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3章 魔法少女と水の都
69話 魔法少女と御伽噺
しおりを挟む私は宿屋のキッチンを借り4人分の弁当を、ルンルンで作る。
新婚ホヤホヤの奥さんは、夫にお弁当を作る時こんな気分なんだね。これがそうかは結婚したことなんて、もちろんないから知らない。
こんなところ話したって、何の面白味もないから早く待ち合わせの門の前に行くことにする。
「5分前行動、5分前行動。」
この世界にそんな考えがあるかは分からないけどね。
まぁ、遅れるよりだいぶマシだよね。
「何言ってるの?ソラ。」
「なんでも。」
弁当の蓋を閉じて、私はステッキに収納した。
そういうわけで、私は門までやってきた。そう、ネルの家の門の前で。
ロアとサキはもう来てて、(途中で会って一緒に来た)ロアは自分が今、領主の家の前に立ってるという事実に震えていて、サキはその家の大きさに驚いてはしゃいでいる。
「サキっ、領主様の家の前で騒がないで。」
「はーい、お姉ちゃん。」
しょぼーんと肩を落として門の壁を背に、ゆっくり腰を下ろした。
「それにしても遅いね、ネル。」
もしかして寝坊したのかな?めっちゃ楽しみにしてたから、楽しみで眠れなかったとか。
「ネル様、どうしたんでしょう?」
ロアも少し心配そうに門の外を覗き込み始めた。
……メイドさんとか起こしてくれないのかな?
「すいませーん!遅れてしまいました。」
「お嬢様!危ないですから走らないでください‼︎」
ネルが大声で謝ってきて、それにメイドさんが更に大声で注意をする。
なんか、すごい状況だね。
「あっ……」
「お嬢様‼︎」
ネルは案の定小石にこけ、ド派手に宙に舞った。
ちょっ、そんな格好で走ったらそりゃこけるよ。
今こそ、封印していた神速を解放する時。流石にこの緊急事態に出し惜しみはしてらんない。
私は思いっきり地面を蹴り上げて、ビュンッという風の音と共にネルを受け止めた。
「宙に舞ったおかげで助かったね。」
「ソ、ソラさん。ありがとう、ございます。」
ネルはふー、と息を吐いて微笑んだ。
ロアとメイドさんは、ネル以上に大きな息を吐いて、胸を撫で下ろしていた。
「お嬢様、本当に、お気をつけて。」
本当に、をとてつもなく強調してメイドさんはネルに言う。
「分かっています。今はその、少し取り乱しただけです。」
「……それならいいです。」
全然良さそうじゃないけど。それか、今だけは我が儘に付き合うってことなのかな?
まぁ領主の娘だし、全然外で遊ぶこともできなかっただろうからね。
優しいメイドさんを持ってくれて、わたしゃ嬉しい限りだよ。
そんな誰目線かも分からないお婆ちゃん風に、私は心で呟いた。
「じゃあそろそろ出発するから、着いてきてね。」今の一件で少し時間食ったから、ちょっと急いで行こう。
あと許可もらえたんだね。
まぁ、フィリオじゃなかったからかな?
フィリオは可哀想なことに、誰かさんのせいでずっと道作りに勤しんでるからね。
その誰かさん、出てきなさい。あっ、私か。
門に着くまでの間もみんなでワイワイはしゃいでおり、門を出るともっとワイワイする。
シングルマザーとはこういう気分なんだね。
シングルではあるけど、マザーではないから分からないけど。
「ちょっと、サキー。先に走っていかないの。」
「ネルっ、そっちの方向違う!」
「ロア⁉︎大丈夫」
こんな感じで大変だったよ、うん。とっても。
どんな状況だよって?こんな状況だよ。そこは頑張って察して。
今回のことで分かったけど、ネルの性格は普段は正しく貴族らしい振る舞いをする子だけど、見たことない物や知らないことがあるとはしゃぐタイプだ。
私と一緒だね。私も探究心が高い。
ゲームとかでも人の性格は出るんだよ。
私が歩く攻略本と言われる所以は、細かなところまで何かないかチェックする細かさ、そしてスピードがあるからだ。
「下手な攻略本より攻略本してるよ」と友達にも言われた。
攻略本より攻略本してるって、日本語どうなってるの?
「あっ、私この山知っています。」
登り途中でネルが、突然そんなことを言い出す。
「ん?なんかあるの、この山?」
割と安全な山を選んだはずだけど……何かあるなら引き返したほうがいいかな?
「いえ、違います。この山の御伽噺があるんです。」
「どんなお話ー?聞かせて聞かせて、ネルお姉ちゃん!」
サキはキャッキャと騒ぎながら、ネルをお姉ちゃん呼びする。
お姉ちゃんと呼ばれたネルは少し嬉しそうに、「分かりました、お聞かせします」と御伽噺を語り始めた。
「タイトルは、『幸福と不幸の鳥』」
————————————
ある山に、伝説と呼ばれる緋色の鳥がいた。
1枚1枚の羽が、まるで全てが別物のような輝きをみせ、その羽を見る者を魅了させた。
ある収集家が、その羽を是非欲しいと山に登る。
だが山には多くの魔物がおり、対処ができなかった彼だったがボロボロになりながらも頂上に着く。
そこには1人の泣く子供がいた。
少年とも、少女ともとれるその姿に少したじろいだ彼だが意を決し、その子供の元へと近づく。
その子供は身体中怪我を負い、右足は歩けないほどに傷が見えた。
彼は自分用の医療セットをその子供に使ってやり、簡易的にだが治療を施した。
その子供はお礼を言い、山の麓に戻っていく。
さてどうしたものか、彼は怪我をし、かろうじて立てる状態だ。
治療しようにも治療はできず、夕刻が近づく。
死を覚悟した彼は、誰も来ないと分かっているが、最後に遺言を残す。
『収集はどこかに売り払い、金にしろ。その金を救われない子供達に与えなさい』
初めはこのようなことを書くとは考えていなかったが、最期に子供を助けたことを思い出し、ふと気づいたら書いていた。
紙を石で固定し、眩しい夕日をこの目に焼き付けていると、どこからかピカリと何かが光る。
その途端、どんな高価な楽器より、何倍も美しい音色を持つ鳴き声が、どんなものに喩えても劣ってしまうほどに圧倒的な美しさが聴こえ、彼の耳を包む。
空には1羽の鳥。
緋色の鳥が、飛んでいた。
ヒラヒラと何かが舞い降り、もしかしてと感じ彼は更に上空を見上げた。
神の如く輝く羽が、彼の頭上を舞っており服に落ちた。
その羽の光に当てられた彼の体は、みるみるうちに回復し、元通りになってしまった。
その羽は、日が経つごとに色が変わり、毎日違う光を、いつまでもいつまでも、飽きさせない美しさを見せてくれた。
そんな夢物語を体験した彼は、今になってこう言う。
『幸と不幸は紙一重。幸ある場所には不幸もある。だが人々は幸を求め、不幸を阻む。でも、どうだろう。幸だけの人生よりも不幸のある人生の方がより楽しいのではないのか。あの鳥は、その輝きを持って教えてくれた。』
————————————
「そこでこのお話は切れていて、ありません。ここから先があるのか、それとも無いのかどうかは、もう誰にも分かりません。」
そう言ってネルは、御伽噺を語るのをやめた。
「すごい鳥さん!そんな鳥さんがいるの?」
サキは目をキラキラと輝かせて、ネルに迫っていく。
「御伽噺だから、いるかどうかは分かりません。」
「サキ、ネル様に失礼だからだめだよ。」
「はーい。」
サキはロアの注意を素直に聞いて、鳥さん鳥さん、と言っていた。
「幸せを求めるあまり、余計に幸せを遠ざけてしまった……とその男性は言いたかったんでしょうか?」
色々考えてるなあ、ロア。私なんて『いい人に羽をあげたんだな~』くらいにしか思わなかった。それか、報われたね。とか。
でも、ちゃんと考えてみると深い話、なのかな?人によって考え方が変わりそうだ。
今、私がロアの考えも交えて考えたことがある。
その鳥は、本当の幸せを持つ人に羽を渡したんだと思う。
収集家の男性も、『幸だけの人生よりも不幸のある人生の方がより楽しいのではないのか。』言っていたしね。
———————————————————————
幸福と不幸。本当の幸とは、なんなのだろうか。
今回なんか長めです。
この『幸福と不幸の鳥』には、結構いろんな考え方があるので、題名とも照らし合わせて考えてみてください。
黄色はものによっては『幸せ』を感じ取れる色です。そういう事です。本当はもっと凝りたかったんですけどね…許してください。
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