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3章 魔法少女と水の都

78話  魔法少女は挨拶に行く

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 私達はそれぞれ馬車を止め、そしてそれぞれの方向に歩き出す。

 クレアスさん達は依頼達成の報告に行くそうで、まだ暗い顔をしているリアナさんの手を引っ張って、「また今度」と言って歩いて行った。

「はい、またどこかで会いましょう。」
ネルは頭を深々と下げて3人を見送る。

「それでは、ご挨拶に行きましょう。」

「はい。」
さっき言ってた挨拶に行くため、御者さんに着いていく。

 これもう御者さんじゃなくて、お手伝いさんじゃん。メイドさんじゃん。

「従兄弟って言ってたけど、どんな人なの?」

 そういえば、ネルは従兄弟だけしか言われてなかったよね。
 名前とかなんていうんだろう。

「ちっちゃくて可愛い男の子ですよ。名前はハリアですよ。」
腕を広げて、このくらいなんですよ、と大きさを示そうとする。

 そんなに小さくないよね。それって、釣った魚とかの大きさ表す時のやつだよね。

「他に、何かありますか?」

「他にですか……かっこつけたがりな子なんですけど、実は臆病だったりしますよ。」

「ネル様、前を向いて歩いてください。」
御者さんに怒られてしまって、仕方なくといった風に前を向く。

 ハリア君、苗字……っていうか家名?は何だろう。
……確かフィリオの兄弟の子供だったから。
 それ、普通にネルと同じ家名じゃん。

 ちょっと待って、ネルの家名なんだっけ?

 脳内のフィリオが、「人の名前を忘れるな」と少し怒っているので、早めに思い出そうと1人うんうん唸る。

 えっと、ブルーレット…では無い。それはトイレに置くやつ。それじゃあ、ブレスレット……は、腕輪。

 あれ?なんだっけ。良いとこはついてると思うけど、よし、まずはレットから離れよう。

 ……あっ、思い出した。ブリスレイだ。

 ようやく思い出すことが出来て一安心し、深めのため息のようなものを知らないうちに吐いており、ロアに「どうしたんですか?」と心配されてしまった。

「何でも無いよ。ちょっと考え事を。」

「なら良かったです。」
歩いてる間は暇だから、ロアに話題を振って楽しく喋ってると、羨ましそうな顔をしたネルが私とロアを見てくる。

「前向きながら喋ればいいんじゃない?」
なんか怖くなってきたので、1つ案を出してみた。

「ソラさん……」

 その間、なに。即答までとはいかなくても、もう少し早く、ね。

 数秒間見つめ合った末に、ようやく口を開い……

「天才ですか‼︎」
言葉の勢いがとんでもなく強く、後ろに飛ばされそうなほどだった。

 説明終わってなかったんだけど。

 あと、その勢いは、後にとっておこう。
いつ使うかって?そんなの知らないよ。自分で見つけて。

「それだったらいいですよね、ユウラン。」
「はぁ、仕方ありませんね。許可します。」
にっこりと微笑むネルの顔を見て、諦めたようにため息を吐いた。

 御者さんの名前、ユウランっていうんだ。初耳。

 3人で和気藹々と喋りながら思ったことだけど、なんで歩きなんだろうね。
 領主の娘、貴族だよ。歩かせて良いの?

 まぁ、気になったわけですから聞いてみたんですよ。

 すると、ユウランさんがこう答えた。

「ネル様はフィリオ様から、街の風景をよくみてこいと仰られておりますので、歩きの方がより人やお店、街の印象が分かりますから。」
と返された。

 街の風景を見てこい、か。
確かにそうだね。次の領主は必然的にネルになる。

 結婚とかすれば、ネルじゃなくてもその夫になる可能性っていうか、そうなると思う。

 だから今のうちに他の街のことを、見て聞いて知らなきゃいけない。
 この認識で合ってるよね?

「着きましたよ、ネル様。少し遅れ気味なので、お早めに。」

「あれ、もうでしたか?」
お喋りに夢中になり過ぎてて、時間を気にしていなかったみたいで驚いていた。

 そういうことで着いたのは、大きな川をバックに建てられている、ネルの家とまではいかないけどそれくらいの大きさの屋敷があった。

「……大きい、ですね。」

 ネルと知り合いだからといって、他の貴族にも慣れてなければ、屋敷になんて言ったこと無いと思う。

 そのためか、小さく震えている。
まぁ私も、ネル達以外の貴族と会うのは初めてだから、武者震いをしてる。

 フィリオ一家は全員優しくて、接しやすかった。
でも、他はそうとは限らない。

「そ、ソラお姉ちゃん。ふ、震えていますよ?」

「ロ、ロアも震えてるよ?落ち着こう。ほら。」
そんな、よく分からない問答をしている間に、門の前に埋められている核石にユウランが触れる。

 この核石は、門番がいない時のためのもので、触れると家に埋めたもう一つの核石と繋がって、声や映像を映すものだ。

 インターホンみたいなものだね。
これも映像の方は、オンオフが切り分けられるそう。

 数秒立った後、声が聞こえる。

『どちら様でしょうか?』
少し低めの女性の声がこえてきた。

「ユウランです。お久しぶりですね、リデールア。ネル様と、お友達の皆様をお連れしました。」
ユウランさんがその言葉に答え、要件を短く伝える。

『えぇ、久しぶり。今出迎えますので、少々お待ちを。』
言葉が途絶え、核石から手を離す。

 これだけ広い屋敷だからか、玄関から門までの道が長い。
 暇になったこの時間に、川の方を一目見た。

「それにしても、綺麗な川……」

「魚もくっきり見えますよ。」
「水の都ですからね、綺麗なのは当然です。」
むふん、と鼻を鳴らしながら得意げな顔をする。

 なんでネルが、そんな顔するんだろうね。別にネルが作ったわけじゃないのに。

 そんな可愛いネルのおでこを、柔らかくデコピンして前を向かせる。
 おでこを抑えたネルが、不満げな表情で素直に前を向く。

 素直でよろしい。

「ネルお姉さま~‼︎」
こうやってふざけている間に、遠くの方から男の子の声が近づいてきていた。

「ネルお姉さま、遅れてしまい申し訳ありませんでした。」
小さい体をペッコリ折る。

「それと、みなさま。ぼくの名前はハリアといいます。よろしくおねがいします!」

———————————————————————

 貴族の家の前で武者震いをする2人、出てきたのは男の子。

 観光まではまだ先です。



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