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2章 魔法少女と竹林の村
54話 魔法少女は村に戻る
しおりを挟む「大丈夫ですか?ソラさん。」
私に肩を貸してくれているチャールさんが、私を心配するように聞いてくる。
「大丈夫ですよ。ちょっと魔力使い過ぎただけなんで。」
出来る限りの笑顔で答えて、チャールさんについていく。
今日はいっぱい食べて、いっぱい寝よう。
それから少し経ったら帰ろうかな。
そんなことを考えながら、ゆっくりと歩いて村を目指して歩いていく。
竹藪だから動きにくいところもあるせいで、歩くのが遅くなるね……
早く休みたいけど、壁が立ち塞がる。
…ステッキを杖代わりにすれば、もっと早く動けるんじゃない?
空いている方の手で、魔法少女服に刺しているステッキを取り、杖代わりにする。
「お、いい感じ。」
「どうしたんですか?」
私が独り言を言っていると、チャールさんが反応する。
「ステッキを、杖にしたら歩きやすいかなって。」
ステッキ、少し上に上げて見せる。
そんなことをしている間に、竹藪から出ていて、村が見え始めていた。
そこには、村人達が不安そうにソワソワしながら、キョロキョロ顔を覗かせる姿があった。
「皆さーん、帰りました!」
チャールさんは、この距離でも村人達に見えるよう、大きく手を振って大声をあげる。
「おぉ帰ってきたか、チャール!」
アボデルさんがそれに気づき、こっちに走ってきた。
「それで、どうだった?」
「カロォーク討伐は完了させました。」
私はチャールさんの肩から手をどかし、倒れそうになる体を無理矢理制御し、立って言う。
それを聞いた村人達は、驚きながらも今にも叫びそうな状態だった。
「「「うおぉぉぉぉぉぉ‼︎」」」
訂正。『叫びそう』じゃなかった。もう叫んでた。
口々に喜びの言葉や、感謝の言葉。中には泣いている人もいた。
えっ、泣く?これで泣く?そんなに事態は深刻だったの?
「あの、今聞くのもなんですけど、カロォークが与えた損害ってどのくらいなんでしょう……?」
気になったので、アボデルさんにそう聞いてみる。
「そうだな……竹の伐採が出来なかったから、ほとんど全てにおいて危ない状況だった。不安で外に出たがらない者もあったしなあ……」
まだ私が来る前の村の状態を思い出したのか、なんとも言えない表情で、空を見上げていた。
今日は雲ひとつない快晴。
まるで私の勝利を、太陽が祝福してるみたいに。
「皆、ささやかではあるが、今日はワシの家で食事をしよう。今家にある酒を、浴びるように飲もうではないか‼︎」
「よっしゃー!久しぶりに呑めるぜ!」
「豪華なご飯なんて、久しぶりね。」
「これで竹の伐採にも行けるな!」
「ごはん?わーい、やったー。」
と、村人達は喜びを声量で表す。
凄い声量だ……
この人数で、アイドルのコンサート会場みたいな音量だよ。(行ったことないから予想だけど)
「時間になったら、家に集まってくれ。」
そう言ってアボデルさんは、準備のためか家の方に戻っていく。
「よう。ソラだったか?」
「あっ、トレンストさん。」
服のポケットに、両手を突っ込みながら話しかけてくる。
「カロォークを討伐してもらい、感謝の言葉しかない。柄でもねぇが、ありがとう。」
頭を少しだけ下げて、私にそう言った。
あのトレンストさんが、私に頭を下げる?どういうこと?風邪でもひいた?
「なんだ、その困惑した目は⁉︎」
「だって、急に頭下げられても…」
それも、トレンストさんに。
「いや、あんたが言ったんだろ。感謝しろって。」
私は記憶を辿り、ようやくその時の記憶を思い出す。
「あぁ、言いました。確かに言いましたね。」
「忘れてたのか…」
トレンストさんは、私を呆れたような目で見てきてから、はぁ、とため息を吐いて帰っていった。
いやぁ、若いといっても油断ならないね。こういうところでド忘れしちゃってるんだもん。
人の名前を覚えられない私は、とうとう自分の言葉すらも忘れてしまうようだ。
将来が、不安になってきた。
「その時は、魔法でギリ?」
そんな、誰にも聞かれない独り言を呟いて、私は村をウロウロする。
魔力もちょっとは戻ってきたし、歩けるようにもなった。
時間まで暇だし、適当に探索でもしよう。
「結構賑やかだね。笑顔も増えた。」
その光景を見ていると、自然と私も笑顔になってくる。
自分がしたことで、こんなに笑顔になる人が増えるなんて、嬉しいね。
あぁ、ロアは今頃、何してるのかな?ロアの笑顔が懐かしく感じてきた。
それでも私はまだ、こっちの世界に来てから一ヶ月とちょっとしか、経ってないんだよね。
「自分の感覚で言うと、もう何年もいるみたいだね。」
おっと、流石にここを聞かれたら、説明が面倒くさくなるから止めておこう。
誰かに聞かれたくないしね。
流石に、こんな時には私のフラグ建築は発動されなかったらしく、私の平和は保たれた。
いつか、ロア達にも言わないといけない日が、来るのかな?
「まぁ、その時はその時。今は今のことを考えよう。」
「どうしました?」
「えっ⁉︎チャールさん!」
私は安心しきっていたけど、甘かったようで、独り言が聞かれてしまった。
こう言うところも含めて、フラグ建築をしていたってこと…?
もう、フラグが立つようなことは言わないで……これもフラグか⁉︎
いろんなところにフラグが撒かれていて、すぐに引っかかってしまう。
「独り言です。それで、いつアボデルさんのところに行けばいいか、分かります?」
いつものように華麗にスルーし、秘技の話題逸らしでなんとか乗り切る。
「夕方前から夜の未明までだそうです。」
夜が明けるまで食事会……それは食事会っていうの?
これ、酒に酔った人から、順に退場して終わるんじゃない?
「じゃあ、時間になったら行きますので、また。」
「はい、また後で。」
そんな会話を交わして、私達はそれぞれの方向に歩き出す。
また私は道をぶらぶら歩き始め、何かないかを探す。
「ん?何あれ。行ってみよう。」
こんな風に、時間まで自由気ままに探索をした。
———————————————————————
ソラはこれからお食事会です。
もうすぐ終わり、と思ってません?まだまだこの2章は終わりませんよ。
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