魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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3章 魔法少女と水の都

75話  魔法少女は盗賊の元に行く

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「———でさぁー、クレアスってばこんな見た目なのにねぇ……」

「ちょ、黙ってリアナ‼︎」
同じ馬車の中、甲高い声を響かせてリアナさんの口を両手で塞ぐ。

「リアナ、クレアスが嫌がってるでしょ。」
「ふぇー、ふぇふーほははー!」

 ……何言ってるか全く分からない。手で塞がれてるせいで、モゴモゴ何か音が聞こえるだけで全く分からないね。

 クレアスパーティーが来たおかげ?で、馬車が賑やかになった。

 どんな依頼をしたのか、それで何があったのか、失敗したこと、成功したこと。色々昔の話を話してくれた。主にリアナさんが。

 そんなこともあってか、その日は凄いスピードで時が進んでいった。


 と、いうことで。始まりますよ、盗賊討伐。

 夕ご飯はパパッと作って、みんなが食べている間に「用事があって」って抜け出してきた。

 なんか訝しげな感じで、リアナが「どこに?」って言われてしまったけど「ちょ、ちょっと向こうに」と、適当に答えた。

 バレて、無いよね?

 私は魔力感知に従って、盗賊にバレないように進む。

「あれ、そもそもあの反応は盗賊なの?」
当然と言えば当然の疑問を口にし、そして、あの反応イコール盗賊という考えが、私の予想だったことに気づいた。

 えぇーーい!もういいや。
来ちゃったものは仕方ない。可能性がゼロなんてことは何があっても無い。
 不安の芽を摘んでおいて、損はない。

「うんうん、私は間違ってないね。」
変な確認を1人取り、こっそりこっそりと足音を忍ばして草木をかき分けた。
草の匂いが鼻を刺し、それが盗賊が騒ぐ音や酒の匂いにかき消される。

「今回もうまく行きそうだなぁ。」

「ははッ、奴らオレ達がいることなんて知らねぇで。」

「今回は領主の娘だったかぁ?儲けられそうだなあー!」
「違いねぇ。」

「「ハッハッハッハ!」」

 …うるさい。あれ、盗賊?なんか色々言ってるけど、盗賊だよね。

 この盗賊達、バカじゃない?
なんで盗みを働こうってのにこんな大声で叫んでるの?

 私は馬鹿だな、この人達。という、哀れみの目とはちょっと違うけど、同情の念を込めた目を向けた。

「へー、あんなのがついてたってわけね。」

「そうそう、いつから着いてきてたんだろうね。……って、なんでリアナさん!?」
私は声を極力抑え、そんな小さな叫びが漏れ出た。

 危ない危ない、盗賊に声が聞こえるところだった。ってそうじゃない!

「なんでリアナさんがここに?」

「なんでってそれは、あなたを追いかけてきたに決まってるでしょう?」
至極真っ当なことを言ってるという風に、首を傾げられる。

 そう言うマジなのはやめてよ。せめて何か悪びれるとか、なんかあるでしょ、ほら。

「あなたこそ、なんで黙ってたの?」
「いや、みんなを巻き込みたくないし。」

「出たわ。みんなそう言うのよ。」
何か呆れたような目線を私に向けて、やれやれと小声で呟かれる。

 なに?なんで私は呆れられてるの?ちょっと、なんで私はこんなにも理不尽な目に遭わされてるの?

「じゃあ、ロアだったかしら、あの子が1人で何か抱えて1人で解決しようとしてたら怒る?」
例えを出して、そう聞く。

 あっ、出た。これはそのパターンだ。「あの子だったら、あなたもそうするでしょ?」的な感じに諭されるやつだ。

 だけど私は屈しないよ、魔法少女にビビる女の子に負けるほど、私は落ちぶれてない。

「怒りはしないよ。ただ言ってほしいとは思う、1人で悩むくらいなら、誰かに言ったほうが楽だと思うし。」

「そうでしょう?あたしたちもそうなの。勝手に1人で思い悩まなくても……」
「別に思い悩んでないよ。」

「えっ?」
さっきまでの迫力はどこにいったのだろうか?変な声を出して、咄嗟に閉じる奇行をする。

 盗賊は、酒のおかげで聞こえてないみたい。
酔いは凄いね。酒は飲んでも飲まれるな。これを教訓にしよう。

 まぁ、しないけど。

 ここからは私のターン、ドロー。手札に入れ、エネルギーを3つ使って場に召喚。

 ……これは一体どこのカードゲームなんだろうね。

「確かに、言わなかったのは悪いと思うよ。でも、……これを言ったらおしまいだと思うけど、私1人の方がいいと思ったから、そうした。」

「で、でも。」
口をを挟もうとするリアナさんの声を遮り、私は口を動かし続ける。

「よく言ったら、守るべき人。悪く言ったら、足枷。守る人が多ければ、それだけ全力は出せない。誰かと行くより、1人の方がいい。」

「だからって、1人犠牲になんて‼︎」
「そんなこと、誰が言ったの?」

 そう、私は足手まといだと遠回しに伝えただけで、そして1人で行った方がいいと言っただけで、別に犠牲になるつもりも死ぬつもりもない。

「私は、勝つよ。絶対に。」
私は草むらにリアナを置いて、盗賊のいるところへと足を踏み出す。

「そんなの、……クレアスを呼んでくる…」
そう力無く言って、リアナさんはこの場を立ち去る。

「さて、私は私の仕事を済ませよう。このバカな盗賊達に、天罰を与えよう。」

 かっこよく決めたつもりだけど、側から見たらちょっとダサい言葉になってしまった。
 でも、やることは変わらない。

 私は一直線に盗賊の元まで歩く。

————————————

 あたしは元来た道に沿って、全力で走り抜ける。

 いつも両手に剣を持ち、四方八方に動き回ってたおかげで、早く走れた。

 早く、早くこのことを伝えないと……

 ソラが、1人で盗賊討伐に行ったことを。

 無理に決まってる、あたしだって無理だった。
初めて対人戦をしたのは、2年前。

 あの頃は戦績も良く、調子に乗って依頼を受けてしまった。
 それが運の尽きだった。

 魔物は倒せても、人は殺せなかった。
あたしはもちろん、クレアスも、エヌも。

 みんなが手を抜くしか無く、荷物も、商人達はやられていく。あたしはなんとか依頼主だけは死守しようと剣を振るい、必死のあまり盗賊を殺してしまった。

 覚えてる。今でも鮮明に。
剣を振るった音、服を切り裂き、皮膚を抜いて肉を切る音、血の吹き出る音、そして、盗賊の断末魔。

 地獄だった。どんなに悪かろうが、人を殺してしまった罪悪感は消えることは無い。

 クレアスは言った、「リアナのせいじゃない」
 エヌは言った、「間違ったことはしていない」
嬉しくなかったわけじゃない、嬉しくないわけがない。

 でも、どの言葉も私の中では響かず心の中に収められた。

 だから、誰かにこんな経験をしてもらいたくない。
 あたしたちはいい、もう慣れた。慣れてしまった。

 でも、あたしより年下の女の子に、そんな危険を冒させたくない。
 確かに、あたしたちは彼女に守られた。でも、実力だけじゃなけて、経験がものを言うこともある。

 何が何でも、止めないと。

———————————————————————
リアナとソラ、2人の思いはどこに届く———
 

 ソラは盗賊を倒しにいくそうです。リアナはなんとしてでも止めたい様子。


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