48 / 681
2章 魔法少女と竹林の村
47話 魔法少女は逃げる(戦略的撤退)
しおりを挟む私がそう言うと、チャールさんが竹を投げた。
その竹にぶつかったカロォークは、一瞬の隙を見せた。
えっ、チャールさん⁉︎何してるの?もしかして、隙を作ってくれた?
なら、この隙を利用しない他ない!
「チャールさん!そこに止まってて!」
そう言った瞬間、私は神速にて駆け抜ける。
いつもよりも、何倍も、何倍も速いスピードで進んでる気がする。
これが、覚醒の力?ここで覚醒の力を試してみたいって気持ちも、無いくは無いけど、ここは安全第一だよね。
チャールさんもいるんだ。ここで危険の一手を打つ必要は、私は無いと思う。
「ちょっと、失礼します。」
私はお姫様抱っこの要領でチャールさんを抱え、上に跳ぶ。
「ウィンドカッター!」
カッターでは無くなったけど、ウィンドカッターで風を引き起こし、自分の体を飛ばす。
次は、自分の靴に風を纏わせ、竹藪に空中を蹴って入り込む。
こうすれば分からないでしょ。
そのまま神速で竹藪を掻い潜りながら、移動を始める。
このままジグザグに動いて、村の方向に走り抜ける。
「ちょ、ソラ、さん⁉︎」
「黙ってて。舌、噛むよ。」
神速の光を漏らしながら、こうして光のレベル(本気出したらの話だけど)で動いてるんだから、とんでもなく速い。
そんな状態で喋ってきても、全然聞こえないし、黙ってとしか言いようがない。危ないし。
竹々を蹴り台にして、曲がって逃げ続ける。
それから間も無く、(1、2秒も経ってないけど。)村の中心あたりについて、私はチャールさんを下ろす。
「怪我、ありません?どこか痛むところとか。」
「いえ、大丈夫です。それより、ソラさんは⁉︎」
私の片手をとって立ち上がり、そう聞いてくる。
「大丈夫ですよ、大丈夫……で、す…」
その時、私は倒れて、意識が飛んでしまった。
————————————
……あっ、チャールさん‼︎
「って、ここは!えっ、どこ⁉︎ここ。」
私は布団に寝かされていて、その布団をバンッとめくって、左右に首を振る。
「ソラさん!」
私の隣には、アボデルさんとチャールさんがいて、起き上がったすぐに大声を出す。
「あの、頭に響くんで、やめてください。」
頭を手で押さえながら、2人に言う。
覚醒の影響か、スキルの調子もあんまり良く無いし。ちょっとステータス見てみよう…
攻撃500 『-250』 防御500 『-250』
素早さ700 『-350』 魔法力1180+1『-590』
魔力1210 『-605』
なんか『』に囲まれた数字がある。それに-が書かれてて…ステータス半減ってこれのこと?
なんか、体も重いし。だるい。
これは数日、戦いなんてできそうも無いね。(治んなかったらね。)
まぁ、策ぐらい練っておこう。
「ソラさん?どうしました?あの…」
「あっ、すいません。なんですか?」
ステータスの方に気がいってしまって、話を聞いてなかったから、そう聞き返す。
「これから、どうしますか?と言う話なんですけど。」
「あぁ。その話ですね。」
布団から出て、座り直してからそう返す。
それなら、みんなで策を練りたいね。1つ思い浮かんでるけど、私1人じゃできそうも無いしね。
私の策は何かって?それは後でのお楽しみ。
「じゃあ、話し合いの場を用意してくれませか?ちょっとみんなで話し合いをしたいので。」
そう、アボデル村長に許可をもらおうと聞いてみた。
「ソラ殿の言うことだ、明日、用意してみよう。それまでは、安静にしていてくれ。チャール。お茶を。」
「はい。分かりました。」
そう言って、お茶を取りにチャールさんは部屋を出る。
「では、明日の準備のため、戻らせていただく。」
じゃ、私はもう一眠りといきましょうか。
明日は、ちょっと狩に出かけたいし、(ある魔法を創りたいからね。)私だってまだ、全快とは言い難い。だから、もう少し休みたい。
ちょっと力使いすぎちゃった。私とは、っていうか、大半の人にとっても、カロォークとは相性が悪い。
私には、あんまり高火力魔法がない。(全てにおいて高火力でしょっていうツッコミは無しね。)
そして、電撃だけ、唯一ダメージを負わせることができた。
私が使える電撃系は、ファイボルトしかない。
低SPで、高火力の攻撃をするには、この前の水蒸気爆発みたいな感じにしないとね。
流石にあれじゃ、効がないと思う。全体じゃなくて、こう、なんだろう。単体を狙った攻撃じゃないとね。
そんな風に考えを巡らせて、私は布団に潜っていく。
「ソラさん、お待たせしました。」
この前出してくれたお茶を、私の隣に置く。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。僕にできることなら。」
憂いを帯びた、消え入りそうで、哀しそうな声で言う。
何かあったのかな?
「あの時は、何も出来ず、迷惑ばかりかけてしまい、本当にすいませんでした。」
その場で、小さく頭を下げて謝罪をする。
「別にいいですよ。チャールさんは、戦えないんですから。」
「違うんです!」
そうじゃ、ないんです…説明しづらそうな、そんな感じで下を俯く。
「あの時、思ってしまったんです。ソラさんがいれば、逃げられるって。」
はは、と薄く笑って、また俯く。
「ダメですよね、何も出来なくて、それに、あわよくば逃げ出そうなんて考えていた、こんな僕なんて…」
「普通じゃないですか。」
私は、布団に入りながら、あくまでも平然を装い、そう言った。
今のを聞いて、はぁ?って気持ちがゼロなわけではない。でも、それでも、チャールさんは結果的に、私を助けてくれた。
竹を投げて、注意をひいてくれた。
「人間って生き物は、大体、命の危険に晒されたら、本能が先走る物です。生きたい。死にたくない。そうやって。」
でも、と。先の言葉を続ける。
「チャールさんは違いました。『終わりよければすべてよし』とはいきませんけど、結果的にはチャールさんは行動を起こし、命の危険の前に、立ち塞がったじゃないですか。」
「でも、僕は!」
「それを、私は許したい。でも、自分で自分を許せないと言うなら、その罪を、あなたの墓まで、持っていってください。」
それがあなたの、贖罪となるなら、私はすぐにお茶を飲み、美味しいですね。と、場を濁す。
私は、ここまで人を許そうと思ったことはない。だから、こんな時どんな言葉をかけてあげればいいか分からない。
綺麗事を並べたって、きっとチャールさんは救われない。他人に許してもらっても、自分が許せないのだから。
永遠に消えない罪を背負う。それを贖罪として、私は提案をする。
それが1番、私とチャールさんが納得できる妥協点だ。
この世界で、こんないざこざは初めてだね。
明日は、今日のことは忘れて、いつものように接しよう。
それが、私の中でも、チャールさんの中でも、1番の選択だと思う。
———————————————————————
哀しみを胸に、眠りにつく。
覚醒の設定を変えました。
今回は、珍しく重い感じの回でしたね。
まぁ、時間からはまた、ゆるゆるの感じでいかせてもらいます。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる