78 / 681
3章 魔法少女と水の都
77話 魔法少女はティランに着く
しおりを挟む「ロアっ、大丈夫⁉︎」
私は今度こそ、完全に安心なことを確認してからロアの元に駆け寄った。
「ごめん、ロア。私のせいで……怖くなかった?」
「大丈夫ですよ、ソラお姉ちゃん。ソラお姉ちゃんのお陰で、無事に済んみました。」
ほら、と私を安心させようと笑って体を見せてくれる。
でも、まだ顔が強張ってる。
やっぱり、怖かったんだと思う。私だって10歳やそこらで、強盗に刃物を突き立てられたら怖い。
あの時の私に、怖いと言う感情があるのかどうか分からないけど。多分怖いんだと考えることにした。
「……なら、良かった。」
安心させようとしてるのに、やっぱり怖かったでしょ、なんて言うのはダメだと思う。
だから、ロアのためにもその一言をかけた。
「みんな無事なんです。いいじゃないですか。」
ニコッと私に微笑み、大人な対応をとる。
この中で、1番の大人はロアなんじゃないかな?
「もう夜遅いし、戻って寝ようよ。」
私は振り返って、みんなにそう言った。
私も眠い。明日にはティランにはつけると思うし、早く休みたいからね。
「そうね、そうしましょう。」
リアナさんは私の案に賛成して、馬車の元に帰っていく。
その瞳はなんだか潤んでて、悔しそうにも見えた。
————————————
「クレアス!エヌ!ソラが、ソラが1人で盗賊討伐に行ったの!」
あたしは出せる限りの声を出して、みんなにソラのことを告げる。
「なんだって⁉︎」
クレアスは驚き、目を見開く。
「あなたたちも一緒に来て!」
「ちょっと待って。」
「なに⁉︎」
今更止めに入るエヌに、怒りを覚えながら怒気を込めて聞き返す。
ソラには、彼女には、絶対に経験はしてほしく無い。あたしがしてしまった過ちを、冒させないためにも。
「馬車を置いていくつもり?馬車の見張りは必要よ。せめて、わたしは残る。」
そうだった、あたしは別に1人な訳じゃなかった。あたしにも、守るべき人がいた。物があった。
「分かったわ、エヌは残ってて。」
そう言ってあたしは、クレアスとロアという子を連れて今も戦うソラの元に駆けつける。
でも、それは失敗だった。
あたしは思った、ソラの戦う姿を見て。
完全に心得てる。人を殺さない方法、殺さずに済む攻撃、それでいて手加減が無い。
あたしの未熟さとソラを、いつの間にか重ねていた。
でも、それは違った。あたしの勘違いで、あたしの間違い。先輩ヅラをして、先輩ヅラをしたくてこんなことをしてしまったんだと、今更遅いが気がついた。
そのせいで、余計な犠牲者が出そうになった。
ソラはあの時のクレアスの真似をするように、光の核石を投げたお陰で、犠牲が出ることは無かったけど、だけど……
あたしはまた、許されない罪を犯した。
あたしの傲慢さが招いた結果がこれだ。
笑って。こんな惨めなあたしを。いや、笑われすら、あたしはされない。
もどかしい気持ちが、あたしの心をぐるぐる回る。
「もう夜遅いし、戻って寝ようよ。」
何を話していたかは聞こえなかったけど、ソラは振り返ってあたしたちに言った。
「そうね、そうしましょう。」
そう一言だけ呟き、馬車に戻る。
あたしは、このまま冒険者をしていていいの?
————————————
は~い、おはようございまーす。
今日の天気は快晴!昨日、あんなことがあったなんて思いもよらぬほどの、綺麗でさっぱりした朝です。
……じゃないよ。
結局あの後、私はあんまり寝れなかった。
あの、リアナさんの顔が頭に張り付いて取れなかったから。
別にリアナさんの所為じゃない。
私を心配してやってくれたことだし。私だって何も言わなかったから。
朝起きると、みんないつも通り接してくれる。
ネルにはそれとなく伝え、なんとなく察したように「すいません、起こしてくれてもよかったのですよ?」と少し困惑気味に言った。
そりゃそうだ。いきなり「盗賊討伐に行った」なんて言われても、私だって困る。
それから私は朝ごはんを軽く作り、皿に盛る。
ロアとネルが手伝ってくれたので、用意はすぐに終わった。
2人とも、自分から手伝ってくれるなんていい子だね。いい子なのは元から知ってたけど。
クレアスさんとエヌさんも起きてきて、顔を洗ってからパンを齧る。
それから間も無くして、リアナさんも目を擦ってやってくる。
何か重い雰囲気を纏いながら、歩いてるね。
私も少なからずモヤモヤは残ってるけど、もう吹っ切った。
あとは、リアナさんの気持ち次第だ。
「今日の昼頃には、ティランに着きそうです。皆さんはお好きに行動してもらって構いません。ネル様は、ご挨拶に行きますよ。」
御者さんが朝食を食べ始めた私達にそう告げ、最後にネルを一目見た。
「言われなくても、分かっていますよ。」
食べ終わったネルは、不満げな顔で呟く。
御者さんは、ネルのお手伝いさん役でもあるんだね。
それに選ばれるってことは、よっぽど信用されてるってことなのかな?
「…………」
やっぱりリアナさんは、なんとも言えない表情でボーッとしていて、すぐに馬車に戻っていった。
その日はとても静かで、リアナさんの存在がいかに大きかったのかを理解した。
クレアスさん達も気まずそうに苦笑し、話題を振ろうと試みた。
人一倍明るかったリアナさんが静かになると、私達まで暗い気持ちになる。
退屈な時間も、時間なんだから過ぎていって、馬車の窓をふと覗くとそこには……
「おぉぉ……」
大きな街壁を見て、思わず口からこぼれた。
イタリアの水の都とは、ちょっと違うけどこれはこれでいいね。異世界感満載。
「皆さん、もうそろそろ着きますから準備を。」
御者さんが、少し大きな声を出した。
ようやく着いたー、水の都。
この3日で色々あったし、(今現在も)時間の感覚も狂ってきたよ。ほんとに。
———————————————————————
色々ありましたが、なんとかティランに着きました。
次はティランを楽しむ…訳ではなく、リアナの件を解決します。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる