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2章 魔法少女と竹林の村
55話 魔法少女は楽しむ
しおりを挟む私が色々と探索しているうちに、もう夕暮れ頃になっていた。
「えっ、もうこんな時間?」
私は濃いオレンジに染まった夕日を見上げ、焦りの声を漏らす。
もうアボデルさんの家にいかなきゃ行けない時間じゃん。
もう始まってるのかな?
「早く行かないと……」
少し小走りになり、アボデルさんの家の方向へ向かう。
久しぶりに、ご馳走が食べられるんだから、遅れるわけにはいけないよね。
まぁ、旅館で色々食べてたんだけどね。
ここの料理は美味しいけど、エリーの料理が恋しくなってきた頃だ。
帰ったら、宿屋でご飯食べよう。
って、今からご飯食べに行くっていうのに、なんでエリーのご飯の話になったの?
「そんなの知らないって、ツッコミが来そうだね。」
そんな謎の台詞を呟きながら、私はアボデルさんの家に向かって走る。
アボデルさんの家に着くと、入り口は開け放っていて、何人もその中に入っていく。
「もしかして、もう始まっちゃってる?」
私もその列に入り、家の中に入る。
「おう、ソラ。あんたも来たか。」
「トレンストさん、こんばんは。トレンストさん、もしかしなくても、酔ってますよね。」
頬を薄く紅潮して、うまく口が回っていないトレンストさんに向けてそう言う。
「いやぁ、酔ってねぇ…」
ちょっとふらつきながら立ち上がり、酒の瓶の口の方を持って、上に上げて言う。
いや、普通に酔ってるよね、それ。
「トレンストさん、もうそんなに呑んで……はい、水です。水飲んでください。」
「ぃらねぇ…よ、んなの。」
チャールさんが水を持ってやって来て、酒瓶を取り上げる。
「ちょっ、返せ。」
「返しません。返したらまた呑むじゃないですか。」
「いいだろ…」と言いながら、腕を伸ばして取ろうとするけど、酔っ払ってふらつく足ではうまく立てず、諦めて水を飲み干す。
「今日があるのは、ソラさんのおかげなんですから。ソラさんの前でそんなに呑んで、格好悪い姿を見せたらダメですよ。」
「わぁってる……」
チャールさんが、まるで母親のように叱りつけて、酒瓶を少し遠めのところに置く。
そんなとこに置いても、酔いが覚めたらすぐの飲み始めると思う。
まぁ、ここは食事の席なんだし、お酒禁止なんて可哀想だ。そう考えれば、対処療法で充分なのか。
みんな、楽しげに食べてるなぁ。
笑って、呑んで、笑って、食べて。
「これが、私が守ったものなんだね。」
私は小さく笑みをこぼし、自分の席に着く。
ロア達も、救われたのかな?
私が勝手に色々したけど、あれでよかったのかな?
いい事って分からないね。
自分ではいい事と思ってても、相手からしたら悪いことかもしれない。
アニメとかで、『正義の反対は正義』って言う言葉を聞くけど、実際自分が同じような立場に立ってみると、そうなんだなって実感する。
でも、今回はみんな嬉しそうだし、やってよかったと思う。
今回のことで調子乗って、上から目線で人を助けたり、自分の正義を振り翳したりしないようにしよう。
そうしたら、私は人として終わりだと思う。
「ソラさん、食べないんですか?」
「あっ、ちょっと考え事してて。」
今はそんな暗いこと考えないで、この食事を楽しもう。
私はそう決心し、手を箸にかける。
そこからは、もう早かった。
手が勝手に動いて、食事の数々を箸がつかんでいく。
それが勝手に口に運ばれ、胃の中に収納されていく。
まるで胃がブラックホールになったみたいに、それはそれは食べ続けた。
なんでだろう?手が本当に止まらない。魔力を使い過ぎて、それを補おうとしてるとか?
確かに今の魔力量は、全体の3、4割くらいだけど、食事で魔力って回復するものなの?
そんな疑問を、ご飯と一緒に飲み込む。
「ソラさん。よく食べますね。」
そう聞いてくるので、私は口の中にあるものを飲み込んで、こう言う。
「なんででしょう?私も知りたいです。」
「……」
チャールさんは苦笑しつつ、自分もちまちまと摘んでいった。
「魔法使いって凄いですね。あんな怪物を倒せるなんて…」
「この村に、魔法使いはいるんですか?」
多分いないと思うけど、一応確認程度に聞いておく。
「いません。僕も、いつか使ってみたいです。」
楽しそうに笑って言った。
チャールさん。この世界の魔法は、とんでもなく弱いから、使ってもカロォークなんで倒せないよ。
って、上着の回収忘れてた……予想外のことがあったから、そんなことは完全に忘れてたよ。
あと、この村の人達は、私の格好について何も言わないね。
みんなが、こんな反応ならいいのに。
「私が、特別なだけですよ。普通、魔法は弱いんですよ。」
そのせいで、弱いって思われることもあって、とチャールさんにそう教えた。
「そうなんですね……でも、僕らはソラさんの強さを知っているので、そんなことは思いません。」
「ありがとうございます。」
そんなことを話していると、アボデルさんが何かを持って、こっちにやって来た。
「ソラ殿。この酒、呑んでみるか?」
えっ、アボデルさんも酔ってる?呑んでやる、みたいなこと考えてた私が言うのもなんだけど、未成年にお酒を勧めるのっていいの?
「アボデル村長‼︎ソラさんの歳じゃ、まだ呑ませちゃダメでしょう⁉︎」
「大丈夫だ、これは酔いにくい酒だからなぁ。」
「そう言う問題じゃないです」と怒りながら、席に戻していく。
さっきからチャールさん、注意してばっかだね。
大変そうだね。頑張れー。
私も手伝えって?嫌だよ。
酔っ払いを相手にするのは、もう御免だ。
あの光景が蘇って来て、少し食欲が失せてきた。
そこでチャールさんが、「大丈夫ですか?」と言って、水を出してくれる。
それを、短くお礼を言って飲む。
「それにしても、やっぱりソラさんのその髪、綺麗ですよね。」
私の青い髪を見て、チャールさんが呟いた。
「そうですか?……今は、あんまり好きじゃないんですけどね。」
そう言って、残った水を全て飲み干す。
「どうしてですか?そんなに綺麗なのに。あっ話すのが嫌でしたら、構いませんよ。」
気を遣ってか、そう言ってくれる。
「話してほしいんでしたら、普通に話しますよ。」
そう言って、私は昔のことを思い出す。
それは、日本での出来事。
それも、まだ幼少期の頃の。
流石に日本のことは、話せるわけがないので、濁して説明する。
それは、私がまだ幼稚園児だった時の事。
———————————————————————
次回、ソラが自分の髪が嫌いな理由が明かされます。そしてここに書くことが思いつかなくなって来ました。
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