝かせるハリアの手を退けて、はははー、と薄く笑っておいた。
そろそろ日も沈みかけていて、もう観光はできないな……と私は少し落ち込んでいた時、部屋のドアが開く音がした。
「ハリア、ただいま。」
若い女性が入ってきて、ハリアに一言かける。
その女性は手慣れた手つきで紅茶を淹れ、私たちの元に来て飲み始める。
「ネル、久しぶりね。フィリオ様はどこへ?」
「お久しぶりです。お父様はお仕事が忙しく、また後日お伺い致します。お爺様の誕生日までには来ますから、大丈夫ですよ。」
礼儀正しく振る舞い、いつものネルとは全然違った雰囲気がある。
やっぱり、腐っても貴族だね。いや、別に腐ってはないよ?
1人で謎の訂正をしているうちに、話題は私達にズレる。
「2人は私の友達です。左から順に……」
「ろっ、ロアです!」
「空です。」
「ロアとソラね。わたくしはフィシアと申します。もうじき夕食ですから、食べていってください。」
さすが貴族といったところか、他人との接し方が分かっている……
輝かしい笑顔を見た私は、心の中でそう感じた。
言われた通りにフィシア様についていき、食事の席に座ることになった。
私のメンタルは、そこまで弱くない。なんとか耐え切った。でも、ロアはダメだった。
少し顔色を悪くして、ゆっくりナイフを動かしていた。
ご飯自体は今まで食べたことないほど美味しく、貴族クオリティに圧巻させられた。
ちょっと、シェフを呼んできて。
……何言ってるんだろうね、私。
そんなことはどうでもいいとして、こんなご飯をご馳走になったからには、何かお返しをしようと思いたった私は今、キッチンを借りているわけですよ。
「とは言っても、何作ろう。」
小説や漫画では、こういう時どんな料理作ってたかな?
思い出せ~、軽くて簡単に作れるもの。出てこい~。……デザート系でいこうかな?
「デザートって、結構めんどくさいんだよね。」
後片付けとか、工程のことを考えると辞めたくなってきた私は、ボウルをくるくる回転させていた。
うーむ、なら私の作りたいものを考えよう。
……それなら、プリンかな?前も言ってた気がするし。
お?いいんじゃない?プリンならそこまで難しくないし、普通に美味しいし。
プリンアラモードとか作っちゃう?よし作ろう。
SORA'Sキッチンにようこそ。
某料理番組のパロから始まる料理って、なに?
そんなことを思った私は、ボウルに材料を入れる。
「プッリン~プッリン~。」
私は泡立て器もどきで卵と砂糖をかき混ぜる。
この世界にはあんまり卵が無いから(保存が出来ないから)プリンは希少料理になりそうだね。
プリンが希少料理……お手軽な、プリンが……
なんか急に笑えてきて、混ぜながら笑いを堪えるという非常に大変な時間を過ごした。
「えっと、確かここにミルクを。」
ミルクは比較的安いので、買ったものだ。
お店に私が渡してる食材は、ほとんど魔法で作ったものだけど、買ったやつも混じってる。
理由は単にめんどくさい。
お客様のことを思って、一つ一つ丁寧に作らなきゃだし、地味に魔力持ってかれる。
1ヶ月分だと、私の全魔力と半分くらい。
だから、普通に買えるものは買ってる。
っと、そんな話をしている間に全部混ぜ終わった。
「あとはフライパンに熱湯入れて、蒸し焼きにしたら完成。」
貴族サイズのフライパンに5個容器を入れ、蒸し焼きにする。
ちなみに、それをもうワンセットやってる。
自分でも、「さすがに作り過ぎたかな?」って思ったもん。
この工程はカットで。
そして固まったそのプリンを、次はキンキンに冷やさせてもらいます。
普通に冷蔵庫に入れてもいいけど、今回はSORA'Sキッチン。私の料理は一味違う。
アイスショットとウォーターを掛け合わせ、即席私専用冷蔵庫の完成。(私の魔力生のため、温度は超低温)
アイスショットは遠距離の敵の目とかに刺して、動きを止める魔法だし、ウォーターは飲み水を作る魔法。
それがこんな風に役に立つなんて、さすが魔法少女。格が違うね。
そして、冷やし終わったプリンをちゃんとした器に移し、フルーツを乗っけたら完成!
「10個、作り過ぎだね。」
机の上に乗った大量のプリンを見て、私はため息をこぼす。
「ソラお姉ちゃん、それなんですか?」
私がジトっとそのプリンの山を見ていると、ロアが指を差して聞いてきた。
「プリンだよ、プリン。お礼にと思って作ったけど、作り過ぎちゃって。」
「そうなんですね……」
ステッキにプリンを収納し、(器は後でちゃんと返すよ)フィシア様とハリアを呼ぶ。
2人とも寝巻きに着替えていた。
「今日は泊めていただかせてもらう上に、料理までご馳走してくださり、ありがとうございました。」
私は出来るだけ礼儀正しくなるよう、細心の注意を払って頭を下げる。
「ソラちゃん、堅苦しい言葉遣いでなくいいのよ。」
フィシア様はそう言ってくれたので、私は少し言葉遣いを緩めることにする。
「お礼として、プリンという食べ物を作りました。」
どうぞ、とステッキから5つ出して、その場にいた私を含めネル、ロア、フィシア様、ハリアに渡す。
フィシア様とハリアはスプーンでプリンを掬い、匂いを嗅いで食べる。
「「……っ‼︎」」
さすが姉弟、反応がとんでもなく似ている2人は、とても面白かった。
「……美味しいですっ、お母さま‼︎」
「そうね、甘くて食感もいいわ。作り方は…リデールア、分かるかしら?」
うんうん。好評、好評?……お母様⁉︎
えっ、姉弟じゃないの?
なんか今日、疲れてるのかな?
私の耳は、腐ってる。そういうことにしておこう。
———————————————————————
今回、やりたいことが多くて無理矢理詰め込んだせいで、大変なことになりました。すいません。
あの後の説明を簡単にすると、好評をもらったソラは、それを見た後自分達も食べる。ロアもネルも喜んでくれて、自分の耳の頭を休めるためにすぐに寝た。
こんな感じです。
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