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1章 魔法少女と異世界の街
30話 魔法少女は面接官 2
しおりを挟むさっきのティリーの面接が終わるのが、少し早かったのか、待ち時間が多い。
まだかな、私って待つのはあんまり好きじゃないんだよね。
後、どのくらいで来るのかな?
「来ませんね、全然。」
テレスさんは、机で頬杖をついてそうこぼした。
やっぱり、テレスさんでも遅いと感じるんだね。
「ギルマスーまだー。」
私は、子どものようにそう言ってみた。
「そのくらい待ってろ。」
「はぁ」と、ため息をついて確認に行った。
そうやって、私たちのことを気遣ってくれるあたり、いい人だよね、ギルマス。
だから、ギルマスなのかな?
「はぁ~、ちょっと眠くなってきたな。」
いや、ダメだダメ。面接官の私が、こんな風じゃ威厳がない。
私は軽く頬を叩いて、眠気を覚ます。
「もう来るぞ、準備しておけ。」
また、さっきと同じように、壁に背中を預けて目を閉じた。
ようやく来るのかー。体をグッと伸ばして、眼鏡をクイっとしてかけ直す。
「テレスさんも、準備しといて。」
私は横で頬杖をしているテレスさんに言った。
「分かりました。俺に、出来ることはない気がしますけどね。」
そう言って乱れた髪と、痕のついた頬を、消そうとしている。
すると、コンコンと扉が叩かれた。
よし、声を作るぞ。
あーあー、アメンボあかいなあいうえお。
そもそも口に出してないから、意味があるかは知らないけど、こういうのは、気分の問題だよね。
「どうぞ。」
私は、声のトーンを数段階下げて言う。
「はい。」
すると、そこにはとても16歳とは思えないほど、落ち着いた男の子と、これまた38歳とは思えないほど、美人さんが入ってくる。
「そこに、腰掛けてください。」
「分かりました。」
2人は私の指示に従って、椅子に座った。
「お名前を。」
私は、男の子の方から聞いた。
「はい、僕はレインです。こっちは母の」
「ネトラーです。」
レインとネトラーさんか。
レインの方は、薄めの群青色の髪に黒めの目をしている。
ネトラーさんは私より薄めの青色だね。
「私は空です。こちらは、店主のテレスさんです。それでは、面接を開始したいと思います。」
2人は少し、畏まった感じになって、背筋を伸ばして座っている。
「えー我が社で働きたい志望動機を。」
まぁ、ヤバすぎる人以外は普通に採用するんだけどね。
「僕らは昔、レストランでの経験があるので、そういう関係の店で働きたいと思いまして、」
「私がここのお店に、こう、ビビッときてここに決めたんですよ。」
軽い感じでにこやかに答えた。
ビビッとね。ビビッと。
まぁ、なんでもいいけど。
「僕も面白そうだな、と思い、母の案に賛同しました。」
そう落ち着いた様子で理由を述べた。
この緩い感じの母親から、よくこんな落ち着いた子が産まれたね。ビックリだ。
「我が社では、住み込みで働いてもらいたいと思います。初任給は、銀貨18枚。それからは22枚で、年を追うごとに上がっていきます。」
そうやって、給料の話を伝える。
「定休日が週に2日。値段や品、接客の仕方などは、この資料を見て下さい。」
そう言って私が作った資料と、レンカを渡す。
「あの、このカードは?」
ネトラーさんはレンカを見て不思議そうに尋ねてくる。
この世界に、7枚しかないレンカだからね、知らないのは無理もない。
「このカードから、採用、不採用の連絡を伝えますので、ご協力を。」
眼鏡をクイっと持ち上げて、そう言った。
「それでは、お帰りいただいても結構ですよ。」
すると、2人は私の言葉に従って立ち上がる。
あっちょっと言い忘れてたことがあった。
危ない危ない。
「もし、採用された場合、翌日に我が社にお越しください。調理を教えますので。」
私の言葉に「はい」とレインが答えた。
これって確かティリーに言ってなかったね。
2人が帰ったら、ギルマスに伝えておこう。
レインとネトラーさんが扉を開けて「ありがとうございました」と、言って帰っていく。
「終わったようだな。」
ギルマスは目を開けてそう言ってきた。
あっ起きてたんだ。ほんとに寝てると思った。
「俺の出番が、またなかったですね…」
ハハハ、と、薄く笑っていた。
…なんか、すみません。
「で、どうする?採用するのか?」
ギルマスは、壁から離れ、私たちの方に来て、そう聞いた。
「採用するよ。元々、変な人じゃない限り、全員採用するつもりだったし。」
私は、かけていた眼鏡を外し、この前メガネと一緒に作った、眼鏡ケースに仕舞い、収納した。
フードももう、被ってもいいよね?
そう思って、フードを被った。
この街の人たちも、多分私の格好は忘れてると思う。だから、フードが外せる日も近いね。
「なんだ、その嬉しそうな顔は。」
おっと、顔に出てたみたいだ。
魔法少女服も、もっとこう、露出が少なければ着れるんだけど、(効果が強いから進んで着ると思う)あれだからね。
「まぁ、俺からは頑張れとしか言いようがない。人気が出るといいな。」
「開店する時は手伝ってやるよ」と言って帰ろうとする。
ちょっと待ってギルマス!伝えたいことがあるからストップ!
「待って待って、ティリーに、採用された時は、次の日に店に来てって言っといて。」
帰ろうとするギルマスに、焦って早口でそう伝えた。
「はいはい、伝えておこう。」
そして、今度こそギルマスは帰っていった。
「…それじゃあ、俺たちも帰りましょうか。」
テレスさんは立ち上がり、扉を開けて外に出た。
私もそれについて行き、途中で預けていたロアとサキを、迎えにいって来る。
サキは楽しそうに、テレスさんにくっついて、ロアは私に面接はどうだったか聞いてきた。
だから私は、「いい人たちだったよ」と言っておいた。
優しい人たち(面接した感じだけど)だったから、ロアも安心して店に行けるね。
採用は決まって、料理とか覚えてもらうのに、時間がかかりそうだから、暇つぶしに依頼でも受けようかな?
そんなことを思いながら、ロア達と、帰っていく。
私は宿屋だから、途中で別れたけどね。
———————————————————————
面接官ソラ、終了しました。
仕事が終わった後のご飯は格別ですから、ソラもエリーの料理を美味しくいただいてるんだと思います。
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