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3章 魔法少女と水の都

66話  魔法少女は報告を忘れる

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 今日は暇だったので、久しぶりに冒険者ギルドに寄ることにした。

 流石に昼時に行ったので冒険者の数は少なく、がらんとしたテーブルを通り過ぎて、ボードの方に向かって歩く。
 いい依頼は、もう取られちゃったかな?

「あっソラさん、やっと来ましたか。」
ファーテルさんが、受付の机を乗り越えるようにして言ってくる。

 やっと来た?あ、まぁ最近ギルドには顔出してなかったからかな?
 だからって、いちいちそんなこと言う?

「早く依頼達成の手続きするので来てください。」
ファーテルさんは手をくいくいっと、手招きをしてくる。

 依頼、達成……え、なんかしたっけ、私。
まさか、寝ぼけて依頼を受けちゃったとか?それだったら、達成したかどうか分からないよね?

「えっと、私何か依頼受けてました?」
「えっ?」

「竹林の……依頼、受けてましたよね?」
「あぁぁぁぁぁぁぁ‼︎!」
私は依頼を受けていたことをようやく思い出し、大声で叫びをあげる。
ファーテルさんは顔を顰めて、指で耳を閉じる。

 報告に行くの忘れてた……
こっちに戻ってきたのって、どんくらい前だっけ。

 確か、1週間くらい……

「……すいませんでした。」
私は体が90度くらい曲がるくらい曲げ、それと一緒にゴンッ、と音も鳴る。

「ちょ、ソラさん?大丈夫ですか?」

「だ、だいじょぶです。」
私はおでこを抑えながら、ギルドカードを差し出す。

 早く、依頼達成の確認をしてもらおう。
流石に1週間は待たせ過ぎた。

「道を作りだしったていうのに、全くソラさんは……」

「道の話、知ってるんですか?」

 結構急ぎの話だったから知らないと思ってたけど、どこルートの情報なんだろう。

「ギルマスが話してましたよ。『依頼を受けておいて、達成確認の前に道作りとは…』って。」
ファーテルさんはギルマスの声真似をして、笑いながら教えてくれる。

 地味に似てて笑えてくる…これってじわじわ来るパターンの笑い?

「ソラさんがあの竹林に入ったのは、このギルドの職員なら大抵は知っていることなので、ちゃっちゃと済ませちゃいますね。」
私が冒険者登録をした機械(商業ギルドにもあったやつ)に指を走らせ、ものの10秒ほどで確認が終わる。

 速っ、そして早っ。
これがプロフェッショナルの仕事……
 というか、私はなんでプロって略さなかったんだろう?
 とうとう、私でも私が理解出来無くなってきた。

「ありがとうございます。」

「どういたしまして。ソラさんは、何か依頼を受けにきたんですか?」
ギルドカードを渡すと、いつものスマイルを浮かべながら話を始める。

「まぁそうですね。簡単な魔物討伐をやろうかと。」
別に隠す必要も無いので、素直に答えた。

「最近盗賊の事件が多くて、ギルドは対応に追われてるんですよね。」
椅子にどかっと座り、机に顔をつけて枕にした。

 それ、私の前だからまだいいけど、ギルマスとか来たらバレるんじゃない?
 まぁ一緒に喋ってる私が言うのもなんだけど。

「…それはお疲れ様です。」
こういう時の返答の言葉の持ち合わせが無いから、コーヒーを出しながら言ってみた。

 コーヒー渡したら、それは暗にもっと働けと言ってるようなものじゃない?

 流石にこの世界の人には、そういう風には伝わらないからよかったと、私は小さく息を吐く。

 ファーテルさんはそれを見て、『ありがとう』と一言呟き、私をチラッと見た。

「そんな潤んだ目を見せられても、盗賊討伐はしませんよ。」

「酷いですね。私はまだ何も言ってませんよ。」
怒ったように眉を寄せ、腕を前に組んだ。

「じゃあ何を考えてたんですか。」
「え、ソラさんに盗賊の件をなんとかしてもらおうと考えてました。」

「それ、考えてるじゃないですか。」
私は、美味しそうにコーヒーをこくこくと飲むファーテルさんに、ジト目を向けて言った。

 自分でジト目とは言ったけど、ジト目とはどういう目のことを指すんだろう?

 こういう時に、グー○ル大先生がいたら分かるのにな。
 ステッキにグーグ○の機能追加されないかな?

「いやいや、流石に世界観が合わない。」
自分のそんな案を、小声で漏らして首を振る。
ファーテルさんはコーヒーを飲むのに夢中で、私の声には気づいてなかったみたいだった。

「おい、喋るのはいいがサボるのやめろよ。」
すると裏口の方向から、聞き覚えのあるさっき笑いかけた人の声が聞こえる。

 これは、正真正銘ギルマスの声だよね。
やばい、思い出すとまた……

 呼吸を、そうだ呼吸を整えれば…
いちにーさんしー、にーにっさんしー…いや、それは準備体操の掛け声。

 そんなボケを挟みつつ、私は大きく深呼吸をした。

「サボってませんよ。休憩してるんです。」

「だったら裏に行け、裏に。」
両手に張り紙?みたいなものを持っているギルマスは、顎で方向を指し示す。

「そうしたら喋り相手がいなくなるじゃないですか。」

「そもそも仕事中に世間話をするな。」
「してませんよ。情報提示をしているだけです。」
ファーテルさんは、机に寝ながらもギルマスと口喧嘩的なものを始める。

 確かに盗賊の話とかされたけど……まさか、休むために利用された?

「ギルマスの手に持ってるそれ、また盗賊の事件ですよね。」
寝ながら器用に指を、ギルマスの持ってる張り紙に差した。

「はぁ、そうだ。同じ盗賊団が幾つにも分かれたり、統合されたりするから特定に時間もかかるしな……全く、仕事を増やしてくれる。」
少しご立腹の様子で歩いてくるので、さっさとここから退散することにした。

 バレないように、忍者のようにそっとギルドを出た。
 ギルドを出たけど、なんの反応も無いね。気づかれなかったのかな?

 私は今日ギルドに来た目的を忘れ、散歩に戻ってしまったのである。

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 盗賊の仕事はソラさんの肌に合わないようです。




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