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3章 魔法少女と水の都
67話 魔法少女はネルと会う
しおりを挟む「私、今何しに冒険者ギルドに行ったんだろう。」
気づかれなかったことに一息吐き、そんな悲しい自問をした。
「うん、依頼を受けてきたのに、報告してお金貰っただけだ。」
その自問に、自答した。
これが自問自答っていうやつだね。それをしてしまったのは、今日が初めてだ。
はぁ、まぁ出ていっちゃったものは仕方ないよね。最近お腹がよく空くから、ご飯でも食べに行こう。
いつもの通り、テレスさんのカフェまで足を運び、サンドイッチでも食べに行こう。
今更だけど、私がネタで考えた超適当なキャットーストが意外な人気を見せていることに気づいたんだけど、誰が買ってるの?
まぁ買ってくれるのはありがたいけど。
自分の店にこう何度も足を運ぶのはどうなのか?って思わなくもないけど、そこは好きにさせてほしい。
美味しいものを美味しいと言って、何が悪いの?美味しいものを食べに行って、何が悪いの?
美味しいものを食べられない人達は、人生損してると思う。
この熱量で、ご飯の話だなんてお笑いだね。
私が歩いてると、明朗な声が聞こえてくる。
ちょっと難しい言葉使ってみたけど、私のキャラに合わないね。
「ロアはどう思いますか?」
「いっ、…いいと、思います……」
「やっぱりロアもそう思いますよね!」
あれはロアとネル?なんで2人がここに?
ロアはなんか顔が引き攣ってて、空返事のように聞こえる。
貧乏してたロアには、貴族の娘は辛いのかな?
仕方ない。助け舟を出してあげよう。
「ロア、ネル。そこで何してるの?」
「「ソラお姉ちゃんっ!」」
ロアは私の介入に、歓喜の声をあげる。
そんなに、貴族の娘は心にきたのかな?
領主の娘ってことは、総理大臣の娘と話せって言われてるようなものか。
……胃に穴が開きそうだ。絶対に嫌だ。何されるか分かったもんじゃない。
そういうことだね。私はネルのことも、フィリオのことも知ってるけど、ロアはそうじゃない。
ロアは一般市民で、貴族とは何の関わり合いも無い。
そんな状況で話せって言われて、逃げ出してない時点で偉い、のかな?
「見てください、ソラさん。」
ネルが突然そういうと、何か黒いものを上に持ち上げる。
それはふわふわしてて、耳があって、尻尾もあって……
「にゃ~~」
にゃ~~と鳴く。
「ねこ?」
「そうです。ねこです。くろねこさんです。」
くろねこの隣に顔を置いて、にっこりと微笑む。
……まぁ、可愛いけど。可愛いけど、(どっちがとは言わないけど)くろねこがどうしたの?
私は無心のままくろねこの頭を撫でた。くろねこは「うにゃぁ~」と、気持ちよさそうに目を細める。
「このくろねこさんを、お父様に飼っていいかと聞いたら『お前にはまだ早い』や『黒色は縁起が悪い』と言って、飼わせてくれないんですよ。」
ぷんすかやぷんぷん、みたいな擬音語が当てはまりそうな風に怒る。
今のフィリオは大変だからね、ねこの世話までは出来ないんだと思う。
主に、私のせいで。
「まぁ、頑張って。」
私からかけられる言葉なんてないから、そんな言葉をかけた。
人の家庭事情に首を突っ込むほどバカじゃないよ、私は。
どこからか、お前はそのバカだろってツッコミが聞こえた気がする。
そこ、黙っときなさい。
「それにしてもなんで2人が一緒に?」
くろねこのことでまた何か聞かれたらめんどく…答えづらいので、話を変えることにした。
「友達だからですよ。友達、ねっ!」
「はっ、はい……はい⁉︎」
ロアはどう答えればいいか分からないのか、狼狽えている。
「2人とも、いつから友達になったの?」
少し意地悪かもだけど、そんな質問をしてみる。
「何を言っているのですか、ソラさん。友達というのは、いつからなるものではないんです。友達は、いつの間にかなってるものなんですよ。」
ロアの腕を取り、大きな微笑と共にまるで名言でも言うかのように言ってきた。
「そうだね。」
私は永遠にくろねこを撫で続けていた右手を、今度はネルに向ける。
「ロアも、ネルが友達になろうって言ってるんだから、領主の娘じゃなくて友達として接してあげて。
残った左手を、今度はロアの頭に持っていき、2人を抱きしめるようにわしゃわしゃ撫でた。
2人とも生まれも階級も違えど、ただの子ども。
権力を武器で何でもかんでもしようとするような人もいるけど、ネルは違う。
市民と領主の娘、普段混じり合う事はないけど、決してないわけじゃない。
純粋な子どもには、ただ好きなようにのびのびと遊んでほしい。
ロアにはそういう繋がりを持っていてほしい。下心ってわけじゃないけど、仲良くはしてほしい。
全部私の願いで、私の勝手で……
これは私の、エゴなんだと思う。
でも、そんなエゴが伝わってほしいと、私はただ頭を撫でた。
一通り撫で終わり、二人は見つめ合った。
少しの沈黙の後、ロアが口を開く。
「フェ、フェルネール様?」
「違います。友達なんですから、私のことはどうぞネルとお呼びください。」
「ネっ、ネル様!」
ロアは意を結したように、胸の辺りで手を添えて叫んだ。
「今はそれでいいとしましょう。これから、いっぱい遊んで、いっぱい話して、様をとっていってください。」
この間のロアの笑顔にもひけを取らないほどの、明るく元気な笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見たロアは、「はい!」と元気に返事をして笑みを浮かべた。
それは決して安堵の笑みでも無ければ、作り笑いでも無い。
正真正銘の、心からの笑顔だった。
その光景を見ていると、誰もが2人の間に大きな壁があるんだとは気づかないだろう。
それくらい2人の笑顔は、2人の世界は大きく、大きく広がっているんだ。
———————————————————————
市民と貴族。身分は違えど今はただ、普通の少女。
今回はロアとネルが友達になるということで、少しだけいい回にしてみました。
まぁ私の文章力じゃここまでが限界ですね。
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